47…真実
「お前の相手は私でしょう? こちらにいらっしゃい」
リリーは冷ややかな目をマリルから決して離さず、動きやすくするためにスカートに切り目を入れながらマリルが来るのを待つ。
持っている聖剣に、リリーのありったけの魔力を込める。
『奴とは500年ぶりかしら……リリ、時間は限られてるわよ』
魔力に耐えられなくなってきている謁見の間のあちらこちらがパラパラと落ちてきている。
仮の所有者でしかないリリは、使用できる時間がそんなに長くないらしい。
その間に魔剣を折って、封印しなければならない。
「ええ、そうね……時間内に、ぶっ壊すわ」
『頼もしいわね』
ふふっと聖剣は笑ったが、周囲の人間にはリリーの声しか聞こえていない。
ユウと一緒にいる騎士たちがドン引きしながら自分を見ているのが、リリーの視界に映った。
皇太子を守りつつジリジリ距離を置こうとしている。
社交界の華と言われている令嬢が、こんな姿にこんな発言、彼らは開いた口が塞がらないし、そして何よりも巻き込まれたら命がヤバい状況だ。
「アキラもユウも……っ」
腸が煮えくり返るくらいだけれど、怒りに任せることはしないように、リリーは呼吸を整える。
マリルが瞬間移動で眼の前に来た。
「私の2人を返してもらうわ!!!!」
これでもかというくらい綺麗な太刀筋で、まるで舞っているかの様に、リリーは剣を振り始めた。
しかし目は狩りをしている獣のようで、隙が全くない。
使役者の実力の差があり過ぎて、一瞬たりとも拮抗することもなく、リリーは意識の有無もわからないマリルを追い詰めていく。
それでも、魔剣が折れる気配が全くしない。
「まるで戦場の舞姫だな」
「太刀筋が見事だ」
「強すぎて美しい」
誰ともなく口にしていた。
騎士達は退避を忘れ、目が離せなくなっている。
ああ、また通り名が付くのか……誇らしくも思えるけれど、やはりユウは頭を抱えたくなった。
"社交界の華"だけで十分だったのに。
きっと今後は国内からの注目は今まで以上になるに違いない。ここの騎士達のお陰で。
皇太子の婚約者の今ですら、知らない体で求婚してくる輩もいるらしいが……
リリーが自分のものだと言い、守ってくれていたのが心地良かったので、ユウはつい傍観してしまった。
「最悪だ、失敗したな」
自分だけのものに出来たならどんなに良いか。
本当は誰の目にも触れさせたくない。
他者の視界に入らせるのすら嫌だ。
そう思うほどの独占欲を、ユウは抑えながら今まで過ごしてきた。
「まだ俺のために舞っているリリを見ていたいが……これ以上は色々と駄目だ」
溜息をついて、ユウは騎士達を制止して自分だけリリーの方へ進み始めた。
もう勝負も付きそうになっている。リリーが勝って更に注目を浴びるなんて、あってはならない。
魔剣が折れてからどうなるかわからない……最悪、義妹殺しのレッテルなんて、以ての外だ。
「リリ、交代だ」
剣を持つリリーをふわりと抱きかかえ、マリルから距離をとる。
魔剣に操られているが、それでもマリルはもう動けなくなってきている。
「ユウ?!」
リリーは驚くしかできない。
魔剣には聖剣しか敵わない……だから、ここで魔剣を封印出来るのは自分しかいないのに、何故引き離しに来たのか、と。
驚いているリリーが可愛くて、ユウは笑って話始めた。
「知ってるか? 聖剣の真の所有者は、聖剣の声が聞こえるだけではないんだ。夢で聖剣に貫かれて証が残る」
バッと胸元をはだけさせて、ユウは自分の鳩尾付近の刀傷を見せた。
!!!!
『あら! そうなの、お前だったのね………え、なぁに? 不満がありそうだけど』
「大有りだっ!! 本っ当にくそ痛かったんだぞ、これ!! 夢だとしても絶対に死んだと思った!!」
『お前の夢の中では、私の意識は無いのよ。記憶にないの! だから、そんなこと言われてもねぇ。それに、私も誰が所有者なんだかわからないから困るのよねぇ。まぁ、この程度で死んだら器じゃないってことよ〜。生きてて良かったじゃない』
適当に感情も込めず言い、軽く笑う聖剣に、ユウは舌打ちしながら手を伸ばす。
ユウの手が触れた瞬間、聖剣から目を開けていられない程の眩い光が放たれ、辺りを優しく包んだ。
キラキラと輝いていて、ユウのこの世の者と思えないほどの美しい姿に、リリーは息を呑む。
「ユウ、とっても綺麗……」
ユウは満足そうにリリーの頬をそっと撫でて、踵を返し魔剣へ向かっていく。
「お前は仮の所有者だろう? ならお陰で封印が楽にいけそうだ。早速だが、折るぞ」
ユウが聖剣で魔剣を折ろうと、離れたところにいるマリルに近付こうとした瞬間。
「アッ………カはッ……!!」
?!?!
異変を感じたユウは、瞬時にリリーの元へと後退した。
マリルが血を吐いている。だけではない……
自分で持っていたはずの魔剣で、背中から貫かれていた。
沈黙がその場を覆った。
「魔剣の所有者は、俺なんだ」
マリルの後ろに、貫いたままの血の滴る魔剣を握った、
アキラが立っていた。




