7…第一皇子アキラとリリー
「はい」
リリーが自らドアを開くと、アキラが立っていた。
「っ!アキラ?!」
「リリ!!」
アキラはリリの腰を両手で持つと、子どもをあやすようにふわりと持ち上げた。
「きゃっ!!もう!子どもじゃないって言ってるでしょ!……あははっ」
リリーは慌ててパシパシとアキラの手を叩く。
いつも持ち上げられて恥ずかしいけど、リリーはちょっと楽しんでいたりもするのだ。
「はははっ」
アキラは笑いながらぐるぐる回って、いつもならリリーを着地させるのだが、そのままふわりと抱きしめた。
思いがけない行動に、リリーは驚いた。
けれど、きっと婚約の話で嫌な思いをしたのかもしれないと思い出し、アキラを抱きしめ返した。
いつもとは違うリリーの反応に、アキラは驚いた顔をしたが、すぐに察した。
「……リリ、聞いたんだな?」
「うん」
「そっか、だから優しいのか」
アキラはもっとしっかり抱きしめて、リリーの肩に顔を埋めた。
「何そのいつも優しくないみたいな言い方……」
「ははっ。我がお姫様はいつも優しいよ。剣術で相手した時容赦なくて傷だらけにしてくれるけど、優しいよな!」
リリーの頭に自分の頭をグリグリしながら、珍しく甘えているようだ。
「それはっ、関係ないでしょう?!」
ははっとやっぱり笑いながらアキラは顔を上げて、リリーの顔を両手で優しく包んだ。
「リリが一番大切なのは変わりないからな」
リリーは少し考えたような顔になって、アキラの目を見た。
「……ねえアキラ、何でマリルなの? あの子、まだマナーも何も身についてないわ」
一番聞きたかった事を忘れる前に言わなければと、リリーはそれしか頭になかった。
「俺の話、聞きいてるか? まったく気持ち良いくらい平常運転だな」
アキラは呆れながら、気になったことがあったら一直線のリリーも可愛いけれどと思い、溜息をついた。
「ああ、あれはヤバいよな。でも、ちょっとね。本当はリリの相手が良かったんだけど。……まぁ、婚約者はできたけど、いつも通りでいくから!」
と、アキラはリリーの顔を両手で包んだまま両頬にキスをして笑った。リリーへのスキンシップが多いのは変えないということらしい。
リリーは幼い頃から毎度のことなので、はいはいと普通に受け流している。
コンコン
扉が叩かれる音がした。
「少しは遠慮しろ、兄上……クソッ、もっと早く来るべきだった」
開いたままの扉をノックしながら、ユウはアキラを睨んでいる。
「ああ、ユウか」
「ユウ! ひゃっ」
駆け寄ろうとしたリリーに後ろから抱きつき、アキラはリリーを捕まえた。
「なっ!? 兄上、何してっ」
「目の前で婚約者たちが仲良くしてるのは気に入らないから、邪魔しようと思って。俺のは、あんなだし、可哀想だろ?」
リリーには見えないが、アキラが挑発的な眼差しでユウを見ている。そんな事が今まであったことが無く、初めて見る従者たちは、戸惑いながら見守るしかなかった。
「少しは当たらせろ」
アキラは捕まえているリリーの頬にまた軽くキスをした。
「あんな余裕ない奴より、俺の方が良いって父上に言ってくれて良いからな」
くるっとユウの方へ振り返ってニヤリと笑った。
「で、ユウはいつから盗み聞きしてたんだ?」
「は?! 人聞きの悪い……迎えに来た時に兄上がいただけだろ」
「ユウ、いつからいたの?? 声をかけてくれたら良かったのに」
リリーは、この兄弟のやり取りに慣れているシリイに淡々とショールを羽織らせられながら声をかけた。
「……いつもより優しいってとこからだ。一番大事なところをスルーされて残念だったな」
リリーの方を向かず、アキラを見てザマミロといった顔をやり返している。
準備が終わったリリーは、ユウに近付いてギュッと抱きしめた。
「へ?!」
「昔から、アキラもユウも同じ様にしてたから、そういえば最近してなかったなーって。お久しぶりに! これで一緒ね」
突然の久々のリリーからの抱きつきに言葉も出ず、ドヤ顔のリリーを瞬きも忘れて見つめ、ユウは顔を真っ赤にして驚いている。
幼い頃はそれこそ皆で抱きついて遊んでいたのに。
アキラは何かを思いついたらしく、ニヤニヤしながら手をバッと広げた。
「お兄ちゃんもしてやろうか?」
「は?! えっ遠慮する!!」
リリーを真ん中に、2人でエスコートしながら夕食へ向かった。
3人で、笑いながら。
このような日がずっと続きますようにと、3人の後ろ姿を目にしたシリイは強く願った。