53…幸せな記憶
「あ、父上が来た来た!」
「ふふっ、お父様だわ」
「しー! 静かにっ。いいか、せーのでいくぞ」
年上の子がそう言うと、下の2人が満面の笑みでブンブン頷いた。
大人2人分の足音がどんどん近付いて来る。
せーのっ
「「「わーっ!!!!」」」
こんな所に、自分たちの子ども達が出てくるなんて、誰が想像しただろうか。
ここは皇城の地下の立入禁止区域。
皇帝はフリーズして目を白黒させている。
オウカ公爵は腰が抜けそうなくらい驚いたが、とりあえずやっと立てている。
「ふ、ふふっ……大成功ね」
この後、お父様が怒り狂って、目が落っこちそうだったのよね。
んふっ、ふふふ。
ん?? 誰か笑ってる?? あら、ベッドの天蓋が見えるわ。
天蓋がぼんやりと見えてきて、リリーはやっと、自分の目が覚めたことに気が付いた。
「笑っていたのかしら……ふふっ。何だか分からないけれど、可笑しいわ」
とても幸せな懐かしい夢を見ていた気がするけれど、もう忘れてしまった。
それがリリーは悲しかったけれど。
◇
目まぐるしく様々なことが過ぎ去った。
件の喧騒について、直接捕まった者達の降格やお家取潰し等の罰が決まり、やっと落ち着いてきたところだ。
コガヤ公爵家は、最後まで尻尾を出さなかったが、他の貴族の証言により、当主を代替わりさせることは出来た。オウカ公爵としては不本意らしいが。
いつの間にか木の葉の色が変わっている……
季節はもう秋。
アキラが姿を消して、3ヶ月が経った。
リリーとユウは会った時は毎回アキラの話をしている。
今は2人で学園の庭園へ向かいながら話すのだけれど、次の授業まで少し時間が空く時の恒例だ。
去年までは3人で居たけれど……
「アキラはマリルのようになるのかしら」
『あら、そうとも限らないわよ』
時々、聖剣も会話に参加してくる。
ユウによると、聖剣は喋りたくて仕方が無いそうだ。
「ああなるのが普通じゃないのか? 禁書にはそう載っていたが……」
『禁書なんて、関わってない人間が聞いたことを書いてるだけでしょ。間違いはあるわよぉ。何でも鵜呑みにしないことね』
聖剣の言葉に耳を傾けながら、2人は庭園のベンチに座った。聖剣を2人の間に立て掛けた。
「なら、もしかしたらアキラはアキラでいるかもしれないの??」
リリーは聖剣を覗き込んでいる。
『心が強ければね。絶対的な何かを持っていれば、大丈夫なものよぉ』
「兄上なら大丈夫だろ」
絶対的な何かなら、リリーに対する気持ちがあるから……とユウは言葉に出せなかった。
『あらぁ、切ないわねぇ』
鋭い目つきになったユウが聖剣を見据えた。
「お前……心を読んだな?!今すぐイヤリングにしてやろうか」
ユウは聖剣を掴んで持ち上げた。
『わざとじゃないのよ! 流れ込んでくる感じ?! 私が悪いんじゃないわよ! どっちかっていうと、制御出来ないお前が悪いの!!』
聖剣は焦ってキラキラ輝いている。怒りの治まらないユウを見て、まだまだ聖剣は喋り続ける。
『今イヤリングにしたら、また夜中に解呪して起こしてやるわよ!!』
以前、そんなこと出来るわけ無いとユウは高を括っていたら、夜中にとんでもない目にあったので、イヤリングにするのはやめておいた。
決めていたわけではないけれど、2人の話題はアキラの話が中心で、聖剣に全てを聞きたいけれど、口外できないように誓約のようなものがあるらしく、教えてもらえる事は限られている。
アキラが居ないとやっぱり何かが足りない、もどかしい気分になる。
2人にとってアキラは日常で、心の支えで、指標だった。
今は聖剣が中心に……というか、渦中となって引っ掻き回してくれている。




