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71…リリーとユウの頑張り

「痛っ」


「大丈夫か? もう止めておくか?」


「ううん、大丈夫。最後までやってみたいの」


「俺がそろそろ限界なんだが……」


「お願い、ユウも頑張ってくれないと」




バンッ


 扉が勢いよく開かれた。


「リリ?!」


 青褪めたタツァックが開けたらしい。



 ユウが一緒に居ると聞いたので、執務の合間に様子を窺うべくリリーの部屋の前を通ったら、何をしてるんだかわからない会話が聞こえたので急いで開けてしまったのだ。



「あ、お兄様! どうしたの??」


リリーは刺繍を頑張っていたらしく、針を持ってキョトンとしている。


「あ……お裁縫してたのか。ごめんね、ノックもせず。じゃあ、頑張って」


 タツァックは手を振ると、リリーはにっこり笑った。


「はい! ありがとうございます!」



 タツァックはホッとして扉を閉めて出て行った。

 リリーのしていたことは健全な事だったので安心してしまったのだ。

 リリーしか、リリーの手元しか見ていなかったから。


 執務室に戻って、タツァックは冷静になった時に思い出した。



 リリーがユウの膝に座っていたのを。



 ユウがソファに片足胡座している上にリリーは座り、ユウに背中からもたれかかって裁縫をしていた。

 ユウが限界なのは、足が痺れたか、支えていた腕か、それともメンタルか。


 可愛い妹を膝に乗せるなんて、タツァックだってもう何年もしていないのに。


 許せない……



 しかしオウカ公爵が知ってしまったら、ユウが消されかねない。反逆罪だ。タツァックはまだまだリリーを愛でながら長生きしたい。


 リリーの部屋への巡回はさせないようにしなければ……余計な仕事が増えた気がして、またしてもユウへの恨みが積もっていく。


 僕もリリーを抱っこしたいくらいなのに!!


 常識ある兄でいるためには、そんな事口が裂けても言えないことをタツァックはよく分かっている。


 以前、可愛くて可愛くて激しくよしよししていたのだが、「私は愛玩動物ではありません!!」と数週間近付いてくれなかったのがトラウマになっている。


 あんな辛い事になるくらいなら、常識ある兄になって近くにいる方が良い、とタツァックは判断したのだ。


 だがしかし、やはりこの日のタツァックはなかなか落ち着けず、ストレスフルな日となった。





「……わかったわ、ユウありがとう」


 やっと開放され……


「今度パクツ叔父様にしてもらってみるわ。支えられていると動きたい気持ちが抑えられるみたいなの」


 はあぁぁぁああ?!?!何故よりによってウィステリア候爵なんだ。


「前は古代文字を教えてもらったの」


 もう既にしてもらってるのか?!?!


 ユウは足の感覚が限界まできているが、パクツにこの役を取られるくらいなら、なんてこと無いと思えた。


「リリ、俺なら大丈夫だから、来い」


「もう大丈夫なの??」


 ユウは意を決して頷いた。



「ウィステリア候爵には頼んだら駄目だからな」


「……ん」


 リリーはもう刺繍に集中している。きっと聞いていない。

 ユウは溜息をついて、リリーの真剣な横顔を眺めた。





 刺繍を手伝ってくれる人が生徒会メンバーで見つかった。シン・ウィン・プラム、カヨと同じ6回生だった優しい男子学生だ。


 シンが妹の刺繍を手伝っていると、妹よりシンが上達してしまい、はまってしまったのだという。

 "男で刺繍"はひた隠しにしてきたのだが、皆の頑張っている姿に感化されて、今回生徒会内のみでカミングアウトしたのだ。


 先日カヨとシンは卒業してしまったのだが、皇城内で仕事の見習いをするらしく、まだ近くに居るそうだ。


 リリーは首の皮一枚で繋がった気分だったとか。


 シンは妹を手伝いながら教えていただけあって、なかなか教え方が上手い。

 リリーは「シン先生」と呼んで懐いている。

 男爵家のシンは公爵家のリリーにそんな呼ばれ方をされて、毎度大変困った顔をしている。




「ユウ!! 出来たわ! 文字ならいけると思わない?! どう??」


「ああ!! たぶん読める!!」


 ユウは足の感覚が面白いことになっていることに意識がいってしまい、勢いで答えてしまった。


「たぶん……」


 リリーはしょんぼりして、刺繍を指で触っている。


「"ユウ"にしたのに。初めての名前の刺繍。だから頑張ったのに……」


 しょんぼりしたリリーを見て、ユウは慌ててリリーを抱きしめた。


「読めるっ。すまない、俺の名前かどうか自信がなかっただけでっ!! ありがとう。すごく嬉しい」


 リリーはユウの腕から顔を出して、ユウの目を見た。


「本当?? 絶対??」


「本当だし、絶対だ」


「なら、良いのだけど」


 リリーは照れくさくなって俯いたら、ユウはリリーの顔を覗き込んできた。


「リリ、キスして良いか?」


 ?!?!


 リリーは今までそんな許可を取られたことがなかった。改めて言われると、どう返事をしたら良いかわからない。


「あの、えっと……?」


 リリーは自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。

 リリーが恥ずかしくて手で隠そうとしたら、ユウは手を掴んでくるし、本当にどうしたら良いかわからない。


 良いと言うだけなのに、それがこんなに難しい事だなんて。

 早く言った方が楽になりそうだけれど、リリーはなかなか言葉が出ない。


「ど……」


「ど?」


 ユウは許可が欲しかった。

 きっと誰もされていない、リリーからの言葉での許可が。それを楽しみにユウは先程頑張って耐えていた。



「ど、どぅぞ。何故、聞くの?」


「突然して嫌われたくないから、かな?」


 ユウはサラッと答えた。


「何をされても嫌いになんてならないわ。ユウを大好きだから」


 目を大きくして、ユウは真剣にリリーに言った。


「その言葉、言った事をこの先も絶対覚えててくれ。忘れたなんて言わせないからな」


 そしてユウはリリーに優しくキスをした。




 トウマが煩い聖剣を持って迎えに来るまで、あと少し。



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