56…リリーのお願い
学園での授業が終わって帰宅直後、リリーは会うべき人が居る部屋へ向かった。
リリーは未だ嘗て、オウカ公爵の執務室を訪れる際にこんなに緊張したことがない。
それなりに緊張することはあったけれど、今まで以上だ。
深呼吸をして、よしっと気合を入れて、ノックした。
コンコン
「……お父様? 今よろしいですか?」
そろーっと扉を開けて中を覗くと、リリーは執務中のオウカ公爵と目が合った。
「ああ、リリ?? どうしたんだい?」
気不味くなって目を逸らしながら話を続ける、挙動不審なリリー。
「あの、ええっと、私、学園の……」
オウカ公爵は続きが分かってしまい、スンと表情を無にしてしまった。
この時期の学園といえば、アレしかない。
「お父様、お願いします! 生徒会で今準備をしているのだけど、どうしても例年と違う盛り上がりが欲しくて……女性が出ると、雰囲気が違うかしらって」
リリーは両手で祈りながら、まるでオウカ公爵の前で懺悔をしているかのようだ。
出たら、良いとこまでいっちゃうんだろうね。
オウカ公爵は、どうせ出るなら……と言いたいところだが、悩みに悩んだふりをして参加を許可をすることにした。
「少しのことで、棄権しないこと。盛り下がることをしないこと」を条件に。
リリーがそんなことをしないことは分っている。けれど、知らない体でいるからには、必要なものだが……
魔法も解禁にして楽を覚えたオウカ公爵は、実はその設定もそろそろ面倒くさくなってきている。
「勿論です!! ありがとうございます、お父様!!」
リリーはウキウキで部屋を出ていこうとしていたが、はたと立ち止まって振返った。
「お父様、良かったら、見に来てくれませんか??」
是非とも!と答えたいところ、オウカ公爵は冷静ににっこり笑ってみた。
以前食い気味で答えたらリリーに塩対応をされてしまい、若干トラウマがあるのだ。
「パクツでも誘ってみようか」
リリーは嬉しくて嬉しくてしょうがないという顔をしている。
「必ずですよ!! お待ちしてますね」
リリーは部屋を出て、スキップしながら部屋に戻っているらしく、陽気な足音が聞こえてきた。
遅れてシリイの嗜める声が聞こえてくる。
オウカ公爵はふふっと笑いながら、パクツに連絡を取ることにしたが……
「あぁ、その前にそれ相応の服を作ってやらないと! テーラーに連絡させなきゃ」
リリーの要望も入れて完成した服は、後日女性の中で大ウケすることになる。
「皆さま、おはようございます!」
リリーが元気よく生徒会室の扉を開けた。
勿論ユウも一緒だが、リリーの後ろで何故か元気がない。
学園行事が近くなると、生徒会メンバーで打合せ等のために授業前に集まったりする、今日はその日だ。
「皇太子殿下、リリー様! おはようございます」
みんなと挨拶を済ませ、笑顔のままでリリーは皆に向かった。
「聞いてください! 私……父から参加の許可が出ました!!」
えーー?! と皆驚いているけれど、1人ユウだけは目が虚ろになっている。
「頑張って下さい! 私達応援します!」
「俺達に出来ることがあれば言ってください」
「怪我はしないで下さいね」
もう、皆で大盛りあがりだ。
ユウを除いて。
「ええ、ありがとう。頑張るので、応援して下さいね!!」
リリーは学園の秋の剣術大会に、初の女性参加者として参戦することになった。




