51…リリーの気持ち
ユウとリリーは客間に行こうとしたが、シリイに自室でゆっくりされてはと促された。
リリーはまだ疲れているはずだから、慣れている場所が良いのではないかと提案されたので、二人はリリーの部屋に向かった。
確かに、よく3人や2人でお茶をするのは自室が多かった。
今、アキラがいないことが、リリーは切なくて悲しい。
シリイはお茶の準備を丁寧に素早くして、ソファに並んで座っている2人の前に置いた。
其々に必要なお砂糖の数やミルクの量も完璧に用意して。
「外で待機しております。ゆっくりされて下さい」
出て行くように指示されていないが、深々とお辞儀をして部屋から出て行った。それに釣られてタナー小公爵も出て行った。
「……本当によくできた侍女だな。昔はよく叱られて怖かったが」
「ふふっ、そうね。シリイは最高なのよ」
自分が褒められたら謙遜するのに、専属侍女が褒められたら躊躇せず自慢する。
「そんなリリも最高だな」
「えっ?!」
リリーは驚いてユウを見た。
まさか言葉に出したと思っていなかったらしいユウも、驚いてリリーの方へ向いてしまい、リリーとユウは見つめ合う形になってしまった。
「……こ、声に出てたか」
「へ?! ええ、何か、き、聞こえた……気がするわ」
もっと他に言う事も出来たかもしれないが、目が合うだけで小っ恥ずかしくて、2人ともそれどころではなかった。
リリーは今日、ユウと目が合うと普通でいられなくて、動悸もするしどうしたら良いかわからない。
何故かは、もう自覚しているのだけれど、だからこそ本当にどうしたら良いかわからない。
ユウはというと、アキラの所為なのかお陰なのか、もう腹をくくるしかないと思っていた。
ゆっくり深呼吸して、ユウはリリーに向かって跪いた。
まるでこれから求婚するかの状況に、リリーは余計に緊張してきた。
「リリ、聞いてほしいことがあるんだ」
「……ええ」
いつもと違うユウの雰囲気に、リリーは更に緊張して恐る恐る応える。
「いつも思っていた。リリが何よりも誰よりも素敵だと。隣に立つのは俺が良い。俺以外の人間が隣にいるのを許せないくらい」
ユウは自分の両手でリリーの両手を取って逃げられないようにした。
リリーは真赤になった顔を隠したかったけれど、真っ直ぐユウと向き合うしかなくなった。
「先週リリがアキラに連れて行かれて、何も出来ない自分が情けなくて、悔しくて。今まで年下だからという甘えがきっとあったんだ。でもそんなこと言ってられないんだと、わかった」
思い出すだけで腹立たしくて、ユウは昨日のことの様にずっと忘れられないでいる。
死ぬまで忘れられないだろうと確信めいたものがある。
「近くに居たリリを連れ去られる瞬間が、その感覚が、今も鮮明に残っている」
ユウは手に力が入った。
リリーは心配になって、ユウの手を逆にふわりと包み返した。
「……っだから、きっと、これからもっと成長するように努力する。リリに見合う、皇帝になれるように。必ず。リリに誓う」
「うん」
リリーは今は不思議とユウをしっかり見つめることが出来ている。ユウの言葉を一字一句逃さないように。
きっとこの時間が、いつか大切な忘れられない時になる。
「リリが大好きだ」
リリーはこの瞬間を、ユウを、目に焼き付けようと必死だけれど、嬉しくて恥ずかしくて、涙が込み上げてきてユウも景色も滲んでしまう。
直ぐ返事をしたかったのに、リリーは言葉が出てこない。
「……ユウ、私もユウが大好きよ。でも、ご存知のように」
リリーは昨日の事を思い出して、ユウの手を離して胸を押さえ一気に青ざめていく。
ユウのお相手になる価値がなくなってしまったのでは無いかと、この一週間ずっと思い悩んでいた。
「あのまま事が進んでいったら、どうなっていたのか……きっとユウの隣に立つ権利が確実に無くなっていたわ」
その一件で、アキラも大好きだけれど、ユウへのそれとは違うと自覚してしまった。
ユウが特別なのだと。
でも、よりによってユウに跡を見られてしまった。無かったことにも、隠すことも出来ない。
どうやったら、ユウにこの気持ちが伝わるだろうと、リリーはずっと考えていた。
「うん、リリに同意がなくて抵抗出来ない場所だったのを知ってる。アキラが去り際に教えてくれた。あと魔剣のせいだと」
「そう………そうなの。でもっ」
リリーは意を決して顔を上げて、跪いたままの近くにあるユウの頬をふわりと両手で挟んだ。
そして、そっと唇に長めのキスをした。
ユウは何が起こったのか一瞬わからず、目が真ん丸になってリリーを見ている。
リリーは顔が真っ赤になって、恥ずかしくて涙目にもなってきたけれど、声を振り絞って続けた。
「わ、私からするのは、これが、本当に、人生で初めてだから」
「……リリ、俺がどんなことをしても嫌いにならない?」
「勿論、ユウが大好きだか」
リリーが言い終わるのを待たず、ユウは立ち上がってリリーに覆いかぶさるようにしてキスをした。
ユウはまるで昨日を上書きするかのように、リリーはユウに食べられてしまっても良いと思いながら。
「リリ、大好きだ」
口を離した都度、頻りに囁いてくれるその言葉を、リリーは頭の中で反芻しながら目を閉じた。
私も大好き。
その言葉をいつ言おうかと考えながら。




