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62…公爵令嬢として

「私……何も知らないわね」


 カヨがふふっと笑って、リリーの強張って力が入っている手を優しく自分の手で包んだ。


「リリー様が経営力を備えていたら、私達の立つ瀬が無いです。公爵令嬢としてのマナーや知識、所作、考え方、話し方、挙げたらキリがありませんが、私達から言えば、リリー様は完璧です。女の私から見ても見惚れてしまうくらいですよ」


 リリーは大きな目でカヨを見ている。


 カヨは丁寧に真剣に話をしていて、その気持ちがリリーに届かないわけがなかった。


 こんなに嬉しい事を、同年代の同じ様な立場の人から面と向かって言われたのが初めてだったので、リリーはうっかり泣いてしまいそうだった。



「まぁそうですよね、適材適所と言いますか、その立場その立場で求められているものは違いますからね」


 ジュンもカヨの発言に納得しながら、自分の意見を付け足して、リリーに向かって話している。



「ええ、その上、剣術まで完璧だなんて! もう誰も敵う人はいません。ご存知ですか? 剣術大会でリリー様が着ていた服、今貴族の女性達の間で乗馬服として大流行なんですよ! 半年待ちです。リリー様は、誰もが羨む女性なんですよ」


 カヨがそう言うと、リリーは自分の手を包んでくれているカヨの手を包み返し、にっこり笑った。


 そして、リリーはカヨの手をそっと離して、社交界一と言われるカーテシーを見せた。



「本当に嬉しいわ。ありがとう」



 学園の制服ではあったけれど、まるでドレスを着ているかのように見えたそれは、長らく全員の目に焼き付いていた。



「リリ、皆驚いてるぞ。カーテシーは出し惜しみした方が良いんじゃないか」


 ユウが後からリリーの手をとってキスをした。


「俺もリリは完璧だと思う」



 カヨにもユウにも褒められて、リリーは嬉しくて恥ずかしくなってきた。



「でも、何もしないのは……2人の足を引っ張りたくないけど、何か出来ないかしら」


「では、公爵令嬢としてやっていただけますか? リリー様にしか出来ないことです」


 カヨはにっこり笑っている。何を頼もうとしているのか気付いたジュンも、機嫌が良さそうだ。


「私に出来る事なら、是非!」


 何よりもリリーが楽しそうにしている。



 ユウの耳飾りが心なしか少し輝いている。


 聞こえないはずなのに、ユウは最近聖剣の突っ込みどころがわかってきて、少し前から耳元が煩い。



 アキラが消えてしまってから、リリーは塞ぎ込みがちだったので、ユウは少し寂しいけれど、それよりも安心した。


 勿論リリーが他の男と関わることになるのは心底嫌だが、リリーの世界を狭くして囲おうとする他の男達の様にはなれないとユウは最近気付いた。


 そして、リリーの世界が広がっても、自分が選んでもらえるんだという自信を持てるような大人にならなければと、ユウは考えを変えることにした。





「ユウ、私頑張るわ! 見ていてね」



 振り向いたリリーのキラキラした目と、ユウの目が合った。



「勿論、どんな時も」




 これから先も、ずっと、ずっと、側で見ている。


 側にいられる人間で在りたいと切望する。


 一番近くで。





「……」


 ユウはイヤリングを、掴んでみた。


 何でこんなに煩く感じるんだ?本当に会話できないのか?


「捨ててやろうか」



『はぁぁ?! 何てこと言ってんのよ!!』


 聖剣が言っていることが、ユウは予想出来る気がした。

 頭がおかしくなっているかもしれない……



 ユウは溜息をついて、とりあえずリリーの頭に自分の頭をくっつけて落ち着くことにした。



 人前であることを忘れて……




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