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67…文化祭③唯一無二の財産

「これは何??」



 装飾が美しい台座の上にガラスの球体が置いてある。その中には透明な液体が入っていて、底には小さいキラキラしたものが沈んでいる。


 看板に[魔力をほんの少しだけ込めて指で触れてみてね]と書かれてある。



 女の子の母親が触ってみた。



「「綺麗!!!!」」



 ガラスの中の液体が回流し、そこにあったキラキラが舞い始めた。

 すると、ダンスで定番の音楽が鳴り始め、液体の中に雪だるまが映し出された。

 先ほど舞ったキラキラがまるで雪のようで、幻想的な景色が球体の中で広がった。


 これは貴族用に考えたオルゴールで、今文化祭でとても注目を浴びている。

 オルゴール自体は何年も前に流行は終わったが、当時流行ったのは木の箱を開けたら音が鳴るシンプルな物で、この様な複雑な仕掛がある物は存在しなかった。



「これ欲しい!! お母様、買って?」


「そうね、これは綺麗だわ。それに、これからの季節に良いわね」



 これで、開始2時間で15個目のお買い上げだ。思った以上にハイペースで、残りがあと20個。

 オウカ公爵も買いに来ると言っていた、このオルゴール、少しずつ噂にもなっているらしい。



 複雑で細かな仕掛を入れるには、技術の高い職人へ頼まなければならない。

 公爵家のご令嬢であるリリーは昔から懇意にしている腕の良い職人がおり、お願いすることが出来た。


 カヨの言っていた、他の誰にも真似できない"公爵令嬢として出来る事"である。


 領地の経営等を知らないとショックを受けていたリリーに、カヨは知ってほしかったのだ。


「階級の高い貴族で尚且つ人柄も良いリリー様の人脈は、誰にも真似できない唯一無二のリリー様の財産です」



 側に居たユウが感心している。


「カヨは凄いな。なかなか人が気付ない事に気付き、それを言葉にして伝えてくれるとは。リリも有難い以外の言葉が無いな」


 リリーは嬉しくて言葉が出ないけれど、全てユウが代弁してくれた。


 言葉が詰まるので、リリーはカヨに抱きついてみた。

 カヨは一瞬驚いて、でも直ぐに妹をあやすように背中をさすって笑顔になった。


「リリー様が、こんなに可愛らしい方だとは知りませんでした。同じ生徒会になれて、本当に良かったです」


 リリーは涙を堪えながら、一生懸命言葉を出した。


「様は要らないわ。リリーと呼んで欲しいのだけど……」


「えっ…………ど、努力してみます」


 リリーはガバっと顔を上げて、カヨを見た。


「約束よ?!」


 格が違う人を呼び捨てなんてしたことのないカヨが目を白黒させている。


「リリ、急には無理だろう」


 同情したユウが合いの手を入れて、リリーをカヨからそっと離した。


「……ごめんなさい、私ちょっと押しが強いみたいで」


 ユウの服をギュッと持ちながら、リリーは照れくさそうに謝った。

 そんなリリーが可愛くて可愛くて、ユウは勿論の事、カヨもリリーを抱きしめたくなってしまった。




 リリーはカヨに言われた事が本当に嬉しくて、家族全員揃った夕食時にその話をした。


「カヨが、そう言ってくれたの!」


「それは良い事を言ってもらえたね。ビスカ伯爵の娘だよね」


 オウカ公爵が感心しながら水を手にした。


「本当に、なかなかそんな事には気付かないですよね。良いメンバーに恵まれたね」


 タツァックもニコニコしている。





「でしょう!! ユウもね、その話をしたら、カヨを褒めていたのよ」



ゴフッ


 オウカ公爵は楽しい食事時に、不愉快な名前を聞いて水を吹き出しそうになった……のを堪えてしまい、鼻だか目だかから水が出そうなことになってしまっている。


「お、お父様大丈夫?!」


 名前を出したのはリリーなのに、オウカ公爵はもうユウに怒りしか無い。

 リリーがユウの名前を出したのもユウの所為で、こんな状態になったのもユウの所為なのだ。

 何よりもリリーが嬉しそうに名前を出すのが、オウカ公爵のみならずタツァックも、とにかく気に入らないのだ。

 タツァックは冷静を装っているが、フォークを持つ手に力が入っているように見える。



 オウカ公爵夫人はそんな男2人を呆れた顔で流しつつ、リリーに微笑んだ。

 良い人間関係に恵まれて、本当に良かったと。

 そして、落ち着くところに落ち着きそうで良かったわ、と。




「ふふ、ユウが婚約者で良かったわ」


 リリーが独り言の様にそう言いながら、デザートを美味しそうに口にしている。



 あぁ、何故……可愛い娘は素知らぬ顔で父と兄に鋭くトドメを刺すのかしら。



 オウカ公爵夫人は、同情の苦笑をするしかなかった。


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