第239話 留学3
また遅刻です。
本当にごめんなさい、忙しいんです。
女王との謁見の後、俺たちはそれぞれ個室に案内された。
留学中はここに泊まるらしい。
王城の中に留学生を入れるなんて、正直予想外だったがまぁシェールが女王ならば納得だと言える。
俺は今、案内された部屋のベッドに寝転がっている。
普段馬車なんて乗らないため少し疲労感を感じている。
勿論精神的なものだが。
コンコン
俺の部屋のドアがノックされる。
「入っていいぞ」
俺は誰がノックしてきたのか分かっていたので許可する。
「失礼します」
そう言ってドアが開いた。
俺の部屋に入ってきたのはシェールだった。
「まさか、お前がバタフライ王国の女王だったとはな」
「分かっていたのでしょう」
「可能性は考えていたぞ。ただ確信はなかったけどな」
現代の技術力とセーラから聞いたバタフライ王国の技術力は乖離しすぎている。
そんなことは生半可な人間じゃ不可能だろう。
だから俺はバタフライ王国の女王は研究系統の神族系の加護を持っている者か、シェールだと考えていた。
まぁそれに名前だけでもそう考えてしまうのも無理はないだろう。
バタフライ王国。
バタフライ、蝶。
シェールの二つ名は「黒蝶」だ。
連想してしまうのは不思議な話ではないだろう。
「それで、お前は何故この国を作ったんだ?国を治めたかったのならば魔王国を治めればよかったじゃないか」
「理由は2つあります。1つは以前も言いましたが、魔王様の跡継ぎというのは私には耐えられないということ。2つ目は魔王様が転生し、魔王国の再興を望まれた際にこの国をまるごとお渡ししようと考えていたためです。正直耐えられなくとも魔王様が転生した際のためを思えば魔王国を治めずとも滅びる前に助けた方が効率的でした。というか、最初はそう思っていました。しかし」
シェールから魔力が溢れ出す。
「魔王国の魔族たちに魔王様のことを聞いたのです。そしたら、あの愚かどもはこう言いました。「魔王が勝手に死んでくれたおかげで王が弱くなった。力をためて国を奪う」と。私は許せませんでした。私が聞いたものが偶然そういう思想を持った者だったのだと思いましたがどこで聞いてもそればかり、人間やエルフ等の種族はそこまでではなかったですが魔王様にあまりよい印象を持っていないようでした。魔王様への恩義など忘れてしまったのでしょう。そんな愚物の国は魔王様に相応しくない。ならば、私が国を作って魔王様に献上しようと」
シェールは悔しそうにそう言った。
正直、俺はそれを知っていた。
魔族どもが俺の地位を簒奪しようとしていることを。
魔族というのは種族柄か傲慢な者が多い。
そのため愛国心の欠片のない者ばかりだった。
そもそも俺は国民に好かれるような王ではなかった。
かなりの頻度で戦争を行っていたし、国民のためのような政策も行わなかった。
戦争は教会連中が魔王国のことを敵視していたからだ。
宗教と言うのは国境を越えて蔓延っている。
だからこそ様々な国から戦争を仕掛けられていたのだ。
そのためどうしても悪い印象を持たれていた。
ちなみにだが事情を知っていた魔王軍の者はそんなことなく俺に心からの忠誠を誓ってくれていた。
まぁそんなこんなで俺は国民からの支持が悪かった。
俺は圧倒的な力で全てをねじ伏せていたから魔族は従っていたのだ。
俺が死んだならば、国を奪おうとするのもある種必然かもしれない。
「それで、魔王国の愚か者はどうしたんだ?」
「「マーキング」を残し、魔王国が滅びた時点で始末しました」
「そうか」
「それで魔王様、バタフライ王国はどうしましょう。私の全ては魔王様の者。魔王様がいらないのならば、このまま適当に運営しておきます。あればいろいろと便利なので。勿論不快ならば滅ぼしますし、必要ならば差し上げます。次期国王なんて私が命じればすぐに変えられますし、レピアはあまり王という気質ではないので問題ありません。国民も問題ありません」
「国民が問題ないというのはどういうことだ?」
「はい、まずこの国では正教の信仰は大罪としています。見つかり次第一族郎党死刑。蘇生のないこの時代ではそれはかなり重い罰です。蘇生は魔王様の不都合になる可能性を考えて未だにこの国で広めておりません。また貴族は長きにわたり細工をしてありますので裏切ったりすることはありません。そしてこの国では国教に魔王教という宗教を新たに作って運営しております。魔王様を信仰する宗教です」
「魔王教?それを信仰する者はいるのか?」
「はい、魔王国が滅びたあと魔王様に本物の忠誠を誓っていた魔王軍の者をバタフライ王国に引き入れました。その者等は魔王教を信仰しています。その者らが広めているためこの国では魔王教の信者が一定数います」
「そうか、貴族への細工というのは?」
「この国はナイト王国同じように貴族制の国です。一番下は騎士爵、魔法爵、士爵。それから男爵、子爵と上がっていきます。これらが下級貴族です。そして子爵の上に伯爵、侯爵、辺境伯、公爵、大公となっています。これらが上級貴族で全員が元魔王軍の者です。まぁ基本的に代替わりしていますが、生きてはいます。細工をしているのは下級貴族のみです。細工の内容はぜひご自身でご確認していただきたいです。なかなかに面白い細工ですので。あとこの国に入る際に普通の国民は正教の御神体を壊させています。当たり前ですが留学の条件にも正教を信仰していないものというものを付けてあります」
前の世界でいう踏み絵みたいなもののようだな。
「なるほど、徹底的に正教を入れないようにしているのだな」
「はい、あのようなゴミは不要ですので」
「そうか、とりあえず今はいい。だが運営はしておいてくれ。別にお前がしているわけじゃないんだろう」
シェールは研究が好きなため継続的な仕事を嫌う。
そんなシェールが国の執務を自分でするわけがない。
魔王国でも自分の執務はゴーレムにやらせてたし。
まぁ、ぶっちゃけ真面目に執務をしてたのなんて誰もいなかったがな。
俺は本当に重要なことだけなので、読むだけ読んで可否を伝えるくらいだった。
ミコは魔法で資料の内容を読み取って魔法で資料を書いていた。
セーラは聖剣の能力の並列思考を使って行っていた。
ミーゼは洗脳した人間にやらせていた。
ゼミルは召喚したアンデットにやらせていた。
ルミネスは神力でそれだけのための自分の意思を持たない神を創り出してやらせていた。
シェールは自動で仕事をこなす魔道具を作ってやらせていた。
レイメスは自分で召喚した悪魔にやらせていた。
まぁそんな感じで全員が国民のためになんて考えていなかったし、大半の人間が絶対に裏切らない優秀なもので行っていた。
俺に回ってくるのは基本的に最終許可だったんどえ可か否のハンコを押すだけだった。
まぁそういうわけでシェールは仕事量が増えて、国の運営になったといっても自分でやるとは正直思えない。
だから十中八九魔道具にやらせているだろう。
「勿論自分で作ったゴーレムにやらせています。では欲しくなったらいつでも言ってください」
「あぁ、頼む」
「さて、今回はそれを伝えるために来たので私はお暇いたします」
「そうだ、シェール」
「はい」
「今夜、部屋に来てくれ。褒美をやる」
俺がそう言った瞬間シェールの目が輝いた。
「はい、では今晩お邪魔させていただきます。信用できるメイドを置いておきますので何かあればそれにお伝えください。メイドは部屋の前に控えさておりますし、元魔王軍の人間ですので魔王様の正体も知っております」
「分かった」
「では、また今晩」
そういってシェールは俺の部屋から出ていくのだった。
シェール出すぎ問題。
巻き返しカウント:20話
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