閑話休題7〜パクツの正当な価値
「何だよ……そんな怒んなって」
「何で怒らないの?! もっと君は怒って良いと思うけど!!」
「お前は俺が怒らないことに怒ってんのか?」
キョウヤがいつも以上に怒り心頭なのは、学園に迎えに来たパクツが出生の事でどこぞの貴族に嫌味を言われたからだ。
キョウヤが13才、パクツが6才の頃だ。
「そうだよ。そんなに幼いのに、諦めたように何も言い返さない。言い返すだけの頭はあるくせに」
「……俺はお貴族様が嫌いだから関わらないようにしてんだよ。何言っても無駄だって学んでっから」
キョウヤは、この全てを諦めてそうな子どもをどうしても諦めさせたくなかった。
今ですらパクツは非常に能力が高いのに、自己肯定があればもっと伸びるはずだ。
「あんなボンクラより君の方が賢いに決まってるのに、不戦敗を決め込むのが嫌なんだよ!!」
「……そんな怒ってると、直ぐ禿げるぞ」
「なっ! 僕は禿げないから!」
◇
キョウヤが学園の剣術の授業にパクツを連れてきた。
今日の剣術の授業は少し変わっていて、自分の護衛を連れて来て一緒に受けても良いことになっている。
今日は模擬戦と言って、2人1組でペアになり勝ち抜き戦をする日だ。友人同士の者もいれば、護衛を連れてくる者もいる。
年の割に高身長のパクツだが、それでもやはり周りに比べるとかなり小さい。
「彼奴等と当たるとラッキーだな」
「公爵家は子どもを護衛にしてるのか」
「盾に使うんだろ」
言いたい放題言われている。
そんな生徒を尻目に、怒りを抑えながらキョウヤはパクツと作戦会議中だ。
「……俺、模擬戦より今のお前の方が怖いんだけど。前みたいに怒り任せに魔法のでっかいのぶっ放すなよ?」
パクツがより小声になってキョウヤの顔色を伺っている。
先日、現オウカ公爵に腹を立てて、キョウヤが魔力を抑えきれず邸宅内で大爆発が起こるところだった。
パクツがバルコニーの窓を開けて、外へ連れ出して、空へ打上げさせたので、周囲には花火か何かと勘違いしてもらえたのだが……
「自信はないけど、大丈夫」
13才はとりあえず全てにイライラするお年頃なのだ。
◇
模擬戦では、キョウヤの作戦でパクツが動き、勝利を上げていった。
キョウヤの策戦も良いが、それを実行できるパクツも能力が高い。その辺のただの騎士だと実行に移せない物も多々ある。
短剣を扱ったかと思えば、大人が扱うような剣をいとも容易く振ってみたり、ナイフを投げたり、キョウヤを囮にしてみたり……
パクツの子どもと思えない立回りで、周囲を完全に黙らせた。
「あーっ!! 何処かで見たことがあったと思えば!! ソードマスターが連れてきてた子どもだな!?」
子爵家の護衛がそう言って、パクツに話しかけてきた。ソードマスターとは、この国で1番とも言われる剣術の高みにいる人物の称号で、パクツに付けている剣術の先生のことだ。
キョウヤが是が非でもと頼み倒して、珍しく公爵家の名を使って、パクツの元に連れて来た。
パクツはここでもペコリとお辞儀をするだけで、何も喋らない。
"ソードマスターの連れてきてた子ども”
なかなか他人を連れて歩かない彼が、ある1人の子どものセンスを気に入り、たまに連れ歩いていると噂になっていた。
それがパクツだ。
それだけで、パクツを見る周りの目を変えるのには十分だった。
キョウヤとパクツの2人が最後まで勝ち抜き、授業は終わった。
授業の後、パクツは自分より大きな貴族子息やその護衛達に囲まれ、どんどん心の底からうんざりした顔付きになっていった……
外側からニコニコ見ているキョウヤを恨めしそうに睨みながら。
勿論、パクツはそこでも言葉を発さず、お辞儀や手振り身振りでやり過ごした。
帰りの馬車で、キョウヤは満足そうに座っている。パクツはすこし不服そうだ。
「……俺の評判なんて上げんなよ」
「上げたんじゃないよ。君の能力に対する正当な評価だよ。皆に気付かせるのも、僕の仕事だね」
パクツは何だか泣きそうになったので、窓の方を向いた。
「クソっ、お前なんか禿げろっ」
キョウヤは物凄い顔をしてパクツへ振返った。
「最近よく言うよね?! 何その呪い! やめてくれる?!」
ちなみに、40才になったオウカ公爵の髪の毛はフサフサと健在である。
その呪いは効かなかったようだ。




