第154話 聖剣エンハルト
今回も短いです。
Sクラス内での摸擬戦は俺達Aグループの圧勝で終わった。
その日は摸擬戦が終わってすぐ下校となった。
俺達はユアの仕事が終わるのを待ってから魔王城にミコの「エリアテレポート」で転移して帰宅した。
ユアの仕事は数分で終わったらしく大して待っていない。
魔王城に帰ってきた俺達は一度自室で着替えるため別れた。
ぶっちゃけセーラも王城の自室や学園の寮を使っていない。
セーラだけでなくゼミル達も学園の寮を使わず毎日魔王城で寝て起きてごはん食べてを繰り返している。
俺としてはセーラ達のことは家族のように思っているため何の問題もないが、そのことに違和感を覚えないことを今更だが実感して少し驚いた。
そして俺達は自室で楽な恰好に着替えてリビングのような場所に集まっていた。
食堂とはまた違う場所だがここでごはんを食べることもある。
まぁくつろぐための場所だ。
セーラ達はもう我が家のようにくつろいでいる。
まぁ俺達は友達なんかよりもずっと近い距離感と信頼があるため、緊張したり遠慮する必要がないためだな。
そんな感じで俺達はくつろいでいた。
「そういえば勇者からこんなものを奪ったのよね」
すると突然、ユイが「無限収納」から聖剣エンハルトを取り出した。
そういえば先ほどの摸擬戦中にユイは勇者から聖剣を奪っていたな。
「聖剣エンハルト。懐かしい代物だな」
魔王時代に俺が創った神器の一つだ。
ちなみにだが魔王時代の俺は今のように創造神の力と破壊神の力の両方を十全に使うことは出来ず、使えたのは破壊神の力だけだった。
だが俺には「反転」というスキルがあったため「破壊」を「反転」させて物を創っていた。
今の数十倍の魔力を消費して創っていた。
魔王城や闘技場等もそうして創っていた。
聖剣エンハルトもそのころに創った物だ。
「ミコから聞いたんだけど教会に友好の証として渡したんでしょ」
「あぁ、まぁ無理だったがな。俺はそれ以降教会とは完全に敵対すると決めたな」
神器を上げたのにそれを神からの物だとのたうち回る愚者たちと仲良くする必要など皆無だろう。
「でも、シンが創ったにしてはかなり弱いわね。あの勇者から簡単に奪えたし」
「あぁ、それには二つ理由がある」
「理由?」
「そうだ。一つは今代の勇者が弱すぎることだな」
「あれって私たちから見れば雑魚だけど一般的に見れば強い部類だと思うけれど」
「ユイ、勇者っていうのは魔王と対となるものなのよ」
「なるほど。そう考えれば弱いわね」
「まぁ、シンが強すぎるからだと思うけどね。多分シンとまともに戦える勇者なんて歴代でも初代勇者くらいじゃないかしら?他にいた?」
「いいえ、文献では初代勇者以上に強い勇者は存在しないとなっているわね」
ミコの問いにセーラが答えた。
「ならそれが真実でしょう。さっきユイには教えたけど聖剣エンハルトは一定以上の実力を持った者ならば使いこなせるように創られた聖剣だからね。今代の勇者はその一定以上の実力を持っていなかったのでしょう。今代の勇者はまだ成長途中にしても弱すぎるわ」
「それともう一つ、確かに聖剣エンハルトは俺が一定以上の実力者ならば誰でも使えるように創った。だが、神器というのは使い手によって成長する。聖剣エンハルトは初代勇者の影響を受けすぎたせいで一定以上の実力があればだれでも使えるが、初代勇者以外だと使いこなせても、全力の4割程度の力しかひきだせなくなってしまっているんだ」
「なるほど。ねぇ、シン。初代勇者ってどんな人だったの?」
「興味あるのか?」
「ある」
俺の問いにユイが速攻で答える。
それにセーラ達も頷いている。
「っていっても初代勇者って七魔公だからな」
「「「「「え?」」」」」
「あれ?知らなかったのか?初代勇者こそ信仰心ゼロで教会を裏切り、魔王軍に入った女だ、七魔公の第二席だぞ」
「そうだったのね。あれ?でも聖剣エンハルトは初代勇者が使っていたのでしょう。なんで魔王軍に入った勇者が使っていた聖剣エンハルトが教会所属の今代の勇者が持っていたの?」
「あぁ、それは俺は教会に合計で8本聖剣を送っていたんだ。勇者はエンハルトとは違う剣を好んで使っていたからエンハルトは教会に置いてあったんだ。ただ勇者の裏切りが教会側にすぐにバレてしまったんだ。勇者がその時持っていた聖剣は二本。勇者は教会に忍び込んで聖剣を五本回収したんだが、エンハルトだけは見つからなかったと聞いた」
「最初は既に誰かに盗まれたんだと思っていたけれど、勇者が持ってところから見て教会によって隠されていたのだろうな」
「まぁ分からないけどね」
「いえ、魔王様の言う通り聖剣エンハルトは教会によって1000年ほど隠されていました」
「ミーゼ、帰ってきていたのか」
「はい七魔公第三席「聖女」ミーゼ、魔王城に帰還しました」
事の真相を話してくれたのはミーゼだった。
どうやらあの勇者を教会に届けて事情を説明するのに手間取ったらしい。
そしてそれが終わったため「テレポート」で魔王城に来たらしい。
それはさておき。
「いつも、そこまで堅苦しい挨拶をする必要はないと言っているだろう。俺は七魔公の者は家族だと思っているからな」
それは紛れもない俺の本心だった。
「ですが、やっぱり気になるのです」
「はぁ、俺はお前のことを友人だと思っている。だから気にするな」
「しょう、分かりま、分かったわ」
ミーゼはぎこちないながらもそう返事を返した。
そこから俺達は聖剣の話や勇者の話などをした。
そして夜も更けたくらいの時間に解散した。
俺はベッドに横になっていた。
俺は4000年前、人と魔族の戦争がなくなり平和となった世界を夢見て戦った。
魔王軍はかなりの人数がいた。
だが、俺が本当に仲間だと思っていた人物は七魔公を含めてもほんの数名だ。
俺は4000年前人類の醜さを見た。
それは仲間の魔族も含まれていた。
俺の部下には様々な種族がいた。
その一つとして魔族がいた。
魔族たちは人間を殺そうと戦争ではしっかりと働いてくれた。
だが明らかに復讐と言った様子で人間を拷問したりしているものもいた。
俺はそういうものを片っ端から殺していったが、それらは全然なくならなかった。
そして俺は途中、何のために戦っているのか分からなくなった。
だから俺は優先順位を付けた。
七魔公と他数名。
家族のような信頼関係を築いているもの。
ただの配下。
敵。
俺はまず生物をこの3つに分けた。
そして俺は当初の目的である平和の世界を創るという目標の優先順位を2位にした。
俺は新しく1位に家族を悲しませないとした。
俺にとってはそれが一番大事だかったから。
だからこそ、俺は自分の軍でありながら魔王軍を信用していなかった。
そもそも俺と七魔公、そして俺が信頼関係を築いている数名さえいれば世界を滅ぼすことだって容易だった。
なので俺は魔王軍のことを命令通りに動く駒としか考えていなかった。
思えば俺はもう疲れ果てていたのだろう。
俺は世界を平和にしたいのに、そのために争う。
そして己の仲間であるはずの者ですら己の目標の邪魔をする。
だからきっと俺はこんな風になってしまったのだろう。
そして俺は一応魔族と人間の戦争を辞めさせることが出来た。
だがその平和さえも俺が死んで数十年で変わってしまった。
だから俺は決めた。
俺の今世の目標は平和に生きるだ。
だがそれは世界の話ではない。
俺の家族たちだけの話だ。
自分勝手だと思うものもいるかもしれない。
だが、いいじゃないか。
だって俺は魔王なのだから。
誤字脱字等ございましたらお気軽にご連絡ください。
気に入ってくださいましたら、ブックマーク、レビュー、評価いいね等よろしくお願いします。




