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50…ユウと一緒なら

 アキラが魔剣と消えた翌週、マリルの葬儀が密やかに行われた。

 マリルの死因は、侵入して来た何者かによっての刺殺となった。


 オウカ公爵が捕縛した貴族やその関係者の処分等は、今皇城でバタバタと大忙しに議論されて決められているところだ。

 オウカ公爵は皇城から邸宅に帰って来ているような、来ていないような、そんな生活を続けている。



 マリルは嫡子でなかったことや今までの行い等を勘案され、殆ど人を呼ばず、家族葬のようなものになった。

 公爵、公爵夫人、リリー、そして少しの使用人たち。そして特例としてマリルの実母も呼ばれている。


 式は静かなもので、泣いていたのは実母のみだった。


「ああ可哀想なマリル! あんなに愛らしかったのに! こんな所で暮らさなければ死んでなかった!! やっぱり止めておくべきだったわ!! とっても優しい子だったのに!!」


 そこにいる実母以外の全ての人間が、何が何でも公爵令嬢になると意気込んで無茶苦茶をしてきたマリルを思い出し、苦い顔を隠しきれないでいる。

 この親にしてこの子ありと。


「お貴族様は血も涙もないって本当ね?! 後から現れた義妹が可愛くなかったんでしょ! 貴方がマリルを殺したのよ!! それとも御夫人様?!」


 リリーは、またこんな事へ対応しなければならないのかと、本当に辟易としたけれど、姿勢を正し丁寧に否定をするだけしておいた。

 その後、オウカ公爵に促されて部屋に戻った。






 泣かなければ血も涙もないのかしら……


 リリーが、バルコニーで椅子に座り手すりに腕を置いて頬杖をつきながら、ボーッと外を見ている。

 涙は出てこない。


 それよりも、リリーは消えてしまったアキラのことばかり考えてしまう。

 私は血も涙もないのかもしれない、と自嘲気味に思いながら。



コンコン


 外からノックがあり、部屋で片付けをしているシリイが出た。急ぎ足でこちらに来る。


「リリー様、皇太子殿下がいらっしゃったそうです」


 今は玄関の広間で対応中だそうだ。


「えっ」


 忌引のため1週間は人と会わずに過ごしていたので、リリーは少し気が緩んでいた。

 ユウとはあの時以来なので、どんな顔をして会えば良いか……まだ心の準備が出来ていなかった。

 ただ、心臓が口から出てきそうなのは、わかった。


 シリイはリリーの顔を見て、申し訳無さそうにしている。


「ご心配でいらっしゃったようです。格好は気にしなくて良いと。そのまま顔を見るだけにすると仰って…」



 部屋にノックが響いた。リリーはゆっくり部屋の扉まで行き、シリイが扉を開けた。

 すぐそこにユウが待っていて、申し訳無さそうに焦って一歩下がって、リリーの顔を見た。


「先日、あんな去り方をしてしまったから……」


 いつも通りのユウを見てホッとしたリリーは、頑張ってにっこり笑ってお辞儀をした。


 喪に服すべく着ている濃紺のドレスは、デコルテから首元まではシースルーだが黒で半分以上刺繍がされているため、例のまだ少し残っている跡も全く見えなくなっている。


 いつものAラインのドレスとは違い、マーメイドラインのドレスはリリーを大人っぽく見せている。

 ドレスによってお辞儀も変わってくるので、こと更に雰囲気が違う。



 ユウが見惚れていると、後ろでタナー小公爵が咳払いをして促した。


「あ、ああ、本当にすまなかった。葬儀があったと聞いたから、非公式で一応献花をと……墓に行っても?」


「ええ、勿論。ありがとう」


 ユウが部屋に入ろうとしないので、リリーは少し寂しそうに返事をした。


「そうか、じゃあまた。ゆっくりしてくれ」


「あ、待って。あの、わ、私も一緒に行っても良い?」


 一瞬驚いたユウだったが、ふわりと笑って、勿論とユウは手を出した。

 リリーはその手を取って歩き出す。

 その時ユウと目が合ってしまい、リリーは顔が赤くなった気がして、ゆっくりと逸らして誤魔化すように話掛けた。


「今日、聖剣は?」


「あいつ、五月蝿いから置いてきてやった。イヤリングにして静かになったと思ったら、自分で解呪して聖剣に戻って、ずっっと喋るんだ……」


「ああ……そ、それは、お疲れ様ね」




 マリルの墓はオウカ邸内にはあるが、先祖代々の墓地ではなく、少し離した隅の方に造られた。簡易な石碑の様なものだ。

 分骨をして、大半は実母が持ち去り、家族のお墓に今頃入っているかもしれない。




「……違う形で出会えていたら、良い関係になれたのかしらと考えたの」


 ユウはリリーの話を穏やかに聞いている。


「どんな形でも、あの性格だし、無理だったと思うの……もう会えないのも、実はホッとしているの。マリルのした些細なことは、私の中で積み重ねられて、何か大きな物になっていたみたい。こんなこと言うのは不謹慎でしょうけど」


 肩を竦めて、リリーはユウを見た。

 誰にも言えない、言ってはよろしくないであろう内容の本音を言えたのは、これが初めてだった。


「まあ、俺も無理だな」


 ユウの返事で、リリーは少しホッとしてしまった。


 一人では来れないでいたマリルのお墓に、ユウが一緒なら来ることが出来た。

 いつも私を支えてくれる、本当に有難い存在だと改めて感じる。


 リリーは歩いている間、ユウの横顔をそっと見ていた。

 目が合うと見ていられなくなるから、気付かれないように、横顔を。






 新しく綺麗なマリルのお墓に着いた。

 2人は墓前に立って、刻まれているマリルの名前を見ている。



「まだ心の整理がつかないけれど。あんなに強烈な人は、きっともう二度と出会えないような気がするわ……ある意味とても勉強になったの。私の心が強くなったわ。ちゃんと私を見てくれている、味方でいてくれる人達がいることが、わかったの。私にとって大切な人達も……それに、きっと彼女が一番の被害者なのよね」



「そう思えるリリを心から尊敬するよ」



 ユウは感嘆だか呆れだかわからない溜息をしながら、花をリリーの前へ出した。


 リリーは深呼吸して花を受取り、お別れの挨拶のお辞儀をして、マリルの名前の隣に静かに置いた。




「さようなら、マリル。どうか安らかに」




 リリーはユウが出した手を取って、踵を返して歩き始めた。



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