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アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第2章 遠い日の約束
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アインハルト

「女、……の子?」


 棺の封印を解くと、その中に居たのは大体10~12歳くらいの女の子が(うずくま)るように眠っていた。

 服装は黒を基調とした幾重にも重なったフリルで、今の時代ではあまり見ることのない服装だ。髪型は奇麗な銀色をしているのだが、その銀色の中に所々(あか)みが掛かっていて不思議な印象を与える。肌は陶磁器のように白く美しく、顔も年齢の割に非常に整っている。人間とは思えないその様相につい、目が奪われてしまったクロノベルトは呆然と立ち尽くしてしまう。


 そんな時間も束の間、すぐに意識を戻すといつ襲い掛かられてもいいように身構える。しかし、その心配はすぐに消えさってしまう。どうやら少女は深い眠りについているらしく、簡単に起きそうになかったからだ。

 そこで、クロノベルトは眠っている少女のことについて少し考えてみることにした。

 この棺には"最愛の親友の人形"と書かれていた。そのことから考えられるのは眠っている少女が()()なのだということが言える。確かに、少し不思議な見た目をしているが、その眠っている少女の姿は何処からどう見ても()()にしか見えないのだ。

 そんな少女をクロノベルトは更に観察する。しかし、いくら観察してみても人間にしか見えない少女に困惑し、戸惑うばかりだった。


 そんな戸惑っているクロノベルトの後ろから突然拍手の音が響き渡る。それに驚いたクロノベルトはすぐさま振り返り身構えるが、後ろに立っていた人物を見るや否、驚いて言葉を出せなくなってしまった。

 何故なら、拍手をしていた人物というのは自分によく似た男が立っていたのだから――



「おや? まさか身構えられるとは思わなかったな。でも歓心、歓心。何時、いかなる時も警戒を怠ってはいけないからね」

 拍手をしていた男はそう言って笑うと、興味深そうにクロノベルトのことを見つめる。まるで品定めをするかのような視線にクロノベルトは思わずたじろいでしまう。

 やがて納得したかのように頷くと、嬉しそうな表情でクロノベルトに話し始めた。

「とりあえず、おめでとう! その子は今日からキミの"モノ"だよ。"モノ"って言うのは何か違うな……。まぁそれでも、ようやく()()()が見つかって僕も嬉しく思うよ」

「あ、あなたは一体……?」

「ん? あれ、もう分かっているものだと思ったけど……、分からないかな?」

 男は芝居がかったように小首を傾げる。そんな男に戸惑いながらも、クロノベルトは重い口を開く。

「いえ、一応ですが何となく分かります。……でも、有り得ないんですよ――」

「有り得ない、とは?」

「あなたが今、この世に存在していることが、です」

 そう言われた男は愉快そうに笑い始める。そんな様子にクロノベルトはあっけからんとしてしまい更に困惑しそうになる。

「あーいや、ごめんごめん。そうだね……確かにキミの言う通り、僕は"生きている"存在ではない」

「それじゃあ――」

「この世には普通では起こり得ないことなんて沢山あるだろう? それこそ、僕が今ここに存在しているようにね。だから、有り得ないなんてことはこの世には存在しない、っていうことさ」

「……と、言うことはあなたは幽霊、ということになるんですか――アインハルトさん」

 アインハルトと呼ばれた男は幽霊なのかと聞かれると、ますます可笑しそうに笑う。一頻(ひとしき)り笑うと人懐っこい笑顔でクロノベルトに言葉を返す。

「アイン、でいいよ。まあ、キミの好きなように呼んでくれていい。それにしても幽霊、か……。確かに、今の状態はそう言われてもおかしくはないのかな?」

 そう言ったアインハルトは自分の体を少し眺めた後、クロノベルトに向き直る。

「幽霊じゃないんだったら一体……」

「んー、そうだね……僕のことは別にいいと思うんだけど……。今の僕がどういう存在なのか分からないと話が進みそうになさそうだね」

「……すみません」

「いや、謝る必要はないよ。ここに居て封印を解いた、ということは当然キミも魔術師なんだろう? だったら、あらゆる事象を知りたいと思うのは不思議でもないからね」


 満足気に頷いたアインハルトは今の自分の成り立ちを教えるためにクロノベルトに説明を始める。

「さて、それじゃあ簡単に説明するよ? まず……、キミは人間がどの様に構成されているのか分かっているかな?」

「どの様に、ですか? ……水やたんぱく質、カルシウムや――」

「あぁ、そっちじゃなくて……、精神論――僕らで言うところの魔術で、っていうこと」

 問を正されたクロノベルトは恥ずかしがりながらも改めて質問の答えを言う。

「肉体と魂、そして精神……ですね」

「正解。――で、僕がそれを今聞いたということは、それらのどれかに該当するからなんだ」

「どれかに該当する、ですか……。魂……だと思想や感情などを表すことが出来ないから、精神が該当する……?」

「半分正解。まぁ少し間違いがあるとしたら、魂でも感情を表すことが出来る、というところかな?」

 実際に目の当たりにしているとはいえ、アインハルトの言っていることに納得出来ない、といったようにクロノベルトは訊ねる。

「でもそもそもの話、精神だけをこの世に留めておくなんてことは可能なのですか? 今いる魔術士でもそのようなことを成し遂げた人物なんて聞いたことがないのですが……」

「うーん……それはさっきキミに言った通り、()()()()()()()()なんてことはない、っていうことだよ。とはいえ、これを実現するにはいろいろ制限や決まり事が厳しいから好き好んでやろうとするやつなんていないと思うけどね」

「滅茶苦茶ですね……」

「まぁ、無茶でもなんでも、どうしても成し遂げないといけないことだったからね」

「……そこまでこの少女が大切なんですか?」

「大切さ。何より、ヒルデの頼みだったからね」

 ぴしゃりと言い切ったその言葉にクロノベルトは何も言い返すことが出来なかった。 


「そうそう、精神体だから僕に触れることは出来ないんだよね。まぁ、僕も触れる事は出来ないんだけど」

 空気が重くなるのを察したアインハルトは、おどけるように自分の今の状況を茶化す。そんなアインハルトの気遣いに悪いと思い、クロノベルトは笑顔で返すことにした。

 重要なことを思い出すかのようにアインハルトは急いで会話を切り上げる。

「仲良く談話したいのは山々だけど、さっきも言った通り、これには制限があるんだ。だから、もし僕が行なった魔術が知りたいなら後でこの部屋にある本を調べるてみるといいよ。さて――それじゃあ、そろそろ僕の話はここまでにして本題に入ろうか」

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