第310話 欲望抑制の宝珠
投稿休んですみません。
また体調崩してました。
「魔王、様」
何故?
急用があると、ここには誰も来ないと言っていたのに。
「はぁ、いやなに。用事が終わったから戻ってきてみれば、ったく。レイメス、誰も来ないと言っていたのにと思っているみたいだが、俺はしばらくと言ったはずだぞ。俺達がこの部屋から出て行ってからもう30分以上経ってる」
魔王様は呆れるようにため息をつく。
姉上と夢中で話していたから気づかなかったが、どうやら結構な時間が経っていたらしい。
というか、思考が読まれている。
「聞いていたの?」
「いいや、ついさっき「テレポート」で入ってきたばかりだ。まぁ、状況は察してる。さて、レイメス。正直に答えろ。お前は姉を救いたいか?」
「はい、救いたいです」
姉上を救いたい。
それは今私が一番願っていることだった。
「そうか。さて、レイメス。話は変わるがお前には七魔公と十六魔将軍について色々と調べて貰った。なかなか面倒なことを頼んだがお前はそれを見事にやり遂げた。生きている幹部が揃った今、お前にはその分の報酬を与えようと思う」
魔王様は手に持っていた紫色の球体を私に向かって投げる。
私はそれをキャッチする。
「それの名は欲望抑制の宝珠。それは使用者の精神と魂と最も強く結びついている欲望をなくすことが出来るアイテムだ。デメリットはあるが、かなり小さい」
私と姉上の視線が欲望抑制の宝珠に向く。
これほどまでに打って付けのアイテムがあるだろうか。
「それとデリート」
「何かしら?」
「魔王軍の幹部になると幹部就職祝いというものがある。簡単に言えば魔王軍の幹部になった者に記念として俺が何かを与えることだ。これの内容はその者にあった物を俺が渡すんだが、俺がそれを見極めるには時間がかかるため、これを渡す時期は人によって違う。お前にあった物を思いついたから、今渡そうと思う」
すると突然、魔王様の手元に膨大な魔力が集まる。
スキルを使う時の集まり方じゃない。
一見、以前見させていただいた魔王様が「創造」を使う時と魔力の動きは似ているが、今回は純粋にひたすら魔力を圧縮しているだけだ。
魔王様から溢れ出る膨大な魔力が全て手元に集中している。
そして数秒後、魔力が収まった。
魔王様の手には真っ黒な球体があった。
その球体に「災禍」が更に魔力を込める。
こちらも尋常じゃな量だ。
それも数秒で終わった。
しかし、その球体の色は真っ黒から赤黒い色に変色していた。
見た目は赤黒い球体。
だがそれからは信じられないほどの圧を感じた。
美味しそうだ、食べたい。
私の頭の中がそれに支配されかける。
だが、ギリギリのところで踏みとどまる。
「あぁ、美味しそう、美味しそう、美味しそう、美味しそう、美味しそう、美味しそう、美味しそう、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい」
姉上がその球体をジッと見つめる。
悪魔は魔力を好む。
それは悪魔と近い性質を持つ姉上も同じらしい。
というか何なら姉上の方が魔力が好きなようだ。
悪魔である私も食べたいと思うが、周りが見えなくなるほどではない。
「レイメス、使うなら使え。それの発動条件は砕くことだ。ただし、使用者がな」
魔王様からそうお声がかかり、私はすぐに球体をじっと見て動かない姉上に近づく。
私は姉上の手に欲望抑制の宝珠を握らせ、姉上の手を閉じて、上から力を入れることで姉上に宝珠を砕かせる。
パリン
宝珠が砕けた。
その瞬間、砕けた宝珠から紫色の何かが急激に溢れ出し、姉上の身体に吸収されていく。
「うっ、うぅ、あぁぁ、食べたい、食べたい」
成功した?
分からない、魔王様を信じるしかない。
「落ち着け、食べてよい。これは祝いの品だ」
魔王様はそう言いながらその球体を姉上に投げる。
姉上はそれを受け取って口に放り込む。
その瞬間、目を見開いた。
「うっ」
姉上から信じられないほどの強大な力を持った黒い何かが噴き出す。
更にの身体が光り出す。
数秒後、その光は収まった。
姉上の外見は全く変わっていない。
ただ、この部屋を埋め尽くしていた黒い力が消えた。
だが、姉上から感じる力が今までよりも強くなった。
姉上は普段力を抑えている、が、それを考慮しても圧倒的に強くなったことが分かる。
「こ、これは。心が、楽。何かを滅ぼしたいだなんて全く思わない。それに、邪神の力が一切感じられない?」
邪神の力、あの黒い力のことだろうか。
「魔王様、何をしたのです?」
「まず、欲望抑制の宝珠でデリートの欲望を抑えた。その状態で先ほどデリートに食べさせた球体。あれは俺とミコの魔力だ。俺とミコの魔力が大量にデリートの体内に取り込ませ、デリートの身体の邪神に関係する部分の全てを滅ぼした。そして俺とミコの魔力で滅ぼした部分を創りなおした。結果、今のデリートには邪神の部分が一切ない状態となった。恐らく種族も変わっているだろう。最初は欲望を壊せばいいと思ったが、どうやらデリートの滅亡欲は魂や精神と深く根付いてしまっているため無理やり滅ぼせばそちらにも影響を与えると考えて宝珠で抑制するにとどめた。だが、大本である邪神の部分を滅ぼしたし、種族も変わったから多分、仮に抑制が出来なくなってももう十二分に自身で制御可能なレベルだろう」
魔王様はそう言って私にニヤッと笑った。
本当にさすがです。
魔王様。
「レイメス、レイメス」
姉上が私に抱き着いてくる。
その目にはうっすら涙が浮かんでいる。
私も姉上を抱きしめ返す。
「レイメス、大好き」
姉上がとっても綺麗な笑顔でそう耳元で囁いてくる。
すこしドキッとしてしまった。
悪魔に老いの概念はないが、もうかなり長い時間を生きているというのに。
「私も、大好きですよ」
「ふふっ、レイメスったら。顔赤い」
「そういう姉上も顔赤いですよ」
「ふふふ」「ははは」
私と姉上は笑った。
「姉上」
「えぇ」
そうして私達は魔王様と「災禍」の方を向く。
「魔王様、我が姉を助けてくださりありがとうございました」
「何、俺はお前への褒美とデリートへの幹部就職祝いを渡しただけだ」
魔王様はそう言って笑う。
本当に優しいお方だ。
「魔王シン様。先日の非礼をお詫び申し上げます。私を救ってくださり、ありがとうございました。今一度、誓わせてください。私は未来永劫、この魂が尽きるまで、弟と共に魔王様に忠誠を誓います」
私と姉上は魔王様に向かって跪く。
この日、私は姉と共に今一度魔王様に深い忠誠を誓ったのだった。
シン視点
「その忠誠、しかと受け取った。さて、デリート。一つ、聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「お前は「遥か昔誰か忘れたがデリートと呼ばれていた」と、言っていたな」
「はい」
「それは誠か?」
「すべてが真実ではありません。私のことをデリートと呼んだのは邪神達です。恐らく、私のことを消去しろと叫び続けていたのでしょう」
デリート、消去。
神は普通使わないような言い回しを使うことがあるからな。
なら、この名は相応しくない。
「そうか。では最初の命令だ。名を改めよ。お前と邪神達との因縁は完全に切れた。ならば、名も変えるべきだろう。そして、これは命令ではなく提案だがそれをレイメスに決めてもらってはどうだろうか?」
俺の言葉に、デリートは笑顔を浮かべる。
「魔王様のご命令、しかと承りました。名については私も変えたいと思っておりました。それをレイメスに決めて欲しいとも」
「姉上?」
レイメスは珍しく動揺しているらしい。
中々に長い付き合いだが、俺はまだまだレイメスのことを知らなかったらしい。
「レイメス、私の名前、決めてくれる?」
「姉上が望むのならば」
そうしてレイメスは微笑んだ。
「実は、今まで恥ずかしくて言っていなかったのですが、もう既に考えてあるのです」
「え?」
「姉上の名前、デリートって名乗るとき姉上いつもいい顔しないですし、あんまり好きじゃないんだろうなって思ってたんです。だから姉上の新しい名前、実は密かに考えたことがあったんです」
「そうだったの、それで、その名は?」
「レイカ」
「いい名ね。魔王様、私はデリート改め、レイカとして生きます」
「あぁ、分かった。これからよろしくなレイカ」
こうして、十六魔将軍は一人決まった。
七魔公レベルに強い人材が。
巻き返しが、恐ろしい。
巻き返しカウント:94話
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