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72…足りない

 リリーとユウは、暖かい部屋でブランケットを一緒に使いながらソファに座っている。

 片手には食べやすいお菓子を持って。

 記録魔法で映像が流れていて、リリーもユウも見入っている。


 その映像からはアキラの声が聞こえている。

 リリーもユウもアキラが足りなくて、映像で補うことにしたようだ。




「今日まで皆と共に在れたことを誇りに思う……と、ここまでが答辞のテンプレ挨拶だ」


 客席からクスクス笑い声が聞こえる。アキラも一緒にふっと笑って続けた。


「さて、父が卒業式に面白いことをして以来、会長が卒業の時は芸を披露することが恒例になってしまったようで申し訳ない! 俺はこれしかないので……お楽しみいただけると幸いだ!」


 アキラは指を鳴らし、珍しく魔法を使った。会場いっぱいに小さな氷の結晶が広がり、光を反射してキラキラと素敵な空間を作った。


「リリ! おいで」


 何も聞かされていなかった在校生側にいたリリーが、目を真ん丸にして壇上へ向かった。


「……??」


 アキラはにっこり笑ってリリーの手を取ってキスをした。


「俺の記念すべき卒業式のダンスの相手を、して下さいませんか」


 リリー相手なら第一皇子は腰を低くしてお願いをするのだと、その場に示しているのだ。

 それだけリリーは第一皇子にとって特別だと、決して他は手を出さないようにと他者を牽制をしている。

 勿論、その場に貴賓として座って不服そうに見ているユウにも。


 そんな事露知らずのリリーはふわりと笑った。


「勿論、喜んで」


 アキラとリリーは、スローだけれど難易度が高いと言われているダンスを綺麗に完璧に踊り、周りを魅了した。


 曲が終わった時、アキラはまた指を鳴らした。

 今度は天井に虹が架かり、アップテンポの曲が始まった。


「皆踊れ!!!!」


 アキラもリリーも舞台上で踊って楽しそうにしているが、参加者総員で客席側もとても楽しそうに踊っている。

 今までにない、笑顔で溢れた卒業式となった。



「では諸君、またいつか! 其々の健闘を祈る!!」


 拍手喝采に包まれながら、アキラは手を振り、リリーを連れて舞台脇へ退場していった。


 大盛り上がりでアキラの学園生活は幕を閉じた。





 アキラらしい卒業式だったなぁ……とリリーは懐かしんでいる。


 あのダンス、実は1回リリーがとちりそうだったけれど、アキラが笑顔で上手くフォローしてくれて事無きを得たのだ。


「やっぱりアキラは凄いわね!!」


「あーーやばい!! 兄上はカッコいいな!!」


 リリーもユウもアキラのファンにでもなったかの様だ。


「次はどれを観る??」


「他のダンスタイムとか残ってないか?」


「んー見つからないわ……あっ、これなんてどう? ダンスはダンスだけど」



「小さい!! 兄上が可愛いとか、何なんだ」


「この頃からダンスが上手だったのね」



 学園は卒業式の後は長期休業となり、次は春の入学式だ。冬は寒くて外に出られたものではないので、屋内で仕事や勉強しかすることが無い。

 今日は珍しくリリーとユウの予定が空いていたので、話合ってアキラを観る日にしたようだ。


 徹底的にアキラの映像を観る日。



「何やってんだ……」


 アキラが扉の外側で座り込んでいる。


 2人が一緒にいると聞き付けて、アキラは気になってこっそり覗きに来ていた。


 リリーとユウは、アキラが扉の外に居るなんて思ってもいないので、外を気にすることもなく次から次へとアキラの映像を流している。


 自分の映像ばかり観て大絶賛の感想を言い合うリリーとユウが可愛くて可愛くて、アキラはその場から離れられなかった。

 従者達はもう1つ向こうの扉に待機している。だから、アキラはずっと2人のやり取りを聞いていたのだ。


 会いたい


 アキラは今直ぐ傍に行って2人を抱きしめたかった。

 でも、その欲でどうなってしまうかわからない。

 危険だという事だけは分かっている。



「出来ない」



 執務を少し残して来てしまったが、それで良かったのかもしれないとアキラは思った。

 戻らなければならないから。


 アキラは目を閉じて立ち上がり、自分を落ち着かせるように深呼吸をした。


 そして、顔が真っ赤なまま、その場から消えた。



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