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48…リリーとアキラ、2人きりで

 アキラは、謁見の間の椅子付近で横たわったままだったはずだ。

 つい先程までは。



「ああ………目覚めが悪いな」



ドサッ


 息絶えていそうなマリルが魔剣から振い落され、無造作に横たわった。

 血の池がどんどん広がっていく。

 アキラは魔剣を一振して血を切り、鞘に戻す。

 それを漆黒の球体が付いたイヤリングに変化させて、右耳に付けた。


 あぁ……もうマリルは駄目かもしれないわ。


 ぼんやりと見ることはできるが、リリーは現実を受け入れられなくて体の全てが動かない。

 目が、頭が、上がらず、見るのを拒否している。


「リリ」


 血の池を一切気にせず、いつもより優しくリリーを呼ぶアキラの声が聞こえる。


 リリーは息が浅くなっていく。


 嘘よ……



「リリ」



 嘘よ……やめて……



「リリ?」



 お願い、やめて。

 優しい声で呼ばれたら、どうしたら良いかわからない!

 会いたかった。

 何処に居るか分からなくなった時から、ユウと一緒に待ってたわ。

 それなのに……


 耳を塞いでも、目を閉じても、もう遅かった。


 涙が次から次へと落ちていく。


 自分の心臓の音が聞こえて、体が震える。


 リリーは視線を上げられない。





「……っ!! くそっ」


 ユウの声が聞こえたと思ったら、瞬時にその声が遠くなったのが目を閉じていたリリーにもわかった。



 リリーが気付いた時にはアキラに抱きかかえられて、ユウ達から少し距離をとった場所にいた。



 リリーが驚いて見上げると、アキラと目が合った。

 アキラは愛おしそうに困った様に笑っている。


「少し席を外そうか。皆、失礼する」


 刹那、アキラはその場から瞬間移動した。





「っ!」


 リリーは突然の強い風に驚いて目を開けていられない。

 アキラの大きめのイヤリングが揺れている音がする。

 慣れてきた時、リリーは少しずつ目を開く。


「……!! ひっ」


 何でこんな所にしたのよ?!

 リリーは抱きかかえているアキラの首にしがみつくしかなかった。


「ごめんごめん! 大人しくしてくれる所の方が良くて」


 ここは皇居の屋根のてっぺん。


「高いとこだと静かに居てくれるだろ? 景色も良いし」


 ドサッと腰を下ろし、悪そうな笑みをこちらに向けてくる。

 笑いながら弁解するアキラは、いつものアキラの様だけど、ふとした瞬間別人のように見えて、リリーはドキッとする。

 あんなに躊躇なく、人を殺めたりする人では決してなかった。


「……だ、だからって、たか、高過ぎじゃなぃ?!」


 リリーは言葉が最後まで出せない。




 景色を楽しむ余裕なんて微塵もないのだけど?!


 沢山言い返したいけど、リリーには今そんな余裕が全く無い。

 アキラを一瞥した後、リリーは兎に角アキラにしがみつき景色が見えないようにするしかなかった。


 景色も、マリルの光景も、何もかも信じたくない。

 アキラはこんなに暖かいのに。




「懐かしいな……3人で登ったのが」


 まだまだ学園にも通っていない頃、ここに登って色々とサボっていた。

 リリーが高所が駄目になるまでは。


「よく怒られたよな」


 そう、勿論3人で。

 サボる内容が、家庭教師だけでなく、行事だったりもするから当たり前といえば当たり前だった。

 当時の従者達は真っ青になって探していた。

 同情しかない。



「ア、アキラ……」


 目を閉じたままだけど、リリーはやっと声が出るようになってきた。


 かすれた声が聞こえたのかどうかわからないが、アキラは左手でリリーを大切そうに抱えながら、右手でリリーの左頬を包んだ。


 リリーが薄っすらと目を開けると、苦しそうにこちらを見るアキラがいた。



「魔剣の所有者はどうなるか知ってるか?」



「え、ううん、魔剣については禁書にしか載っていないんでしょ……私は何も、知らないの」


 アキラの腕の中に蹲れば、リリーは少し平気になってきた。目を閉じて何も考えないようにする。


「実はオウカ公爵邸にあるんだ。ここ最近、禁書を読み漁ってたんだけど……」


 諦めに近い声色で淡々と話していくアキラの声に、リリーは耳を澄ませる。


「絶望しかなかった。どんどん魔剣の意志に取り込まれて、自我がなくなる。さっきのマリル嬢の様に」


「えっ……」



「前から魔剣の影響を受け始めてたんだ……封印を解かれてから、そして触れてしまってからは、顕著だ。よくわかる」



「そんなっ」


 アキラの顔を見上げた次の瞬間、貪るようにキスをされていた。


 えっ、何?! ………?!


「んぅっ?!」


 驚き過ぎて拒否することも忘れ、為す術もなく受け入れていた。


 何分、どれくらい経ったのかリリーにはもうわからない。

 ただアキラが別人のようで怖くて、アキラの服を握り締めるしか出来ない。


 もうこのまま食べられてしまいそうだと、リリーが思っていたところで、アキラがリリーの胸元に近い首元から口を離した。



「あぁぁ、くそっ……魔剣のせいだな。我慢できなくて次々とやってしまいそうだ」


 珍しくイラッと感情を表しているアキラは、色っぽくて大人っぽくて、自分のされたことを忘れてリリーは一瞬見入ってしまった。


 何か言いたいけれど、先程までの戦いで自分のスカートを切って足は丸見え、とんでもなく乱れた姿でとんでもないことをされて、リリーは羞恥この上ない。


 しかも高所に居るし、パンク寸前のリリーは手で顔を覆うしかなく、もうアキラの声も何も届きそうにない。



「ごめんな……次はきっと全力でリリを奪いに来るはずだ。逃げて良いからな」


 まるで他人の事のように予告をし、残された僅かな理性でアキラは立ち上がった。



「じゃ、帰ろうか」



 リリーがホッとしたのも束の間、アキラはリリーを抱えたまま飛び降りた。





 い、やぁーーーーーーっ!!!!





 声にならない叫び声が上がり、リリーには気絶一択だった。





 気絶したリリーを見て、アキラは落ちる速度を緩やかにする。



「リリ、愛してる。本当に愛してる。もう……さよならだ」



 リリーを壊れないように、強く大切に抱きしめて、アキラは瞬間移動してユウの元へ現れた。




「リリの部屋で待つなんて、わかってるじゃん」



 現れたアキラに驚くことなく睨みつけるユウは、ソファに腰掛けて脚組し、背もたれで頬杖をついていた。

 その左耳に真白な飾りの付いたイヤリングを付けている。



 それを尻目に、リリーを抱きしめたままのアキラは何事もなかったかのように話しかける。



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