49…兄弟
アキラはリリーをベッドに連れて行き、ふわりと寝かせた。
「ユウ、リリを頼む」
「何があった?!」
ユウは、アキラがリリーに酷いことはしないと確信していたが、聞かずにはいられない。
「大丈夫、高所にいたから気絶しただけ。ここに寝かしとくから、後はよろしく」
「待て!!」
ユウが呼び止めると、去ろうとしたアキラがユウを振り返って戸惑っている。
「うっわ、流石聖剣の所有者。チートだな……て、まぁ、俺もか!! 瞬間移動を許してくれないんだな。なぁ、これ、どうやってるんだ?」
軽く話をするアキラに不満そうなユウが、不機嫌に答えた。
「教えるわけないだろ」
「ははっ、そうだよなー」
「……リリに何した?」
「えっ?! あぁ……んー本人に聞いてくれて良いけど……まぁ、言えないだろうなぁ」
流石のアキラもハッキリとは言えないらしい。
「はぁ? 何言って」
「まぁ、同意なく……あ、そこだけだから! えー、とにかく魔剣が悪いってことで。リリに謝っといてくれるか」
アキラは珍しく気不味そうな顔で笑った。
「何なんだ……ずっと俺たちは、先に進んでいく兄上に手が届かない」
ユウの言葉を聞いて、アキラは苦しそうな切ない顔をした。
「俺にとって、お前たちは護るべきものだった、から」
「……だった?」
「これからは、あまり関われないな。出来れば……探さないで欲しい」
アキラは真剣な顔になって、ユウを正面から見た。
ユウは言葉が出せないでいる。
アキラの表情で、本気で遠くへ行こうとしているのがわかってしまい、ユウはそれを止める言葉が思い付かないのだ。
「はは! 家出みたいだよな!」
けらけら笑いながら話をするアキラは、いつも通りのように見せようとしていて、ユウは余計に焦りを感じた。
「だから、何で……」
「まぁ、リリは魔剣と聖剣をどうするかだな……」
アキラは話題を変えて、ユウに少しだけ情報を与えた。与えたかった。自分だけでは解決策が見つからなかったから。
二人に賭けてみたかった。これからは、側に居られないけれど……
「何のことを言ってるんだ!? さっきから一体」
「あぁ……悪いな。リリにも少し伝えておいたから。おっ、その力、まだ数メートル程度の範囲だな?」
「なっ?!」
実はアキラは、先程からユウと会話しつつ少しずつ少しずつ様子を伺いながら、距離を取っていた。
「ある程度の距離おいたらいけるな!」
アキラは思いっきり一気に離れて、ユウに振り返った。
「……じゃあな」
アキラはにっこり笑い、皇族の礼をした後に姿を消してしまった。
「どこ行くんだ……兄上」
アキラが去って、ユウはすぐにリリーを確認しにベッドへ急いだ。
リリーの頬に手を当てると息をしていることがわかり、ユウは胸を撫で下ろした。
「……ユ、ウ?」
何故か自分のベッドに寝ていたことに驚いたリリーは、戸惑いながらゆっくり起き上がった。
「リリ! 大丈夫か? …………は?!?!」
まだ状況がわかっていないリリーはユウを見上げたが、ユウは今までに見たことの無い驚いた顔をして固まっている。
「ユウ? どうしたの?」
「あ、アキラに、何をされたか覚えてるか?」
「え? …………!!! な、んで?!」
先程のことが、リリーの中で鮮明に思い出されていく。
「跡が付いてる。首元と……」
ユウが、ユウの胸元をトントンと指で指すのを見て、リリーは自分の胸元を見た。
自分の目をこんなに見開いたのは生まれて初めてだとリリーは思う。
すぐに布団で隠してみたが、ユウにはしっかり見られてしまった。
開けた胸元も恥ずかしかったが、首元や胸元にしっかりと何個も先程の事の跡が付いていた。
"魔剣が悪いってことで"
「くそ兄上……こういうことかよ」
ユウはブツブツ言いながら、一気に沸いてくる怒りを持て余している。
リリーは恥ずかしさと悲しさと、色々な感情が混じって涙が溢れてくる。
よりによってユウに見られてしまった。
ユウに、見られたくなかった。
「ユウ……」
「大丈夫、兄上から魔剣のせいだと聞いている……が、流石に腹立たしいな」
あのくそ兄上、ともう一度呟いて扉へ向かった。
「シリイ!! いるだろう! 入ってリリを頼む! ……あと、ちなみにそれは俺じゃなく、アキラだ!!」
ユウには珍しく、兄上と呼ばずアキラと言っている。
そして、怒り任せに要件を吐き出して、シリイの返事があるかないかのうちに行ってしまった。
リリーに挨拶するのも忘れて。




