87…落着する
「リリ連れて行くな!」
先程アキラが消えたと思ったら、突然現れて一瞬でリリーを連れて姿を消した。
リリーとユウ、聖神の3人でわちゃわちゃ話をしているところだった。
「ふっっざけんなよ?! アキラ!!!!」
久しぶりの会いたかった兄の登場なのに、ユウには腹が立つことしか起こらない。
さっきから、魔神といいアキラといい、好き勝手リリーを掻っ攫って行く。
しかも不意打ちなので、ユウが止めることも出来ない。
『荒れてるわねぇ。お前が兄を名前呼びしてるの初めて聞いたわ』
ユウは飄々と言ってくる聖神にも腹が立った。
「お前に一番腹立つ」
◇
「アキラ?! どうしたの?」
アキラがリリーを連れて来たのはだれにも邪魔されない皇城のてっぺん。
リリーは既に足に力が入らなくなっている。
「ちょっと、確かめたい事があって」
アキラはリリーの頬に触れて、ジーッとリリーの目を見ている。
先日ダンスをしたが、ほぼ1年離れていたアキラに突然連れて来られ、間近で目を見てくるなんて、リリーは目を合わせられず挙動不審になるしかない。
1年会わないうちに、アキラは何だか大人っぽくなっていて、少し別人のように見えたから。
「……大丈夫、そう、だ」
アキラは安堵で思わずリリーに抱きついた。
「アキラ?」
アキラは安堵の溜息をついている。
「うん……俺、リリー達に会わない間に19才になったんだ。知ってるか?」
今はアキラが逃げずに一緒に居てくれるらしいと感じて、リリーは安心してアキラの背中にふんわりと手を回した。
すると、アキラは少し緊張したように反応した。
「知ってるわ、おめでとう。アキラは居なかったけど、お祝いにケーキを食べたのよ」
「うわー……食べたかった」
リリーはふふっといつも通り笑っている。
「私もね、17才よ。もう少しで18才になるの。もう6回生なの。卒業式はアキラに見てもらえるかしら?」
「うん、見るよ」
バッと顔を上げて、リリーは信じられないという顔をしている。
「見るよ、ダンスも踊ろうか? 実はさ、四大大会こっそり見に来てたんだ。今年も剣術出るのか? いや、言いたい事はそんなんじゃないんだ」
アキラは嬉しそうに笑いながらリリーの目をしっかり見た。
「もう大丈夫みたいだ……全部、リリのお陰だって知ってる。ありがとう」
リリーは涙を堪えるのも忘れて、アキラの話を聞いている。
ポロポロ落ちていく涙がとても綺麗だ。
アキラは優しく笑って、リリーの涙を手で拭いながら囁くように伝えた。
「リリー大好きだ。愛してる」
届かないことは分かっている気持ちを、そのまま。
「私も大好きよ。愛してるわ」
「うん」
アキラは、切ない顔をして返事をした。
自分の言葉と、リリーのそれは同じでないと何となく分っている。
きっと家族に近い気持ちだろう、と。
「私もユウも、アキラがいないとダメだったの。帰って来てほしくて、苦手な事も、すごくすごく頑張ったの」
「うん……ありがとう、リリ」
でも、今は、リリーが言ってくれた言葉を何度も反芻して、浸っていたかった。
大好き
愛してる
ずっと自分の為に泣いて縋ってくれたら良いのにと思いながら、リリーを強く抱きしめた。
アキラはずっと魔剣の所為にしていたが、そうではないといつからか気付いてしまった。
自分の心の奥底にある願望をただ引出されただけだったのだ。
自分にそんな気質があったなんて、アキラはすぐ受け入れることは難しかった。
けれど、今ではもう開き直ってしまった。
認めたらかなり楽になったので、もう後戻りは出来ない。
「リリを閉込めておこうか」
ニヤリと笑うアキラに、リリーはギョッとした。
「え?! な……私、何かしたかしら」
「それはそれは色々と」
「えっ……」
身に覚えがないリリーはフリーズしている。
一生懸命思い出そうと頑張っているリリーの姿が愛おしくて、アキラは笑ってしまった。
リリーに思い当たる節があるわけがない。
ただアキラにとって色々と我慢ならないことがあっただけだ。
誰それに抱きついていた、手を握っていた、笑顔で話かけていた……
そんな事させないためにも、アキラは本当はリリーを外に出したくない。
自分のためだけに生きてくれたら、どんなに良いか。
アキラはリリーをふわりと抱きしめた。
けれども、以前の魔剣持ちの時の様にはならないのが分かった。
それがすごく嬉しくて安心した。
ああ、これでまた一緒に過ごせる!!
アキラは涙がたまった目を見られないように、まだリリーを抱きしめている。
それ以上の欲が出てこないことに、アキラは再び安堵しながら。
もう二度と住めないと思っていた皇城に帰って来られる。
日常を取り戻せる。
リリーの近くで過ごすことが出来る。
愛しいリリーのお陰で。
ああ、しょうが無いな!!
リリが望むまま、まだお兄ちゃんでいようか。
アキラの少し長い家出は、終了した。




