58…剣術大会②道連れと決意と
リリーが順調にまた相手の剣を弾き飛ばして、勝者になった。次は決勝だ。
ご令嬢達までリリーの姿に惚れ惚れとしていて、リリーが手を振ろうものなら、黄色い声を上げている。
「勘弁してくれ……もうこれ以上注目を浴びなくて良い」
貴賓席に座っているユウはまた頭を抱えている。
リリーの勇姿を見るために、学園には意地でも来たがらなかったオウカ公爵とウィステリア候爵が今日は居る。
娘の活躍を見て、冷静を装って内心ウキウキのオウカ公爵が、貴族と絡むのを嫌う無愛想なウィステリア候爵を連れて貴族席に座っている。
リリーのためなら、2人共それなりに我慢できるようだ。
ユウはタイムが居ないのが不思議だった。意地でも来ると思っていたのに。
勿論タイムは来るために準備をしていた。
そんな中、アキラが真剣な顔でやって来て、タイムの腕を掴んだ。
「お前は行くなよ?!」
アキラが珍しく真剣な顔をしていると思ったら、物凄い我儘を言っていることにタイムは呆れている。
「何でですか。俺は行きますよ」
「俺が行けないんだから、行くなよ。一緒にいじけようぜ」
本当にこの人は自分より7年も先に生まれてきたのかと、タイムは疑いたくなった。
「一人で静かにいじけて留守番して下さい」
アキラは淡々と支度をしているタイムに付き纏ってくる。
どこからどう見ても邪魔をしているのだ。
「俺だけ行けないとか辛過ぎるだろ。道連れにするからな」
「は?! マヂで何なんすか。知らないすよ」
こっそり抜け出す算段もして、パクツと同じ馬車に乗って、タイムは安心していたのに……
アキラは瞬間移動で乗込んで、呆気にとられるパクツを尻目に、タイムだけ連れて消えてしまった。
「タイム借ります」
という言葉と、タイムのふざけんなの「ふ」を残して。
パクツは連れ去られたタイムの顔を忘れられず、フッと思い出し笑いしてしまった。
「笑うなんて珍しいね。槍でも降るんじゃない?」
目を大きく開いたオウカ公爵が、パクツに話かけた。
貴族席は其々の席がそれなりに離れているため、小声なら周囲に聞こえない。
来る時の話を説明をすると、オウカ公爵は少し安心して「それは残念だったね」と裏腹な言葉を返した。
リリー狙いの人間は少ない方が、オウカ公爵の目が届きやすいので安心なのだ。
昔からアキラにはリリー関係のみならず散々とやられているので、アキラが居る時のオウカ公爵は気が気でない。
アキラは表向しっかり色々こなして何でも出来る皇子様だが、オウカ公爵の中では一番の問題児で、目が離せない、大人の皮を被った子どもだ。
決勝がそろそろ始まる。
鐘が鳴り、リリーが上手から、タナー小公爵のトウマが下手から出てきた。
トウマはリリーと剣を交わすのが初めてだ。
恋い焦がれている相手と勝負することなんて、想定していなかった。
先ほどの休憩中、相手がリリーだと決まってから一人でパニックになっていた。
話もしないように近寄らないようにしてきたのに、よりによって剣術とか……何考えてるんだオウカ公爵家はっ。
長年隠してきた想いを酷く拗らせているトウマにとって、剣を交えるために近寄らないといけないのも試練だ。
一礼した後構えたが、トウマは正直どうしたら良いか迷っていた。
ガッ
「うぉっ! 重っ」
リリーが全く無駄のない太刀筋で攻撃してきた。
トウマは目を見開いて冷や汗をかいている。
「あら、油断してたら、すぐいただくわよ」
リリーはにっこり笑ってトウマを見た。
これが、戦場の舞姫……
件の喧騒は箝口令が敷かれたが、その言葉だけは実しやかに噂としてトウマも耳にした。
気を使っている余裕はないと理解したトウマは、目の前にいるのが恋い焦がれている人物だと忘れて剣を振るしかなかった。
リリーは剣を避ける仕草まで美しい。
そして、トウマは全く太刀打ちできない。
決勝にも関わらず、トウマは防戦一方で、いっぱいいっぱいだ。
自分が追い詰められている事が、傍から見なくてもよく分かった。
こんなに差があるなんて……ショックが大きい。
これじゃあ、皇太子と皇太子妃を守るどころではない。今のままでは足を引っ張ってしまう。
明日からもっと真面目に鍛錬することをトウマは心に誓った。
そして今回も、リリーはトウマの剣を場外まで飛ばした。
息切れしているトウマに、ケロッとしているリリーが手を出して待っている。
どうやら握手をしたいらしい。
もう、恥ずかしいより悔しいが勝ってしまい、トウマは俯き気味で握手をしてお辞儀した。
「トウマ、ありがとう。楽しかったわ」
トウマはこのリリーの笑顔を一生忘れられないと確信してしまった。
「……こちらこそ、ありがとうございます」
「勝者、リリー・カノ・オウカ」
場内にアナウンスが流れ、リリーの優勝が決まった。




