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運命のダイス~突如として宣告された婚約破棄の行方はいかに?こんなバカ王子はどうでもいいので、私は旅に出ればいいのでしょうか?~

作者: 蒼井星空

「婚約破棄だ!俺は運命の相手を見つけたのだ!」

「はぁ」


今日は学院の最高学年である3年生たちが集う夜会。

良く晴れた夜、空には美しい月が輝き、その周りには星々が瞬いています。

 

そんな夜に、学院の大広間では3年生たちが色とりどりの衣装に身を包み、期待感を垂れ流しています。

これは授業の一環でもあり、学院における重要なイベントの1つでもあります。


しかし、場の雰囲気を理解しない自分勝手で浮気し放題で頭の悪いレオン王子が私を見るやいなや高らかに宣言しました。

明るいブロンドの肩まである髪を靡かせたレオン王子は金糸で彩られた黒を基調とした格調高い衣装に身を包んでおられます。


さすがに見た目は良いですね。

10日に1人くらいの頻度で運命の相手を見つけているだけのことはあります。


しかし、婚約破棄ですか。そうですか。

そんなこと、あなたに決定権がないことはご存じない……のでしょうね。

学院の成績も下から数えた方が早いくらいなのに、王族というだけで加算を受けられて、それでも真ん中より下のあなたには。


知っていますか?あなたがバカにしている平民トップのアレン君などは加算0であなたより上……というか、全員加算なしなら学院トップなのですよ?

 

ここは王立学院。

広く未来ある若者を育てる名目で運営されていますが、実際には貴族は優遇され、王族はさらに優遇されているのです。

それでも真ん中より下……。

どうしてそんなあなたになびく女性がいるのか不思議なくらいのできの悪さなので、婚約破棄されるなら私はありがたいくらいなのですが……これはチャンスですね。


「お待ちください、王子様」

しかしながら、残念なことにそれを止める声が……メルロッド公爵令息のランス様ですね。余計なことを。

このまますんなりと話を進めてもらって構わないのに。

 

「待たぬ。私はリューナと結婚し、王となるのだ!」

うんうん。リューナというのが誰かわかりませんが、頑張ってくださいレオン王子。応援していますよ。

 

「まぁ、王子様」

そのレオン王子の言葉を聞いて、わざとらしく両手を両頬に当てて目をウルウルさせている女が呟きます。ありえないほど良く通る声で。

この女性が今のレオン王子の運命の相手ですね。


とはいえ、この流れは大丈夫でしょうか?

私はこの女性と面識はなく、例えば嫌がらせの指示をしたとか言っても接点あったのかなと疑われてしまうのではないかと思うのですが。

そうなるとレオン王子は何を頼りに契約である婚約を破棄するつもりなのでしょうか?

言質を取って、レオン王子の逃げ道を全て潰して、私は後顧の憂いなく婚約破棄を受けて未来に進んで行きたいのですが……。

  

「わかりました。婚約破棄と、リューナさんとの結婚ですね」

そこで『わかるな!』と言いたい衝動についつい駆られてしまいましたが、ちゃんと抑えました。

そのまま進めてください。期待してますよ、ランス様。


「では、運命とのことですので、私のユニークスキル"運命のダイス"でその評価を確認しましょう!」

「えぇ?」

それはまずいです。

そんなスキルを使われてしまったら正論でレオン王子の婚約破棄宣言すら潰されてしまいかねません……。

私のバラ色の人生が……。

 

「まっ、待て」

しかし、私と同じように王子様も慌てています。

なにやら後ろめたいことが?……って、後ろめたいことしかないですよね?そもそも私に一切の責任がない婚約破棄なのですから。


「王子様、"運命のダイス"は嘘はつかないと申します。ぜひ確認を。そうすれば私たちは安泰ですわ」

なにが安泰なのでしょうか?

豚小屋とも例えられる牢獄の中で一生飼ってもらえるとか、そういう意味でしょうか?

 

「あっ、あぁ」

ごめんなさ、笑ってしまいそうです。王子は"運命の相手"に良い顔をしたいのでしょうが、そもそもただの浮気なので焦ってそうです。

そもそもこの婚約破棄をどのように押し通すつもりだったのでしょうか?

勢いと根性なのでしょうが……。国王陛下……ちゃんと王子教育くらいはした方が良いのではないですか?

 

「"運命のダイス"よ!まずは王子とリューナさんの運命を!」

いや、ちょっと待ちなさいよ。

ランス様、性急すぎますわ。早すぎる男は嫌われますわよ?


しかしすでにスキルは発動しました。

ランス様の頭上に大きなダイスが出現して七色の光のもやを放ちながら回転しています。


その回転はゆっくりとしたもので、とても神秘的な光景です。

まさかこんなしょうもないことで、王国の秘術とも言われる公爵家のユニークスキルを見れるとは思いませんでした。

ちなみに、公爵家は王家とも血のつながりのある家々であり、各家がユニークスキルを保有し、王を守護し、国を盛り立てています。


私の実家であるディーザス公爵家であれば、"運命の審判"です。

効果は……今は関係ないので、また機会があればお話しします。

 

ぼんやりとダイスが作り出す光景を眺めている私たちに、頭上から声が降ってきます。

ダイスによる宣告ですわね。

はぁ……どんなことを言われるでしょうか?『苦難はあるが前向きに2人で力を合わせて頑張れば乗り越えられる』とか言ってくれないでしょうか?せめて、曖昧で捉え方次第で婚約破棄に持っていけるものを。


[ダイス]

ふむ……なぜこんな酷い組み合わせをわざわざ確認などさせるのだ。

そんなことをするまでもなく不幸になるに決まっている。

国王陛下が貴族のバランスに配慮して決定した相手であるシンシアとは比べるまでもなく却下だ。

2人が豚の餌になりたいというなら止めはせぬが。


「はっ?」

「えっ?」

「はぁ」

「あ~っはっはっは」

順番に、リューナという女性の驚き、レオン王子の呟き、私のため息、ランス様の嘲笑です。

勘弁してほしいのですが、ランス様はただの愉快犯でした。


「では、続いて婚約破棄の方は!?」

もう、賑やかしの実況解説みたいになっていますよ?

もう少しくらい取り繕ってください。恨みますよ?

私は少々力を込めてランス様を睨みつけますが、彼は一切こちらを見ずにダイスに集中しています。

蹴り飛ばしてもいいでしょうか?


 

[ダイス]

婚約破棄したいのか?

あぁ、なるほど。シンシア嬢がバカ王子に愛想をつかしたのだな。

それならば仕方ない。


幸せになるがいい、シンシア嬢よ。お勧めするとしたらまだ見ぬ相手……これから出会う相手の中で未来の伴侶を探すと良い。


それから、バカ王子よ。お前は終わりだ。

そもそも婚約の主導権はシンシア嬢……というか、エルレンダール公爵家にあるのだ。

にもかかわらず一方的な婚約破棄宣言などと気でも狂ったのか?

もう宣言してしまったのだからどうしようもないが、お前は廃嫡決定だ。




「なんだと!?」

「えっ?」

「はぁ」

「……そこは僕を勧めようよ。これから出会う相手限定なんて酷いよ僕のスキルなのに……(涙)」

順番に王子の怒り、リューナさんの呟き、私のため息、ランス様のよくわからない独白です。


えっ?ランス様、私に気があったとかですか?さすがにないですよね?えっ?

ごめんなさい、私、愉快犯な方はちょっと……。

そしてどうしてくれるのでしょうか、この場の変な空気を。

これなら淡々と婚約破棄の話を進めた方が良かったのではないですか?

 

などと思っていると、突然レオン王子がリューナさんとつないでいた手を放して私の方に向きます。


おぉ?これは期待できるかもしれません。

この方はなんといっても自分勝手ですから、今までの流れをすべて無視して強引にもう一度話を婚約破棄に戻してくれるかもしれません。


わかりました、その茶番に乗りましょう。

あふれ出そうになる笑みを噛み殺し、精一杯に真面目な表情を作った私は、『さあ言ってください』と言わんばかりに、少しだけ悔しそうに口の端を噛みながら王子に向かい合います。


いまここに歴史家や画家がいたら、さぞ名場面だと言わんばかりに讃え、描き残したことでしょう。

そんな心持でレオン王子の言葉を待ちます。


さぁ、どんな理由を改めて語ってくれるのでしょうか?

もう捏造でもいいですわよ?


思えば私はそのリューナさんに酷いことをしたかもしれません。

だって、存在すら認識しないのは酷いことでしょう?

もちろん、そんなことを責められたら後で賠償金を倍にする交渉のネタにしますが、今この場は取り繕えますわ!


頑張って!レオン王子!

人生ではじめてあなたを応援するかもしれません。


いえ、かつて1度だけありました。

私があなたを応援したことが。


それは婚約式でのことです。

あの時はまだ会話もしたことがなく、幼いながらにキラキラした可愛い人だなと思っていたのです。


そんな彼が、婚約指輪を私に嵌めてくれた時。

大人たちが見守る中で緊張気味だったので、応援したのです。


まぁ、その指輪すら『お前にはもったいなかった』とか言ってくるくらいどうしようもない人だったわけですが、もうそんなことはどうでもいいです。


さぁ!


 

「ちょっと考えたんだけど、やり直そう。まだ間に合うはずだ。

 俺は変な夢を見ていたんだな。

 そりゃそうだよな。

 こんな美しいシンシアがなぜか豚のように見えてたんだ。

 何かの魔法……いや、呪いかもしれない。

 すまなかった、シンシア。

 いや、我が妻よ。どうか許してくれ。

 俺はこれから誠心誠意真面目に忠実に父の後を継いで良い王になる。

 これは宣言だ。

 どうかその道を一緒に歩いてほしい。ほかではない、キミに」

「ごめんなさい」

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