第355話 異界の勇者1
リアルが本当に忙しい。
ピピッピピ
アラームが鳴る。
「は、はあう」
欠伸をしながらベッドから起き上がる。
アラームに表示されている時間は午前7時。
部屋から出て、顔を洗う。
「晴斗おはよう」
「おはよう母さん」
「おはよう。朝ごはん出来てるから食べちゃいなさい」
「分かった」
朝食を食べて、制服に着替える。
鞄の中には必要な物が全て入っている。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
いつも通りの時間に家を出て、駅に向かう。
「おはよう晴斗」
「おはよう美並」
電車を待っていると幼馴染の下次美並が話しかけてきた。
「晴斗は課題やった?」
「えっ、課題? そんなのあったか?」
「やっぱりやってなかった。後で私が見せてあげる」
「サンキュ」
「ふふーん。真面目な幼馴染に感謝しなさい」
「はいはい、ありがとうございます。美並様」
「はっはーくるしゅうない」
そんな冗談を言い合いながら俺と美並は学校に向かう。
「おはよう、晴斗」
「おはよう。翼」
親友である豊山翼が声をかけてくる。
「今日も可愛い幼馴染様と登校とは、いい御身分だな」
「はんっ、彼女持ちのお前が言うのかよ」
「ばっきゃろー。幼馴染と登校とか、男として憧れるに決まってんだろ」
「そうなのか? 実際にする身としてはよくわからん」
「晴斗、豊山君と話すのはいいけど。早く課題写さないと、授業始まっちゃうよ」
「お前、また課題やってなかったのかよ」
「すっかり忘れててな」
「とりあえず、さっさと幼馴染様の元に行って写させてもらえ」
「あぁ、そうする」
すぐに自分の席に移動して、必要な物を鞄から出す。
美並とは隣の席だから時間がなくても自分の席で写せる。
持つべきものは優しい幼馴染だ。
美並は顔も可愛くて、文武両道。
学級委員をしていて、教師からの信頼も厚い。
まさに理想の女子高生だ。
結局、ホームルームのチャイムが鳴るギリギリで課題を写し終えた。
教室に担任である志水沙奈絵先生が入ってきた。
担当は体育で、皆に優しく生徒からとても人気のある先生だ。
「おーい、皆いるか」
「「「「はーい」」」」
「今日のホームルームだが、1週間後にある修学旅行について班とか部屋割りとかを決めていく。どっちも残念ながらくじ引きだ。好きな人と同じ班になれるように祈っとけよ。うちのクラスは37人だから6人班二つと5人班五つな」
「「「「はーい」」」」
俺達のクラスは皆仲が良い。
実はこのクラスで元々40人いた。
そのうち三人が尋常じゃないくらい嫌われていた。
一人はぼっちでずっと寝てる癖に勉強だけは出来る奴だった。
ノリも悪いし、自分は興味ないってものすごく感じが悪い奴だった。
行事でもいつもクラスで団結しようっていってるのに、明らかに協力する気がなかった。
人殺し、なんて噂が流れた。
残りの二人は双子の姉妹で、美人だった。
だけど性格が最悪だった。
さっきのぼっちにこそ、話しかけてたがそれ以外の人間からは自分から話しかけないし話しかけられても無視する。
強引に触ったくらいで、キツイ目で睨んできた。
挙句の果てには姉妹で付き合ってるらしい。
マジで気持ち悪い奴等だ。
こいつ等の片方に告白したやつが次々と行方不明になる。
なんて噂が流れていた。
その三人はマジでクラス中で嫌われていたが、ぼっちは登校中に通り魔に刺されて死んで双子姉妹の方はある日突然行方不明となった。
あいつらがいなくなってから、クラスの雰囲気はマジでよくなった。
優しい沙奈絵先生だけは、今も気にしてるみたいだけど。
「おーい、酒井。次はお前の番だぞ」
「あっ、すいませーん」
俺は籤を引く、結果は美並と翼が一緒。
他の2人は翼の彼女とその友達だ。
仲の良い面子で固まってよかった。
そこから部屋の方の籤を引いたら、こっちも翼と同じだった。
他の面子も同じ部活の友達。
最高の修学旅行になりそうだ。
1週間後
俺達はバスに乗って、修学旅行の行先である京都に向かっていた。
美人なバスガイドさんを皆で質問責めにしたり、バスについてたカラオケで歌ったりと皆で盛り上がっていた。
最高の修学旅行になると確信していた。
その時までは、
ガタン
「な、なんだ」
「ま、前から車が突っ込んできたぞ」
「運転手さんとバスガイドさんは?」
「お前ら、落ち着け。焦るなよ。先生がどうにかしてやる」
「きゃー」
突然バスに対向車線を走っていた車が突っ込んできた。
それによってバスが大きく揺れる。
前にいた運転手さんとバスガイドさんが倒れている。
先生が急いで運転席に座って、運転を試みるがバスはもうボロボロだ。
ガン
バスが酷く揺れる。
「晴斗」「美並」
俺は隣に座っていた美並を抱き寄せる。
次に来た強い衝撃に、俺の意識は暗転した。
教皇視点
私は魔王軍へ対抗するために正教会に伝わる最高位の秘術。
神聖儀式魔法を発動する。
神聖儀式魔法とは私達信徒の魔力と祈り、そして女神様をお力を借りて発動する大魔法。
勿論女神様のお手を煩わせるわけにはいかないため、頻繁には使うべきではない。
しかし魔王という脅威に対抗するにはこれしかないのだ。
私が発動する神聖儀式魔法は二つ。
一つは異界から勇者様を召喚する魔法。
勇者とは「勇者」という称号を所持している者を指し、その者は「魔王」の称号を持つ者に対して圧倒的な力を持つと言われている。
まさしく英雄に等しい存在だと。
しかし、「勇者」の称号を持つ者は基本的に同じ世界に二人以上存在出来ない。
そして今代の勇者は魔王軍に寝返った裏切り者だ。
裏切り勇者が生きているせいで、新たな勇者が生まれないのだ。
だが勇者は正教会で最も有名な英雄。
失うわけにはいかない。
そのため、字ずらが似ている称号を持つ者を正教会が勇者として認定していたが、魔王に対抗するには力不足だ。
だが何事にも例外がある。
それが異界の勇者だ。
伝承によると異界から来た勇者はこの世界の勇者とはまた別であり、魔王にだって対抗しうる力を持つと言われている。
今やもう勇者召喚にかけるしかない。
そしてもう一つの魔法は召喚した勇者様を魔王から隠すための魔法だ。
魔王軍のことだ、正教会に忍びこんでうちの情報を集めているに違いない。
伝承によると、勇者様は元々強さに加えて我々とはくらべものにならない速度で強くなるとされている。
逆に言えば、成長してようやく魔王に対抗しうるのだ。
それまでは勇者様達を守らねばならない。
まず勇者様に生活してもらう施設を正教国内大工にも目的は秘密で建てる。
勇者様に相応しい豪華な施設だ。
鍛錬、勉強、休息。
我々に出来る限り最高の設備をそろえる。
勿論、鍛錬や勉強を見る教員は私を含めて正教会で上位の者のみだ。
その施設に、私達に敵対心を持つ者が結界内を認識できなくなる魔法を発動する。
この二つの魔法を使い、勇者様に魔王を倒せるくらいに強くなってもらう。
神聖儀式魔法については資料しか残っていないので、結界がどれほど持つかは分からないがそこは女神様を信じるしかない。
今、施設には正教会の幹部とその信頼できる部下のみが集まっている。
「それでは、神聖儀式魔法を発動する」
私は正教会の最奥に封印してあった、女神様より頂いたとされるアーティファクトを発動する。
神聖儀式魔法の発動にはこれが必要なのだ。
神器や魔道具、アーティファクトの類いは全てミゼに盗まれたが一部の最重要なアーティファクトは別のところに封印してあったため無事だったのだ。
「我等が神よ、我らが願いを魔力に、そして力に変え、我らが望みを叶えたまえ」
私達は一心不乱に祈り続ける。
そしてその時は来る。
「神聖儀式魔法「認識阻害結界」」
信徒たちの祈りと私の全魔力、信徒たちの全魔力の半分を消費し、神聖儀式魔法が発動する。
これによってこの施設は敵からは見えなくなった。
「教皇様」
枢機卿から渡された魔力を回復させるポーションを飲む。
このポーションは最高級のものであり私の失われた全魔力を一瞬で回復させた。
周りの皆も同じポーションを飲み、魔力を回復させていく。
「しんどいでしょうが、もう少しです。次の魔法で勇者様を召喚します」
「「「「「全ては教皇様の御心のままに」」」」」
そして私は先ほどと同じようにアーティファクトを発動し、皆で一心不乱に祈る。
魔力を消費する。
今度は私達のいる部屋の地面全体に大きな魔法陣が現れる。
「神よ、我らが英雄を異界より。神聖儀式魔法「勇者召喚」」
魔法陣が強く輝く。
次の瞬間には…
「やった、やったぞ」
「成功だ」
「おぉ、神よ」
大人数の男女が異界より召喚されたのだった。
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この作品の番外編です。
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