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82…本①カノ・オウカ

"もしあなたがこの本を読めるなら。お願い、過去に囚われないで。"


 最初に書かれていた一文は何を意味するのか読み始めた時は分からなかった。


 リリーが魔力枯渇をしてまで得たものは、千年程前に実在した人物の日記のような物だった。



"カノ・オウカ"



 オウカ公爵家の始りで、学園も創った人物。





「だぁれ?」


 小さな女の子が樹の幹からひょっこりと顔を出した。


『あ……見つかっちゃったわね』


「ねぇ、だぁれ?」


 可愛い頭を傾けて、大きな目を向けている。


『あら、人に名前を聞く時は、まず自分の名前を言うのよ』


 女の子は自分を指差して、にっこり笑った。


「カノちゃん……だぁれ?」


 今度は相手に指を指している。


『カノって言うのね。他人に指は指さないのよぉ。私は聖神よ』


 聖神は優しくカノの指を折り畳みながらしゃがみ込んで、カノの目線まで下がった。


「せーしん?」


 カノはキャッキャと喜びながら、純粋な目で聖神の目を見ている。


『カノは何でここに居るの?』


「ママ、バイバイ……。土にねんねよ」


 カノはポロポロ涙を落とし始めた。


『あぁ、死んでしまったのね。他に家族はいないの? ママだけ?』


 カノは涙を零しながら首を傾げている。

 首にネックレスのような物が見えて、聖神はそれをふわりと取出してみた。



『あら、ネックレスに付いてるのは手紙だわ。しかも魔法で書かれてる。然るべき開け方をしないと読めないなんて。人間にも相当極めた子がいたのね』


 聖神は難なく手紙を開けて読み始めた。



"この子はカノ-オウカ、1才。魔力量が膨大過ぎて争い事に巻き込まれるかもしれないので、隠して育ててきました。私はもう長くありません。どうか、この子……"



『魔力量が足りなかったのね。途中までしか書かれていないわ。かなり前に書かれてるわねぇ。2年前くらいかしら。あら、カノ、これが見えるの?』


 カノが真剣な顔をして、手を伸ばして文字を触ろうとしている


「きれーねー?」


『お前のママの字よ……それにしても小綺麗にしてるわねぇ。カノは誰かといるの?』


「あっち!」



『『はっ?!?!』』


 聖神がもの凄く歪んだ顔で驚ている。相手も同様だ。


『何でお前が居るの?!?! よりによって、お前! がっ!!』


 相手は同じ若しくは更に嫌そうに悪態をついた。


『はぁー?! こっちのセリフだクソが。てめーが勝手に来たんだろーがよ』



「けんか、めーよ」


 カノは口の悪い男の服を掴んでぴょんぴょん飛んでいる。


『あら、ごめんなさいねぇ、カノ。良い? 間違っても、あんな言葉遣いしちゃダメよ』


 男はしゃがんでカノと目線を合わせた。


『お前が連れてきたのか、おい、カノ。何でもかんでも連れて来んなって言ってんだろーが。前はイノシシ、次はウサギ、ヘビ、そんでこいつかよ……』


 男はカノの頬を優しくぷにぷに掴みながら文句を言っていて、カノはキャッキャと楽しんでいる。


『ちょっと?! 獣と同列にするんじゃないわよ!! まさか、お前が……お前が人間の子を世話するなんて』


 男はひょいっとカノ抱きかかえて、聖神を睨んだ。


『うっせーわ。こいつの魔力の質が気になって覗いてたら、見つかって……離れねーんだよ』


 カノは楽しそうに、男の顔をペタペタ触って抱きついて遊んでいる。


『私も見つかったのよ……この子何なのかしら。あ、私もカノが気に入ったから、ここに居ようかしら! ヨロシクねぇ』


 聖神はウィンクしてカノを見て手を振った。魔神は最高にげんなりした顔をしている。


『はぁ、最悪に変な拾い物しやがって』


 男は手でカノのほっぺをギュッと寄せた。


「ましむ!」


魔神ましんだ、早く言えるようになれ』


 カノは始終にこにこしていた。


 カノが3才の頃のお話。

 これから20年とちょっと、不思議な3人での生活を続けることになる。




"2人は仲が悪いけど、純粋で、子どものように真っ直ぐだった"



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