表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/127

74…バザー①刺繍という名の触媒

「私、自分のリリーという名前はもう自信を持って刺繍できるわ」


 リリーがフンスッとドヤ顔で刺繍されたハンカチを見せながら、昼食中のオウカ公爵夫妻とタツァックに説明している。


 バザーで出す物に刺繍をするのだが、リリーの担当はハンカチになり、シンが考えた刺繍内容は、リリー、オウカ、フィズガの3択だった。


 その中で、唯一1つの文字だけで成り立っているリリーという自分の名前を選んだ。

 色々な文字が並んでいる刺繍は、どうやらリリーにはまだハードルが高いらしい。


 30枚のハンカチなんて、もう絶対お目にかからないだろうとリリーは思う。

 最後のハンカチが完成した時は、もうしなくて良いんだとリリーは泣きそうになった。



「あら、それなら自分のハンカチに刺繍してみるのはどうかしら??」


 オウカ公爵夫人がにっこり笑ってリリーに提案してきたが、リリーは「考えておきます」とだけ答えてそそくさと昼食を食べ続けている。


 そんなリリーも何て可愛いんだと、オウカ公爵とタツァックはニコニコ愛でている。



 今日はこれからバザーの品の確認のため、シンがオウカ公爵邸にやって来る。


 リリーのたってのお願いで、シンが趣味として作った刺繍達を持って来てくれるのだが、リリーはそれが楽しみでしょうがない。




「これは……私が買い占めたいくらいだわ」


 リリーはシンの作品を見て感嘆の溜息をついた。


「いやいや、そんなわけっ」


「あるわ!! シリイ、来て! ちょっと見てみて」


 シリイがリリーの元に来て、シンの刺繍を真剣に見始めた。


「あら、これは繊細で丁寧ですね……貴族用のお店でも商品に出来ますよ」


「シリイは若い頃、刺繍で有名だったのよ」


 お金は要らないと言うシンに無理矢理それ相応の金額を払って、リリーは刺繍のレースやショール、ワンピースを買い取った。

 最後に「お店を出すなら私が出資するから」という言葉を添えて。


 肝心のバザーに出す商品達は、リリーの刺繍も何とか合格出来たので、あとは当日を待つのみとなった。




「ユウ、どうかしら? シンが作った刺繍のスカートなの」


 シンから買い取った刺繍の作品に紺のスカートがあったので、バザーの日にそのスカートを着ることにしたのだ。


 ユウは称賛しながら、リリーを眺めている。


「この刺繍、皇城でも使えそうだな」


「でしょう?!シリイも褒めていたのよ」



 リリーは刺繍を見せるようにスカートをヒラヒラさせた。ユウは刺繍を真剣に見ている。


「着ている人物が映えるようになっているな……それはリリだからか? 俺が見てるからか? リリは刺繍が無くても綺麗だが……」


「えっ」


 ユウが小声で独り言を言い始め、リリーはどう答えたら良いか言葉に詰まっている。


「殿下! 声が漏れてますよ」


 慣れた対応でトウマが後から近寄って声をかけると、ユウは勢いよく振返った。


「漏れてます、声、全部。リリー様が困ってます」


 フリーズしたユウとリリーを見ながら、トウマは生暖かい目をしながら2人から距離を取った。


 確かにリリー様の美しさは格別だ。今日も平和だな……




「あ、あと、ユウに、これ……」


 ユウの名前を刺繍したハンカチを渡した。


「ラッピングをしようか迷ったんだけど、今日使ってもらえたら嬉しいなと思って」


 ラッピングなんてしてもらっていたら、そのまま部屋に飾られて確実に未使用のままだっただろうと、トウマは想像している。


 ユウが何も喋っていないトウマに一言「煩い、何となく」と言った後、リリーに振返ってリリーの手を取ってキスをした。


「ありがとう。本当に嬉しい」


 ユウは、リリーからもらったハンカチにキスして、ポケットに丁寧に入れた。


 ああ、ラッピングしなくても使わず保管か、まぁ分からないでもないなとトウマは同意してしまう。




「へぇ、刺繍のスカートか」


 アキラが冷たい目でリリーを見ながら屋上に座っている。

 今日は黒いピアスを付けて。魔剣に当てられてアキラは少し不安定らしく、解呪すると危険な日らしい。


「執務があって良かった……」


 リリーから目が離せず、アキラはその場からなかなか動けない。


「他の男が作った服を着るのもなかなか腹が立つな」


「そんな物を着なくて良くなるように、もうリリーを……」


「それとも周りの男を……」


「どうしてやろうか」



 独り言を言いながら、ゆっくり立ち上がったアキラは人知れず消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ