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アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第2章 遠い日の約束
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後継者の資格

「それじゃあ、キミがその子の"後継者"になるための諸々の注意点やその子について、軽く説明させてもらうよ」

 アインハルトの言葉にクロノベルトは同意するように頷き返す。

「とはいえ、僕もあまりその子のことについては詳しくないから目醒めた時にでもその子に聞いてみてほしい。最初は警戒されるだろうけど、何度も接するうちに自然と話してくれるはずだ。僕とヒルデみたいに、ね――」

 そう言ったアインハルトはどこか懐かしむように目を細める。

「そうそう、僕の日記でも一応大体のことは書いてあるから後で読んでおいてくれると分かるはずだ」

「あの、話を遮るようで悪いんですが……、さっきから後継者がどうとかって言っていますが、それってもしかして……」

「ん、ああ。キミの後ろで眠っているその子の事だよ」

「――ということは、やっぱりこの子は"人形"、ということでいいんですか?」

「そうだね。見た目的には確かに人間に見えなくもないだろう。だけど、その子は正真正銘彼女の最期の作品であり、()()()()――と言っていた子なんだ」

 そこまで言ったアインハルトは付け加えるように話を続ける。

「先に言っておくと、いくら人形といってもちゃんと僕たちみたいに自分の意思があり、行動することが出来る。考えたり、悩んだり、苦しんだりもする……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()不思議ではないだろう」


 信じられない話が続く中、クロノベルトは今自分が思い描いている疑問をアインハルトに投げかけることにした。

「……聞けば聞くほど疑問が出てくるんですが、ヒルデ卿は"女性"だったんですか?」

 クロノベルトの意外な言葉にアインハルトはきょとんとした顔になる。少し考えこむと訝しむように質問の答えを返す。

「そんなことを聞くということは……、彼女は今まで男だと想われていた、ということなのかな?」

「そう、ですね。僕たちは今までそう教えられてきましたので……」

 それを聞いたアインハルトはさも可笑しそうに笑う。

「ははは、彼女がそれを知ったら怒りそうだ。でも、もしかしたらそういう風に伝えられたのは僕のせいでもあるのかもしれないな……。うーん、そうだな……。それを正すのかそのままにするのかはキミに任せることにするよ。で、他に気になったことというのは何かな?」

「はい。今、眠っているこの子が本当に僕たちみたいに歩いたり喋ったりするのか? ということなんですが……」

「それは僕も初めて知った時は驚いたよ。だけど、ヒルデだったらそれが出来るだろうとは思ったから不思議でもなかったかな」

「……それほどの実力があったということなんですか?」

「ああ。僕でも足元に及ばないほどにね」

 はっきりと言い切る彼の口調には決して卑下した物言いではないことが分かる。

 アインハルトだけでもすごい実力だというのが分かるのに、その彼ですら実力を認め、絶対の信頼を寄せるほどの人物に思わず息を吞む。クロノベルトはその事実に思わず顔が引きつりそうになるのを必死に堪える。そして、深く息を吐き落ち着くと、もう1つ気になった疑問を口にした。


「この子が人形だということは、この子自身にも魔力が存在していると考えていいんですか?」

「ああ、そうか。そのことを話しておかないといけないね。まずは、その子の動力源について説明するよ。その子の身体の中には()()()が入ってあるんだ」

「|魔導具!? ちょっと待ってください! この子の中にそんな物騒な物が入っているんですか!?」

「そうだよ。……キミが考えていることは何となく分かるよ。魔導具は様々な形状をしている――それこそ、()()()とも呼ばれるくらいにね。これはヒルデに聞いたんだが、どうやら道具の形状だけじゃなくて石状のものも存在するようだ」

「確かにそのことも考えはしました。でも、そうじゃなくて……僕が言いたいのは――」

「魔導具とは本来、()()()使()()()()()()、と――」

「っ!? そう、です……」

「キミの言いたいことも分かるよ。兵器に使われたりする物を組み込んだりするのはどうかしている、と――だけどね、道具も、力も、使い方次第で善にも悪にもなるものだ」

「……要は、使い方を誤らなければいい、と?」

「それもそうだが、力そのものを知ることも必要だろう。恐れるだけ恐れてそれを知ろうともしないのは愚の骨頂だ。もしかしたら、その中で有用なものもあるかもしれないだろう? よく言うじゃないか、"魔術師よ、探求を怠るべからず"と――」

 アインハルトの言い分は尤もだ、というようにクロノベルトは俯き考え込む。やがて考えが纏まったのか、肩を落とすとアインハルトに向き直り言葉を返す。

「……"魔術師よ常に柔軟であれ"、とも謳われていますからね。いくら危険なものだからといって、何も理解を示さずに否定していてはそのモノの本質が見えてこない。理解し、その上で危険なものだと判断したのなら使わないようにしたり遠ざけたらいいのかな、という考えに至りました」

「ふふ、頭の堅い子じゃないようで安心したよ。人間は歳を取るとどうにも頭が堅くなりがちだからね。僕たち魔術師だと尚の事ね」

「すみません、話の腰を折るようなことをして……」

「いや、キミたちの世代だと当然の反応だろうから気にする必要はないよ。デリケートな問題だから、()()とでも呼べば良かったかもしれないね」

「いえ、後で知るよりも今知ることが出来て良かったです。あの……もう1つ、聞いてもいいですか?」

「何かな?」

「この子には、その……」

 今まで物怖じせずに聞いていたクロノベルトにしては歯切れの悪い物言いになってしまった。アインハルトはそんな様子のクロノベルトを静かに待ち続ける。

 やがて、意を決したようにアインハルトに問い掛ける。

「……この子には()()()()()、と考えていいんですか?」

 緊張した面持ちのクロノベルトを真っ直ぐと見据えたアインハルトは肯定とも否定とも取れる曖昧な答えを言うのだった。

「それは、分からない……。僕の知っている2人は少なくとも魔導具を用いるような兵器――高濃度の魔力の塊を剣などにして使っていたと記憶している。ただ――その子に限って言えば、使ったところを全く見たことがないんだ。だから、あるのかもしれないし、ないのかもしれない……。こればっかりはその子に聞かないと分からない、とだけ言っておくよ」

「そう、ですか……。ないに越したことはないですけど、もしあったのならどういうものか知っておきたかったですが、それなら仕方ないですね」

「力になれず、申し訳ない……。もう少しその子と仲良くなれていたら良かったんだけどね。そうすれば、あんなことには――」

 後悔するような口調で言ったアインハルトは当時を悔やむように難しい顔をしてしまう。やがて、嫌な記憶を追い出すかのように頭を振るとクロノベルトに向き直り、力のない笑顔で頼み込んだ。

「ごめん。今のは忘れてくれ。いくら後悔したとしても、起こってしまったことは取り消せないからね……。キミは僕のようにならないようにその子とは仲良くなってほしいと思っている」

 力なく微笑むアインハルトの頼みに、クロノベルトはただ静かに頷くしかなかった。

「さて、話を戻すけど……魔導具があることから、滅多なことじゃ魔力切れに陥ることはないとは思う。ただ、それでもなくなってしまうことはあるだろうから、その時は僕たちみたいに休息を取るのも1つの手だ。もう1つは、キミが魔力を分け与える、というのも選択肢に入るだろう」

「そこは僕たちのように一緒の対応でいいんですね」

「そうだね。ちなみに、これは余談だけど……もしその子の魔力が空っぽ状態に近付くと彼女の意思とは関係なく半強制的に眠りにつくことになっている。その時は半日くらい眠らせていたら魔力が戻るはずだから心配しなくてもいいよ。まぁ、そんなことがそうそう起こるとは思わないけど、一応ね」


 一通り説明を終えたのか、アインハルトはひと息吐いてクロノベルトの反応を眺めている。

 粗方の話を聞き終えたクロノベルトはというと、もう一度眠っている少女を見る。とても穏やかに眠っている少女を見て、信じられないかのように呟く。

「……本当に人間みたいですね」

「そうだね。でも、その子が人形だということは紛れもない事実だ。まぁ、僕たちと決定的に違うところは、血液や発汗機能が存在しないことだね。つまり、滅多なことでは死なない代わりに、嬉しくても哀しくても涙を流すことはないってことなんだ」

「それは何だか、辛いですね……」

「そうだね……。当時は戦争をしていたからその方が都合が良かったとはいえ、その子は戦争が終わった後に出来た子だ。だから、ヒルデはそのことを悔やんでいたよ……」

 アインハルトも、ヒルデも、当時はいろいろあったのだと想像したクロノベルトはその言葉に押し黙ってしまう。

 そして、今まで見聞きしたことを思い出しながら疲れたように言葉を吐く。

「はぁ……。俄かには信じがたいですけど、どうやら夢じゃないみたいですね。やっぱりあの時に止めておけば良かったのかもしれないな……」

「まぁ、信じられないと思うけど、キミは小さい頃――いや、これはいいか」

 アインハルトは何かを言おうとしたが、すんでのところで止めてしまう。そして、話を逸らすかのようにクロノベルトのこれからを案じるような言葉をかける。

「まぁ時間は一杯あるんだ、これからゆっくり知っていけばいいよ」

「……1つ、気になったことがあるんですが、いいですか?」

「答えられる範囲なら何でも」

「確かに、僕はこの棺の封印を解きました。その時に魔力も吸われたのであなたの言った通りだとしたら、しばらく経つと起きるのかもしれません。でも、だからといって僕がこの子の後継者になる、とは限らないんじゃないですか? 例えば――僕がこの子のことを手放したり、この子が僕の元から去ってしまった場合だとどうしようもないと思うんですが……」

「……そうか。確かにキミの言うことも尤もだ。僕としては……いや彼女としても、かな? どちらかというとその子の面倒を見てくれると助かるんだが……。だけど……、そうか。そう切り出されるとは思わなかったな……。それは少し予想外だったよ……」

 クロノベルトの問い掛けに対し、アインハルトは心底残念そうに苦笑する。その様子を見たクロノベルトは慌てて自分の言った言葉を訂正する。

「あっ、いえ。継承しないというわけじゃなくて、ただ単にそういうことになってしまったらどうするのか知りたかっただけなので……」

「ふむ、なるほど……。どうやらもう先のことを考えているみたいだね。僕の予想よりも斜め上をいっていたか」

 クロノベルトの言葉に納得し頷くと、アインハルトは又もや嬉しそうに笑う。そして、クロノベルトが知りたいであろう問いの答えを言うのだった。

「さっきの問い掛けの答えだけれど……初めは警戒されるだろうけど、その子がキミの元から去っていくようなことはないと思う。これは何となくだけど分かるんだ。賭けてもいい」

 まるで冗談を言っているように聞こえるが、どこか確信しているかのようなアインハルトの言葉にクロノベルトは納得することにした。

 そして、今自分が置かれている状況に観念するかのように言葉を返す。

「少し不本意でしたが、封印を解いてしまった責任はありますからね。それに、このまま放っておくことは何か嫌な感じがするので……」

「責任感や義務感か……。そんな脆弱な意志だといつかは破綻するかもしれないけど……初めの内はそれでいいのかもしれないね。ただ――」

 そこで一旦話を区切ると、先ほどまでの飄々とした態度とは打って変わって、アインハルトは真剣な面持ちでクロノベルトに向き合う。そして、懇願するように頭を下げた。


「その子を()()()()()()()()()だけはしないでほしい」


 今までとは違い、心から人形の少女のことを想っている一言に、クロノベルトは一瞬飲まれそうになる。しかし、そんなアインハルトの言葉に一切詰まることなく、クロノベルトは彼に言葉を返す。

「それだけは絶対にしません! それに、さっきはああ言いましたが、責任や義務なんかじゃないです。何て言ったらいいんだろう……。そう、この子とは多分ここでこうして出逢うことになっていたと思うんです。だから、僕はこの子を手放したりしません。それに、この子が望むことを僕は手伝ってあげたい、ってそう思うんです」

 それはまるで初めからそう言おうと思っていたかのようにすらすらと口から零れていた。

 クロノベルトの言葉にアインハルトは目を細めると笑い出した。楽しそうに、嬉しそうに笑うアインハルトにクロノベルトは恥ずかしくなり俯きそうになる。だが、俯いてしまっては自分の言ったことが間違いになるような気がしたので俯かず、しっかりと前を見据えるのだった。

 クロノベルトの視線に気付いたアインハルトは気まずそうに笑うのを止める。そして、胸を撫で下ろしたような清々しい顔でクロノベルトへ言葉を贈る。

「いや、ごめんごめん。この子の後継者がここまで頼りになる人物とは思わなかったんでつい笑ってしまってね。うん。キミになら安心してその子を任すことが出来そうだ! 是非とも、その子の力になってあげてほしい!!」



 と、ここで重要なことを思い出したアインハルトはそれを口にする。

「そういえば、この部屋に入ることが出来た……ということは僕が説いた≪力≫がキミには備わっているということだ。しかし、それが何であるのかキミは理解し、自覚しているのか気になってね。そこでだ! キミがどういう答えを導き出したのかを聞いておきたい!」

 アインハルトの問い掛けにクロノベルトは頷くと、自分が導き出した答えを言うのだった。

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