真実
いつも読んでくれてありがとうございます。作品を書いている七瀬というものです。
ここまで読んでくれているということは今回の話で碑文の答えが判明します。ささやかなものですが、謎解き(?)に挑んでいる人もいるかと思ったのでネタバレ防止の警告をしておきます。
ちなみに、謎の答えに納得できない人も出るかもしれないのでそれについては章の最後にでも説明させてください。
長々とするのもどうかと思うので、ここら辺で……続きの話をお楽しみください!
「まず1つ目の『自ずと備わるモノ』ですが、これは成長する毎に自然と身についていくもの……つまり、"自己"であり"自我"であると考えました」
「ふむ……1つ目は正解だね。まぁ、これくらいは分かってもらわないと託すのを躊躇ってしまうよ。さて、次はどういう答えかな?」
試すような物言いをするアインハルトに気圧されることなく、クロノベルトは自分の考えを述べていく。
「2つ目の『決して切れぬモノ』――これは始め、物質的なものなのかと考えました。だけどいくら考えようが、そんなものはこの世の中にいくらでも溢れかえっていることに気付いた時、物質ではないんじゃないかと考えたんです」
「ほう。物質ではない、と。それなら、その切れないモノとは一体何なのかな?」
「切ろうとしても決して切ることが出来ない繋がり――"家族"という決して途切れることがない血の繋がりです」
「……正解だ。少し掻い摘んだことを言うと、家族は何も血の繋がりだけではない。固く結ばれた信頼関係があれば血は繋がっていなくても家族の縁は存在する……それは分かるね?」
アインハルトの言葉にクロノベルトは同意すように深く頷く。
それを見たアインハルトは嬉しそうにしながらも、どこか意地悪そうにクロノベルトへ再び問い掛ける。
「さて、残りは2つだ。だけど、残りの2つはそう簡単に解けるほど――」
「3つ目の『近くて、遠きモノ』……それは家族以外で身近にいる存在――共に行動したり時には競い合ったりもする"友人"であったり、尊敬し教えを乞うこともある"師"と呼べる存在です」
アインハルトが言い終わるよりも先に、クロノベルトは口を開き次の答えを言い放つ。
その様子にもアインハルトは顔色一つ変えずに冗談めかして言い返す。
「……見事正解だ。少し捻った問にしたつもりだったが、なかなかどうして」
「確かに、普通に考えたらよく分からない問ではありますが、今までの問いの法則に気付けば自ずと答えを導き出すことが出来ました」
「ほう……。法則に気付くことが出来たか。それなら、もう冷やかす必要もない……では、最後の答えを聞かせてくれるかな?」
茶番はもう終わりというようにアインハルトはクロノベルトの考えている答えを言うのを待つ。
そんな様子を見たクロノベルトは肩を竦めながらも自分の考えを口にする。
「今までの問はいずれも"精神的なもの"を説いていました。そのことから考えて、4つ目の最後の答えである『一生の内に手に入るモノ』も精神的なものに関係したものになる。だから、最後の答えは――」
「……答えは?」
「困難があっても共に乗り越えることが出来る存在――"仲間"というどんな時でも頼りになる存在です」
「ほう……それがキミの答えか。だが、さっきキミが答えた友人と今答えた仲間は一緒の意味なんじゃないのかな? そんな答えでは僕を納得させることは出来ないよ」
「確かに、友人も仲間も似たようなものなのかもしれないです。でも、明確な違いはあります。それは、友人は一緒に楽しさや嬉しさといったものを分かち合う存在なのに対して、仲間は共に志を掲げて目的を達成する存在だからです。だから、例えいがみ合っていたとしても志が一緒なら仲間と言えることです」
「なるほど……。どちらも苦楽を共にする者ではあるが、片や目的を共にする存在なのに対し、片や心を許せる存在か――うん、合格だ! 見事、キミは僕のいう≪力≫を示した。これで誰もその子の傍にいることに文句をつける者はいないだろう」
穏やかな表情で拍手をし出したアインハルトとは別に、クロノベルトは何故か浮かない顔をしている。やがて、何を思ったのか目を閉じてしまった。
そして、拍手が鳴り止むのを合図に目を開くと、徐に口を開けた。
「……待ってください」
「……何かな? これ以上ない完璧な答えだ。それとも、この答えにキミは納得がいっていないのかな?」
「はい。そもそも、この4つの答えはあなたの求めている≪力≫ではないですよね? ……真の答えは、別にある」
クロノベルトの突然の申し出にもアインハルトは戸惑った様子を見せることはない。それどころか、むしろ期待に目を輝かせるように彼が次に言うであろう言葉を促すのだった。
「真の答え、ね……。なかなか面白いことを言うね。そこまで言うのならキミの考える≪力≫というものが何なのか――それを聞かせてもらおうか!」
アインハルトに問い掛けられたクロノベルトは何故か黙り込んでしまう。
そうこうする内に、2人の間に静寂と緊張感が漂い始める。
やがて考えが纏まったのか、その静寂を破るようにクロノベルトはゆっくりと口を開く。そして、自分の考えを確かめつつ、言葉を選んで口に出すのだった。
「今までの答えは自分という存在から始まり、自分に関係した精神的な繋がりのあるものを説いたものです」
「そうだね。自分にとって大切なものを見つめ直す為に課した問題のつもりだった。……それを、キミは根底から覆せるとでも思っているのかい?」
「出来ますよ。確かに、あなたの考えた問題は一見すると法則があり、関連性はあるように見えます。だけど、それにしては答えがあまりにもバラバラすぎて一体何を求めているのかが分からない、ということに気付きました。だから、他の意図があるんじゃないのかと考えたんです」
「他の意図、ね……。では、4つの答えは一体何を示してるっていうんだい?」
「この4つの答えというのは――真実の答えに導くための『鍵』になるんじゃないですか?」
「ほう……鍵、か。仮に、その4つの答えが鍵なんだとして、それを一体どのようにする気なのかな?」
「さっき、4つの答えはバラバラだと言いましたが、関連性はあります。だから、それぞれを結び付けることにしてみたんです。そうして、全ての答えを1つに繋ぎ合わせると1つの答えに辿り着くことが出来ます」
「なるほど……キミの言う通りだとして、その答えとというのは一体何になるというんだ?」
「……あなたが本当に求められていた答えの≪力≫とは――≪愛≫、です」
クロノベルトが言った答えに呆気に取られたアインハルトは彼の答えを否定するかのように言葉を吐き出す。
「愛、愛ね……。それこそ、荒唐無稽な答えじゃないか。根拠のない答えで到底納得出来るものじゃない」
今までの態度とは打って変わって、まるでクロノベルトを馬鹿にするかのように鼻で笑う。しかし、そんなアインハルトの態度に目もくれずにクロノベルトは言葉を続ける。
「さっきも言ったように、それぞれの答えを愛に結び付けます。そうすると、家族は世間一般で言う『家族愛』というように呼べます。そして、仲間や師弟になるんですが――これはこう考えられませんか? 本当に大切だと思っているんだったらその人に情が沸く……『友愛』であったり『師弟愛』といったように言い表せます」
「なるほど。確かにそう結び付けることが出来るね。だが、最初の自己や自我に関してはどう説明する気だい?」
「それは、愛というものを語る上で一番必要なものじゃないですか。自分を大切にし、信じること――『自己愛』という、家族に想われて形成される愛の形が。自分を大切に出来ないやつは、誰かを大切にしたり尊重したりなんて出来ないです」
「……そうだね、その通りだ。しかし、その自己愛も行き過ぎれば自己陶酔になったり独り善がりになってしまう。己を過信しすぎる者はいずれ身を滅ぼすことになる……だから、重々気を付けないといけないね」
次々と答えていくクロノベルトに対し、アインハルトは満足気に彼に笑いかける。
そして、今の状況を愉しむような表情を浮かべたのも束の間、悪戯を思いついた子供のような表情でクロノベルトに問い掛けるのだった。
「さて、いよいよ本当に最後だ。4つ目の仲間――これはどう答える? キミはさっき言っていたね。いがみ合っていても成立する、と。そうすると、愛に結び付けるのは難しいんじゃないかな?」
「確かに、4つ目の答えには悩まされました。なので、一旦考え方を変えてみたんです」
「考え方を変えた……?」
「はい。何も、仲間という言葉に囚われる必要なんてない。意味が似ていて言い方を変えたもの――そう考えたとき『伴侶』という言葉に辿り着きました。伴侶とは、仲間であると同時に自分の将来の結婚相手という感じに紐解けます」
「なるほど……そう考えると、ずっと一緒にいることを誓うことになる。つまり、一緒にいるためにはお互いを信頼し合い、愛しむ必要がある、と……。よく、ここまで答えを導き出したね」
張り詰めていた空気を払うように、アインハルトは人懐っこい笑顔でクロノベルトへ笑い掛ける。
しかし、その様子を見てクロノベルトは頭を振って否定する。そして、続け様にこう口にした。
「いえ、あなたのお陰でここまで辿り着くことが出来ました」
「僕のお陰……? それは一体どういう――」
「実は、この部屋に入ってからも、最初に言った4つの答えが本当の正解だと思っていたんです。だけど、あなたと言葉のやり取りをしている内に別に答えが用意されているんじゃないか、と考えたんです」
「僕が言った言葉に……? キミに気取られないようにしていたはずだが……どこでそう思ったんだい?」
「あなたの、ヒルデ卿に想い馳せる表情やこの子に寄せる眼差し――極め付けは、僕に言った『自分にとって大切なものを見つめ直す為に課した』という言葉でこの答えに辿り着きました」
「つまり、僕の言動から読み解いてその答えを導き出したっていうのか……」
クロノベルトが口にした言葉を聞いたアインハルトは面食らったようにぽかんとしてしまう。
やがて、肩を震わせると我慢の限界だというように高く笑い始める。今の状況が心底愉快なように嬉しそうに笑う。
その様子を見たクロノベルトは肩の荷を下ろすように一息吐く。
笑い終えたアインハルトは興奮気味にクロノベルトを食い入るように見ると、穏やかな表情で彼に話し掛ける。
「僕の負けだよ。キミを見縊っていたわけではないが、まさかそこまで見聞きしていたなんてね。僕の見込みの悪さや油断もあったとはいえ、そこからもう1つの可能性を探り当てるとは思わなかったよ」
アインハルトの言葉にクロノベルトは不安そうに言葉を返す。
「無効、になったりはしないんですか?」
「ならないよ。そもそもこのやり取り自体、あくまで確認のためのものだからね。元から備わっているのなら何の問題もないんだよ。むしろ、僕が一本取られたくらいだ」
クロノベルトの問い掛けを笑い飛ばすと、続けるように口にする。
「この問いはね、ちゃんと意味があるものになっているんだ。愛という視えない力を持っているのは前提として、1つの答えに固執しない柔軟な考えや発想力を確かめるためのものなんだ。だが――キミにはその素質があるようで一安心だ」
「……ありがとうございます」
改めて心から称賛するようにアインハルトはクロノベルトへ拍手をし称える。
しかし、当のクロノベルトはまだ何か浮かない顔をして納得をしていないかのような様子をしている。そして、何を思ったのかアインハルトへ質問を投げ掛けるのだった。
「1つだけ、聞きたことがあります」
「ん、なんだい? キミは僕の予測を見事に超えてくれたんだ、何でも答えよう」
「僕にその力……愛があるからこの扉を開くことが出来た――そう捉えていいんですよね?」
「そうだね、その通りだ。キミにはちゃんとその力が備わっている。……それが何か問題でもあるのかな?」
「いえ、それはおかしいんですよ……。だって、僕は2つ目の――」
「家族愛がない、と」
まるでそう言うだろうということが分かっていたかのようにアインハルトはぴしゃりと言い切った。
しかし、そのことにクロノベルトは驚かず、自分の抱えているものをアインハルトに吐き出す。それはまるで神に懺悔するかのような許しを請うように、重い重い口を開く。
「僕はあの人――自分の父を、憎んでいます。そんな人物が、この扉を開くことが出来たのは多分、魔術の不具合だと思うんです……。さっきはこの子のことを手放さないと言いました。だけど、父を憎んでいるようなやつがこの子の傍にいていいなんて――」
「はっきりと言っておこう。あの扉はキミが思っているよりも厳重に封印を施してある。それこそ、不具合なんて起こらないようにね。だから、キミが父親を憎んでいる、というのは嘘なんじゃないかと思うんだ。死人の僕が子孫のいざこざに口出しをするつもりはないが、キミは本当は父親のことを憎んでいないんじゃないかな? むしろ……いや、やめておこう。これはキミ自身が気付くべきことだね」
自分の心と向き合ってもらうために、アインハルトは厳しくも優しく諭すようにクロノベルトへと語り掛ける。それに対して、クロノベルトは全然納得することはなくただ項垂れるばかりだった。
そんなクロノベルトを嘲笑うかのように、アインハルトの身体が段々と透け始めた。
「おっと。いい感じに時間が来たようだね」
そう言っている間にも、アインハルトの身体は薄くなっていく。どうやら、自分の掛けた魔術の限界が来たようだ。
「言い残すことがない――と言いたいところだけど、正直不安なところはある。だが、きっと彼女が力になってくれるだろう」
アインハルトは何かを懸念しているようだが、そのことも想定済みのような口振りで呟く。
そして、これからの身を案じながらも、安心させるように期待を込めて言葉を投げかける。
「これから先、キミたちに様々な試練が訪れることになる。だけど決して折れない心と、強い意志を持ち続ければそれも乗り越えることが出来るだろう。何ていうのかな……これは勘なんだけど、キミたちなら大丈夫だ、ってそう思うんだよ。僕としては、その行く先を見ることが出来ないのは残念だけど……。まぁ、後のことはキミに任せることにするよ――クロノくん!」
「っ!? 何で僕の名前を!?」
「あの世でキミたちのことを応援しているよ。それじゃあ――」
そう言い残すと、アインハルトは跡形もなく消えてしまった。
後に残されたクロノベルトはしばらく呆気に取られていたが、やがて誰に聞かれるでもなく言葉が漏れてしまう。
「あの人は、一体どこまで知っていたんだ……?」
そう呟いたが、その問いに誰も答えてくれることはなかった。




