52…第二部、最終話
「んはっ」
リリーは息をいつすれば良いのかわからず、ユウから口を離した。
息が乱れている様が、色っぽく見える。
ユウは今まで何事も慎重に、慎重過ぎるくらいにリリーに触れてきたが、アキラのせいで箍が外れそうになっている。
何度キスしても深くキスしても満たされた気にならない。
ユウは涙目になりながら崩れそうになった理性を持ち直し、リリーから距離をそっと少し取り、目を閉じて深呼吸して何とか立ち上がった。
「俺は何でこんなに真面目なんだ……」
父親の皇帝のみならず母親の皇妃からも、結婚して皇城に一緒に住むまで手を出すなと言われているし、それはオウカ公爵からの婚約の条件でもあった。
取り乱しそうな時にもそれが頭を過るくらい、ユウは真面目だ。
ユウがリリーを好き過ぎることは、昔から両家共に分かっているらしく、婚約者となっている今は総力でリリーを守っている状態だ。
そんな事は露知らずのアキラが手を出して、ユウは発狂してしまいたいくらいなのに。
どちらかというとアキラの方がリリーに手を出しているはずなのに、上手に大人達の前では控えていたので、アキラもユウも同じ様にしか見られていなかった。
こんなに我慢しているんだ!! アキラは出来て、何故俺はダメなんだ!! と、本気でユウは叫びたい。
皇城に住んだら、気が済むまでずっと離してやらない。そう決めて自分を抑えている。
「……あぁ、もう早く皇城に住んでくれ」
ユウは弱々しく呟いて、扉へ向かった。
「??」
「あ、いや、とにかく色々あったから、よく休んでくれ!!」
「え、ええ、ありがとう?! ユウ、もう帰るの?」
リリーも立ち上がって馬車まで見送りをしようとしたが、制止された。
「大丈夫だ、今日はここで。色々ダメだ……これから公爵に会って帰るから」
「そう、わかったわ。気を付けて」
そうは言ったけれど、リリーはやっぱりユウに駆け寄って、頬にキスをして後退りながら照れくさそうに手を振った。
クソっ何の試練なんだ……
ユウはぎこちなく手を振り、名残惜しそうに部屋から出て、外で待機していたタナー小公爵を連れてオウカ公爵の元へ向かった。
そういえばお父様と会う予定で来たのよね。一応忌引中だけれど、何か急ぎの用があったのかしら?
不思議に思いながらリリーはまたソファに座り込んだ。
静かになると、アキラのことも考えてしまう。
何処にいるのかしら……
ほぼ毎日のように会っていたアキラが居ないのが、リリーは夢であって欲しいと願うけれど、どうしてもこちらが現実らしいのだ。
入ってきたシリイに、夕食は部屋でとって早めに湯浴みされてはと提案されたので、リリーはその通りにお願いした。
本当に色々なことがありすぎて、リリーにはまだまだ休息が必要だと、シリイは急いで準備を進めた。
「……やっぱりシリイは最高ね」
ユウは、皇城のそれと同等もしくはもっと立派な公爵家の執務室で、オウカ公爵と向かい合っていた。
「聖剣や魔剣の禁書が、公爵家に保存されていると聞いたのだが。私にも閲覧の許可が欲しい。所有者とはいえ、全く知らないことだらけだ」
「ええ、我が家にある物で宜しければ。少し偏りがありますが、後々他の禁書もここへ来る予定です。ご協力致します」
皇帝との話合いで、聖剣についても魔剣についても、すぐ調べられるに越したことはないということになった。
それを伝えたら、パクツが「なら持って来るか。誓約してないから外にも持ち出せる、ただの本だ」とか言うので、オウカ公爵邸に置くことにしたのだ。
「すまないな」
「いえ、本来なら魔剣が狙われた時点で読んでいただきたかったのですが……それ関係の事を一切自ら口にすることが出来ぬ複雑な誓約を、当主の引継ぎの時点で行っております」
「……まぁ誓約自体が必要か否か、また保管場所についても、また議論せねばなりませんけど」
オウカ公爵は苦い顔でボソッと付加えた。
「そうだったのか。議論については父に進言しておこう……ところで、兄上が最初に来たのはいつ頃だったか覚えているか?」
「確か、第一皇子殿下が学園の最高学年であられた時の……秋辺りだったかと」
ユウは少し考えて、納得したような顔をした。
「そんなに前か……確かに、思い当たる節がある。あの頃から兄上は一人で抱えていたんだな。では、よろしく頼む」
「はい。お待ちしております」
「「…………」」
話は終わったはずなのに、ユウが何か言いたそうにしている。
何となく内容がわかったオウカ公爵は、席を立って見送りの態勢に入った。
「では、後日お待ちしています」
深々とお辞儀をして、ユウが帰れるように促すが、当の本人は立とうとしない。
「……リリの」
「ダメです」
バッとユウの方を見て、公爵は今までに見せたこともない真剣な顔で間髪入れず拒否した。
「はっ?! いや、まだ話してなっ」
「いいえ、ダメです。リリーを皇城に住ませるとかいう話でしょう?! 絶対に、ダメです!! あ、ほら、今、我が家は忌引中ですし!! 学園を卒業してから、お話致しましょう!! その時考えましょう!! 可愛くて仕方のない娘を、はいどうぞと渡せるわけないでしょう!!!!」
公爵は涙目になりながら、最後は本音を吐き捨てた。
まだまだ止まらない。
「警備はしっかり増やします。というか、本人が最後の砦みたいなところもありますし?! 大丈夫ですから! まだ学生なのに殿下の元へ行かせるなんて、私の精神がもちません!! そんなことになったら、登城しませんよ。必ず国政が傾きますよ?! 良いんですか? 駄目でしょう? なので、絶対にダメです!!」
仕事に私情を入れて脅そうとするなんて、本当にこの人は切れ者で有名なオウカ公爵なのだろうかと、ユウは疑いたくなってきた。
何だこのやりとり……と、タナー小公爵やクレス騎士は思ったのだろう、目を合わせて苦笑いして、薄い目で自分たちの主のやり取りを見続けた。
本当のところ、リリーに来てもらいたい2人だが、連日の喧騒で疲れているはずなので、ゆっくり休んでもらいたいという気持ちが勝り、留まっている。
聞こえないように溜息をついたクレス騎士は、タナー小公爵に会釈をしてそっと扉から出ていった。
マヂっすか?!この場に一人は無理っす……
タナー小公爵が目を閉じて耐えていた時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「失礼致します。皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
少しリリーに似た優雅な艶っぽい声がユウに挨拶をして、オウカ公爵が急に静かになった。
「あ、ああ、邪魔している」
「……あなた。何を、なさっているの?」
クレス騎士が公爵夫人を連れて戻ってきた。
いつも以上に笑顔のわりに、若干青筋が見えなくもない夫人は、穏やかに美しい所作でオウカ公爵に近付いた。
クレス騎士はしれっと部屋に戻っていて、公爵はクレス騎士を恨めしそうに見ているが、全く目が合わない。
タナー小公爵が感心して目を輝かせながらクレス騎士を見ているのが、ユウの目に入ってきた。
「いや、だって殿下が、リリーを……」
この人は本当に公爵なんだろうかと思わせるくらいしょんぼりしたおじさんが、拗ねて椅子に座った。
「いい年して、そんな言葉はお使いにならないで下さい? もう、宜しいでしょう。殿下は幼い頃から存じ上げております通り、文句の付け所のない青年です。リリーの相手にこれ以上の人はいませんでしょう?」
愛しい相手の母親に、こんなにべた褒めされて、ユウは目をキラキラさせて見るからに嬉しそうだ。
そんな状況も、オウカ公爵には面白くなく、どんどん拗ねて、だんまりを決め込む。
「あら、では教えてしまっても宜しいですね?あなたとわたくしも学生の頃から婚約者で、あなたの一存で、わたくしはこの公爵邸に住んでいましたわよね。一緒に学園まで登下校致しましたわ」
このおっさん自分のこと棚に上げてたのか?!
ユウは勢いよく前を向いた。
オウカ公爵はサッとユウの視線から目を逸らし、気不味そうに宙を見ている。
「しかし……っダメだ、考えただけで病みそうで」
「もぅ、いい加減になさい! みっともないですよ……殿下、まずはリリーの気持ちも聞いてみる必要がありますわ。わたくしが責任を持って対応いたしますので、今日はこのあたりで……色々と夫が申し訳ありません」
流石は公爵夫人と思わせるお辞儀をして、この場をお開きにした。
リリーの奪い合いのこれは氷山の一角で、この先もずっと色々な所で起こっていくのだろう……
その場に居た当事者以外の全員がそう思いましたとさ。
第二部、完。
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