第351話 甘やかされた末路4
ストックが完全に尽きました。
ユアとユイの部屋を去った私は、次の部屋のドアをノックする。
この部屋はゼミルとゼーデの部屋だ。
「私、ミコ」
「はーい、今開ける」
ドアが開きゼミルが、部屋から出てくる。
「ミコ、どうしたの?」
「いや、ちょっと皆の様子を見て回ってて」
「へー、うちはもう終わったよ」
「そう。皆早いわね。もしかしたら私が一番最後かも」
「皆ももう終わってる感じ」
「大半が終わってるみたい。私のところは今は寝てて、まだ時間がかかりそう」
「そっか、頑張れ」
「ありがとう」
「中見ていく?」
「ゼミルがいいなら」
「勿論いいよ、入って」
私はゼミルに招かれ部屋に入る。
「よいか、ここはこの魔法を使うことで、魔力量保存の法則に従って、ゴーレムの能力が2,34倍に跳ね上がるのじゃ」
そこにあった風景は、ユアとユイが王立学園でやっていた授業と言うものに酷似していた。
いや、認めようこれは間違いなく授業だ。
教師がゼーラで生徒が王女達だ。
「えぇと、これはどういう状況?」
「私とゼーラの担当の子達って学者気質な子が多かったでしょ」
「あぁ、そういえば」
確かにゼミルとゼーラの担当の子達はバタフライほどではないものの、魔道具とかが発達している国の出出が多かったと記憶している。
「それが、どうなってこの光景に繋がるの?」
「だから、私達に着けば世界の真理を与えるって勧誘したの。終末級魔法の魔法陣を見せながら」
「なるほどね」
災害級以上の魔法は既に人類からは失われている。
恐らく、隠しているところもあるだろうが一応対外的には災害級以上の魔法は失われたということになっている。
私達にとっては別に珍しくもないが、現代で魔法に造詣が深くなお知的好奇心旺盛な若者。
なおかつ、人類への帰属意識も低いとなれば文字通り神話でしか耳にすることのない終末級魔法を出せば寝返るのも無理はないのかもしれない。
ゼミルもゼーラはその技量、魔力量的に終末級魔法は使えない。
だが「メモリートレース」によって私が使える魔法は全て記憶に刻み込まれているので魔法陣を見せるくらいなら出来るだろう。
「まぁ、寝返る原因は分かったけど。なんでゼーラの授業が始まったの?」
「ゼーラって神だからとっても長い時間を生きているじゃない。だから、知識が豊富なの。その知識をあの子達に与えてるのよ。まぁ、既に契約は結んでるからただの暇つぶしみたいなものよ」
「契約って契約魔法を使ったの?」
「うん。事前に皆で決めてた労働条件+私とゼーラにある知識の共有を条件に。私とゼーラに忠誠を誓うって」
「へぇ、なるほどね」
まさか終末級魔法なんかで王女達が釣れると思わなかった。
確かに学者気質な子達を集めたとはいえ、ここまであっさり寝返るとは……
契約魔法も合意の上のようだし、問題なさそう。
ゼーラ、少し授業が楽しそうだしまぁよし。
「それじゃあ、私は他を見て回るわ」
「じゃあーねー」
私はゼミルとゼーラの部屋から出た。
次の部屋に移動する。
ドアをノックする。
この部屋はガーナの部屋だ。
すぐにドアが開き、ガーナが出てくる。
「どうしたんです?」
「皆の様子を見て回ってるの。何か問題はない」
「えぇ、もう終わりました。皆本当に早いわね」
「立ち話も、なんですし入ってください」
「ありがとう」
私はガーナの部屋に入る。
そこには……
「ガーナお姉ちゃん。髪結って」
「ガーナ姉、マッサージしてあげる」
「ガーナ姉様、このお菓子とてもおいしいですわ」
ガーナの妹が大量発生していた。
「ガーナ、説明」
「私がひたすら甘やかしてたらこうなりました」
ガーナはとても簡潔にそう答えた。
普段、シンの前以外ではあまり表情を動かさないガーナが少し苦笑していた。
恐らくガーナにとっても予想外の事態なのだろう。
「皆私のことを姉と慕い、私の部下になることも了承してくださいました。なぜか本人達は私の妹を自称していますが……」
ガーナは万能だ。
シンが二つ名を「冥土」か「万能」で悩むくらいには万能だ。
家事から戦闘まで大抵のことを高水準で成すことが出来る。
そんなガーナが本気で甘やかせば、こうなるのも無理はない。
私は昔を思い出す、魔王国に来たばかりの私がガーナにひたすら甘やかされていた頃を。
途中から恥ずかしくなってやめた記憶があるけれど、一時期私もガーナお姉様と呼んでいた時期がある。
それくらいには私はガーナに甘やかされた。
だからこの光景は正直納得ではある。
まぁ、この様子なら問題ないだろう。
「私はそろそろ行くわ」
「紅茶でも飲んでいかれれば?」
「大丈夫よ。さっさと終わらせてシンの血を貰うから」
「そうですか。魔王様の血を、売ってくださいません?」
「売るって?」
「私が持っている魔王様の写真5枚につき一瓶でどうです?」
「契約成立ね」
私はガーナと握手して、部屋を出た。
次はルミネスの部屋だ。
私はドアをノックする。
が、何秒待っても返事がない。
気配からして、中にいるのに。
「ルミネス、入るわよ」
私は悪いと思いながらも、部屋の中に入る。
するとルミネスの声が聞こえた。
私が部屋の奥まで入ると、そこには……
「つまり、魔王様は至上の存在であり、魔王様の前では神ですら塵芥と何ら変わりなく」
シンについて語るルミネスとそれをおとなしく聞くようにか魔法で拘束されている王女達の姿があった。
王女達の目は虚ろだ。
ただ精神に干渉する魔法は発動されていない。
単純に長時間拘束された状態でルミネスの語りを聞いて疲れているだけか。
いや、違う。
精神に異常をきたす魔法は使ってないけど、何かしらの魔法を王女達の精神に干渉している。
さすがに見ただけじゃ何の魔法か分からないわね。
見た感じ洗脳とか強制的な契約とか精神に害を及ぼすものではないみたいだけど。
「超鑑定」
私は王女達に使われている魔法を「超鑑定」で調べる。
普段はあまり行いわないけど、「鑑定」は魔法自体について調べることもできる。
ただ、結果はよく知っている魔法だった。
「この魔法「メモリートレース」? 何の記憶を流しているのかしら?」
今更だが、「メモリートレース」は対象に自分が指定した記憶や情報を流す魔法だ。
恐らく王女達は膨大な情報にさらされたことによって目が虚ろになっているのだろう。
さすがに「超鑑定」でも「メモリートレース」でどんな記憶を流しているかまでは分からない。
ただ予想は案外簡単につく。
ルミネスのことだ。
どうせシン、魔王についての記憶だろう。
ルミネスはルミネスでミーゼやリーフェとはまた違った信仰的な何かをシンに向けているし。
「まぁ、邪魔するのも悪いし」
私はルミネスに若干の恐怖を覚えながら、ルミネスの部屋から静かに出たのだった。
次はライシュの部屋だ。
「あれ、誰もいない?」
部屋の中に人の気配がない。
どこに行っているのかしら?
まぁ後まわしにしましょうかね。
次はヨルの部屋だ。
だけど……
「この部屋も誰もいないわね」
妙だと思いながら私は場所を探すために「サーチ」を発動する。
範囲は魔王城全体だ。
魔王城から出ているということはないだろう。
「いた」
どうやら二人とその担当の子は闘技部屋にいるようだ。
「何故?」
私は疑問に思いながら「テレポート」で闘技部屋に転移するのだった。
「「「トリプルスラッシュ」」」」
「「「「トリプルマナバレット」」」」
「「ファイヤーランス」」
「「ヒール」」
必死にスキルや魔法を放つ王女達と。
「遅い」
ドン
バタバタ
ガツン
「ぬるいわ」
素手で王女達を気絶させていくヨルとライシュの姿があった。
恐らく次の次の話でシン君が久しぶりに出てくると思います。
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