第374話 勇者剥奪
女神を殺した。
いとも簡単に、深夜テンションのノリで考えた作戦で。
勇者の攻撃も効かないことが分かったので、もう警戒をやめ俺は次々と勇者を殺していった。
どうせあとで蘇生する。
一度殺した方が、玩具にしやすいからな。
そして勇者は残り一人だけとなった。
残った奴の名前は下次美並。
こいつはクラスで委員長をしていた。
クラスの連中は平気で俺に嫌がらせをし、常に侮蔑的な視線を向けてきたが、下次だけは一切それをしなかった。
あくまでも一クラスメイトとして接していた。
嫌がらせもなかったし、視線も普通だった。
嫌がらせを受ける俺に侮蔑するでも同情するでもなく、ただただ無関心だった。
割と人生の大半を他人からの悪感情を受けてきた俺にとって、それは珍しいものだった。
何か面倒なことでも、他のあいつらは笑うか無視するようなことを委員長として手伝ってくれた。
だから俺は下次美並を恨んでいないし、なんなら多少ではあるが恩を感じている。
ユアとユイも似たようなものらしく、下次に恩を感じているらしい。
ということで、下次は生かして逃がすなりなにか望みがあるなら出来る範囲で叶えてやろうと思っている。
そしていざ話すと、交渉がしたいと言い出した。
話を聞くと、どうやら下次は志水先生が欲しいらしい。
その欲しいがどういう意味かは、俺が聞く必要がないことだろう。
志水先生は死んだが、俺もユアとユイも志水先生に恨みはない。
何なら下次よりも熱心に俺達を気遣ってくれていた。
だから下次と先生は最初から生かす予定だったのだ。
さすがに自爆は予想していなかったが、どうせ全員後で蘇生自体はするから大差はない。
昨日まで俺の中で下次と先生の扱いは同じものだった。
だけど、今日、このタイミングで交渉を持ちかけることやその返答を含め俺は下次を気に入った。
だから肩入れしようと思う。
というわけで、下次に部屋と先生を蘇生して与えた。
後は上手くやるだろう。
一応、下次には俺の配下になって貰った。
下次は恐らく勇者の中で一番有能だ。
頭もいいし、回復能力やバフ能力と幅広いことが出来る。
回復とかバフはいて損はない。
下次は目的を果たせる。
俺は有用な配下を得れる。
win-winという奴だ。
ということで、下次と先生の話は終わった。
残りはこの死体、勇者達の処遇だ。
「とりあえず、牢屋にぶち込んでから蘇生しましょ」
「それがいいか」
ということで俺は『エリアテレポート』を発動し、魔王城の牢屋に勇者達の死体を転移させる。
『ヒール』
勇者達に回復魔法をかける。
それによって死体の心臓や神経が治る。
『リザレクション』
勇者達を蘇生する。
俺達なら蘇生するだけで後は勝手に再生系スキルが発動して時間さえあれば身体を癒してくれるんだが
こいつらにはそんなものないから先に怪我を再生しないとすぐに死ぬだけだ。
怪我も直したし、生き返らせた。
今は全員眠っているだけだ。
「それで、シン。どうする?」
「そうだな。まずは勇者の力を奪いたいところだ。さすがに逆境で覚醒とかされたら面倒だ」
「逆境で覚醒、あり得ないとは言えないのよねぇ」
感情というのは魂と深く繋がっている。
そのため、強い感情は魂の力を引き出したりする。
火事場の馬鹿力とかそういうのだな。
特に勇者の力はとにかく俺と相性が悪い。
一撃でも入れられればダメージを受ける可能性がある。
「ならシン。そいつらの力、私が貰ってもいい?」
「セーラが? 勇者の力をか」
「そう。上手くいけば私の『勇者』としての力を強化できるかもしれないでしょ」
「勿論構わないぞ」
「それじゃあ、遠慮なく『神器召喚:聖剣プロフト、聖剣コンプセーション』」
セーラは二本の聖剣を召喚する。
そして一番近くに転がっている生徒の両手に二本の聖剣を刺す。
『聖剣プロフトよ。この者に利益を与えたまえ。再生能力付与』
その瞬間、セーラから大量の魔力が聖剣を刺された生徒に流される。
聖剣プロフトは利益の聖剣、魔力を消費し対象に何等かの利益を与える。
『聖剣コンプセーションよ。利益を得た代償を支払わせたまえ、勇者剥奪』
その瞬間、生徒から魔力とは違う何かが二本の聖剣を通してセーラに流れ込む。
だが、数秒でそれは終わる。
聖剣コンプセーションは代償の聖剣、魔力を消費しプロフトで与えた利益に見合う力を代償として対象から剥奪する。
この二本の聖剣は対となっており、二本揃って真価を発揮する。
実質的にセーラは格下限定ではあるが、魔力さえ消費すれば対象から力を奪うことが出来るのだ。
セーラは二本の聖剣を引き抜いた。
「あら、駄目ね。勇者の力が魂と完全に融合しちゃってる」
「上手くいかなかったのか?」
「半分成功、といったところかしら?勇者としての力は奪えて私の力は増したけどこいつから完全に勇者の力を奪えてないみたい。正確には勇者の力が魂と融合しちゃって奪っても魔力と一緒にまたつくられていっちゃう。かなり速度はゆっくりだけど完全に剥奪するには時間がかかりそうね」
「ふむ、なら。こいつらを行かして捉えて勇者としての力を創ってもらおう。それを定期的にセーラが吸収すれば、セーラが強くなれる」
「それはいいわね。簡単に死なせるつもりはなかったし、ちょうどいい」
「シンとユアとユイがいいなら、そうしてくれると嬉しいわ。私としても勇者の力を強化するのって難しいから」
「よし、ならとりあえずセーラ。残りの勇者達の力も抜き取ってしまえ」
「そうしたいのだけれど、魔力の消費が予想以上ね。連続で10人が限界だわ」
元々利益と代償の聖剣は魔力の消費が多いからな。
無理もないだろう。
「なら私が『ハイマナヒール』でセーラに魔力を回復させる。私の魔力ならなくなっても魔王城の魔力ですぐに回復できるから」
「助かるわ」
「なら、セーラ勇者達についでにこの魔法も使ってみてくれないかしら?」
ミコがセーラに『メモリートレース』を発動する。
発言的に何等かの魔法の情報を共有したのだろう。
「こんな魔法も創ってたの?」
「えぇ、何かと便利かと思って。それにこれを創ったから『ゴッツイーター』の魔法を思いついたんだから。創って良かったわ」
「まぁ、確かに便利な魔法だし使わせてもらうわ」
セーラが先ほど勇者の力を奪った生徒に魔法陣を描く。
『マナイーター』
その瞬間、生徒の魔力が魔法陣に吸われていく。
更に魔法陣からセーラに魔力が流れていく。
「闇属性破滅級魔法『マナイーター』。対象から強制的に魔力を奪う魔法よ。格下にしか使えないけど、ロスなく魔力を奪うことが出来るわ。難点としてそれと同時に対象の痛みを与えちゃうけど」
「なるほど魔力を奪う魔法か。これの神力版が『ゴッツイーター』というわけだな」
「そういうこと」
『ゴッツイーター』は簡単に言えば神力を奪う魔法だ。
恐らく最初に『マナイーター』を創って、神力版にして更に色々改良したのが『ゴッツイーター』なのだろう。
そうしてセーラは勇者達の力を奪っていった。
それと同時に再生能力を植え付けて。
再生能力は単純に戦闘を行うならとても有用な力である。
だが、これから勇者たちが行うのは戦闘ではない。
勇者達には、勇者の力も、女神の助けも、魔力すらない。
そして居場所は魔王の城。
「それじゃあ、始めましょうか」
ユアが楽しそうに嗤う。
「精神属性上級魔法『グッドドリーム』」
ユアが精神属性上級魔法『グッドドリーム』を発動する。
この魔法は対象にとって良い夢を見させる魔法だ。
嫌なこと、不都合なことなんて何一つない人生で最高の夢を。




