55…アキラとウィステリア候爵
まるで来るのが今だと分かっていたかのような、そんな格好で待ち構えて座っていた。
オウカ公爵とは大違いで、アキラは逆に戸惑う。
「………………」
こんなに居心地が悪い空間、初めてだな。
「こんばんは」
アキラは皇族の礼をして挨拶をした。
「事情はオウカ公爵から聞いていると思うのですが……侯爵が適任だと伺って、来ました」
「…………」
やっぱ喋らないよなー
きっとオウカ公爵が話をしてくれているだろうし、また事情を聞かされる事を侯爵は望んでいないはずだろうとアキラは考えている。
アキラは、素直に包み隠さず話をすることにした。
「魔剣の禁書を読まれたと聞きました。禁書の中ではやはり相違点が多々あります」
パクツは微動だにせず、目で射殺さんばかりの圧でアキラの話を聞いている。
今までどんな状況もいなせてきたアキラだが、初めてかもしれない緊張を味わっている。
深呼吸をして、パクツの目を見てアキラは話始めた。
「人格は変わりません。マリル嬢をはじめ今までの主は心身が弱過ぎたため、ダメだったのだろうと……魔剣が言っていました」
頷きもしないとか、どうしたら良いんだよ。
アキラは独りで恥ずかしい演説をしているような感覚になった。
「魔剣は、主の欲を増幅させ、その欲の力を魔剣が得ることで強く禍々しくなります。その見返りに、主は力を得ます」
アキラは苦しそうな顔をしながら続けた。
「だから、リリから離れました。俺の一番の欲はリリだから。近くで守って生きたかったですが、俺が一番の害になりそうなので」
話が脱線したことに気付いて、アキラは魔剣の話に戻した。
「魔剣は、このイヤリングになりますが、その間は会話する事は出来ません。見えているようですが……見るのが面倒くさくて眠っているそうです。これは本当かわかりませんが」
アキラの話が終わるか終わらないかで、パクツはバッと席を立って扉へ向かい、荒々しく開けた。
あー、ダメだったか……
アキラは諦めて帰ろうかと思った。
「タイム!! 今すぐ来れるか?!」
…………えっ
アキラは今何を聞いているのか、理解するのに時間がかかった。
初めて聞くパクツの声だった。
"叔父様の喋り方も素敵だったけど"
リリーの言葉が浮かんできて、アキラは一瞬妬ましく思ってしまったが、本当に一瞬だけだった。
ウィステリア候爵が喋った!!!!
自分が全く敵わず相手にされていなかったウィステリア候爵に、少し受入れてもらえた気がして、アキラは素直に感動してしまった。
アキラは心の中でガッツポーズしまくっている。
「はい!! 参ります!」
少し遠くからタイムの声が聞こえる。
パクツは先ほどの様にまたドカッと椅子に座って、今までもずっと会話してきたかのように、普通に話始めた。
「一応魔剣についての禁書も読んだ。お前からも話を聞いて、とりあえずはお前の話を事実とする」
やっぱりリリーの言った言葉が浮かんでくるが、アキラもその通りだと思ってしまったので、今更妬みや悔しさは出てこない。
それよりも、憧れに近い感情が出ている。
パクツはというと、禁書をリリーも一緒に読んだが、膝に乗せたまま一緒に読んだことを思い出し、流石のパクツも、リリーのことを苦しそうに話すアキラには言えなかった。
「……俺に、下の者に、敬語を使う皇族貴族を見るのは初めてだ」
アキラはキョトンとしてパクツを見ていたが、含みのある笑みを返した。
「まぁ、未来の叔父上かもしれませんし」
「……リリーの婚約者は皇太子の方だろ」
呆れたようにパクツはアキラを見ている。
「さあ? 未来はどうなるかわかりませんよ。俺は諦めるとは言ってません。俺が結婚していなければ、まだチャンスはあります」
いつもの様に、アキラはおどけて話をする。
パクツは溜息をつくしかない。
「……不穏な話だな。それも魔剣か」
「ええ、きっと。まぁその魔剣をどうにかして、リリの元に早く帰りたいんですが……手掛かりが全く無くて。為す術無しです」
アキラは表情が曇り、溜息をついた。
その時、タイムが扉をノックして開ける音が聞こえた。
「失礼しま……は?!?!」
驚いているタイムに、アキラは手を上げて挨拶をする。
タイムは周りをバッと見渡し、他に誰もいないこと確認して扉を閉め、もう一度アキラを見て、パクツに向いた。
「父上、今、喋ってましたよね?!」
諦めたように溜息をつくパクツと、満足そうなアキラ……
タイムは少し嬉しそうに笑った。




