86…大成し、
はっきりとは見えないが、人影が身体の動きを確かめている。
少し経つと、段々と姿が見えるようになってきた。
『はっ! すげーな! まさか、この姿に戻れる日がくるとは。リリは立ってんな……まだ魔力残ってんのか? 人間にしとくのが勿体無いな』
聞いたことのあるような、ないような、そんな声で口の悪い超絶イケメンが立っている。肌が浅黒く、黒髪は三編みでまとめていて、かなり長身だ。
初めて会うのに懐かしいような、悲しいような。
「魔神で合ってるかしら……?」
リリーは初めて魔剣が言葉通りに悪態をつくのを目の当たりにする。
『あーそうだ。久しぶりに自由に動ける……お前のお陰だな』
魔剣はリリーの髪を手に取ってキスをして、上目でニヤリと笑った。
挨拶とはいえ髪にキスされて、リリーは真っ赤になってアワアワしている。
イケメンはアキラやユウで見慣れているはずなのに、リリーは理由もわからず緊張してしまう。
『ほーんと! 勿体無いってのには同意するわ〜。でもいきなりそれは無いんじゃない? リリが困ってるわよ』
誰かがリリーを魔神から引離し、自分の懐に入れて両手でホールドした。
う、動けない……何この怪力美人?!
リリーは声でそうかと思ったけれど、対象が綺麗過ぎて自信がなかったらしい。
「あの……ど、何方様かしら?」
『はぁあ?! そこは"聖神”でしょ?!』
「ああぁぁ、やっぱり聖神よね……。いえ、そうかしらって思ったのだけど」
聖神は黒髪ストレートのワンレンで、すらっとしていて色白美人でこちらも背が高い。
「やっぱり美人ね」
『やっだー! そう?! リリは本当に良い子ね!!』
リリーの頭に頬擦りしながら、ホールドしていた腕に力を込めたため、リリーは苦しくなって聖剣の腕をパシパシ叩く。
『あら! ごめんなさいねぇ。大丈夫??』
リリーは咳き込みながら、少し激しめの男性かと想像していたのにと、聖剣の腕の中から見上げた。
細くて綺麗なのに、恐ろしいくらい怪力だなんて、ちょっと残念な感……
『ちょっと!? さっきから何か失礼なこと考えてなぁい?』
「ぜ、ぜぜぜんぜん!!!」
聖神の腕の中で、リリーはモゴモゴ動きながら一生懸命否定している。
「はは! リリ、それは肯定と同じだ。それに、やっぱりお前は喋り過ぎだ」
側で一部始終を見ていたユウが、堪らず吹き出しながら、聖神からリリーを難なく取返した。
ユウには怪力が効かないらしい。
『チッ、この姿に戻っても、お前は主なのかしらね。強く出られないようになってるみたいねぇ』
不服そうに聖神が溜息をついた。
「主に舌打ちしたな……」
『私たちはリリを気に入ってるの! あんたに邪魔されたら何も出来ないじゃない』
魔神の方に少し近付いて聖神は腕組みした。
頭を掻きながら魔神の方も肯定のような顔をしている。
「は?! 何をする気なんだ……何もするなよ!!」
ユウは聖神だけでなく、魔神の方も向いて釘を差したが。
『はっ! 俺等がおとなしく聞くわけねーだろ。精々お守りするこった』
予想通り、やはり聞く気はないらしい。
「……リリ、こいつら剣に戻せないか?」
ユウは頭を抱えながら神を名乗る2人を睨んでいる。
「戻さないと、何だか危ないみたいね。魔力を抜いたら良いのかしら。でも、どうやって」
いくら鈍いリリーでも、2人は何かしら危険であると感じとった。力では何故かリリーは聖神と魔神には敵わない。
『ま、城に帰ろーぜ』
魔剣はリリーの前に突然現れ、頬にキスをして抱きかかえた。
もう瞬く間に、誰も何も出来ず、魔剣とリリーだけ瞬間移動で戻ってしまった。
一瞬リリーの視界に、怖いくらいキレているユウが目に入った。
きっと早く帰ってきてくれるだろう。
◇
ドサッとついた場所は、皇城の桜花宮。
リリーのベッドで、仰向けに倒れたリリーを魔剣は動けないように跨って腕を押さえつけている。
『さ、到着だ。やっぱ見れば見るほど良い女だな。核も……似てんな』
何に似ているのか聞きたいけれど、リリーは緊張でもうどうにかなりそうだ。
「魔神、離してっ」
そんなリリーの首筋に魔剣は口を近付けてきて、一噛みした。
「いっ!!」
痛い!!
涙目になったリリーの反応に満足したのか、嬉しそうに次は優しく噛み付いた。
「!!!」
早く口を離して!! 何てことするの?!
魔剣の能力なのかリリーは全然力が入らず動けない。足をバタバタするのが精一杯だ。
バンッ
リリーの貞操の危機かと思ったその時、扉が勢いよく開いた。
「……?! アキラ!!」
アキラが魔神をいとも容易く引き剥がし、リリーを自分の背後に隠した。
リリーはアキラにしがみついて魔神を見ないようにしている。
今にもブチ切れそうなアキラを横目に、魔神は伸びをしている。
『チッ、来んのはえーな。クソが、主は元に戻っても継続かよ。変な設定付けやがって、あいつ。邪魔くせーな』
「……魔剣か」
「魔剣の元々の姿で、魔神って言うらしいの」
アキラの背中で、リリーがまだしがみつきながらモゴモゴ紹介している。
『しょうがねーだろ、お前の欲と一緒に居たんだ。影響はそれなりにあるかもな』
魔神は極悪そうに笑いながらアキラの近くで囁いた。
その時、また扉が勢いよく開き、ギャーギャー叫んでいる聖神を連れたユウが息を切らせて入ってきた。
『聖神様をなんだと思ってんの?! 雑に扱うんじゃないわよ!!』
リリーがアキラの背中に隠れているのが目に飛び込んできて、ユウは力が抜けた。
「あ、兄上……?! ならリリは無事だな?!」
「ユウと、てことは聖剣だよな。俺こいつと話してくる」
そう言うと、リリーに挨拶をして、アキラは魔神を連れて消えてしまった。
もうイヤリングにすることが出来ない、喋り続ける聖剣改め聖神を、リリーとユウに残して。




