40…過保護な男達
「リリ、調子はどうだ?」
「ユウ! ありがとう。だいぶ戻ってきたわ。もう普通にご飯は食べてるのよ」
リリーが人生で初めて魔力を大量に消費し、その上ぐったりとしてしまったものだから、周りの過保護な男達は、皇城の桜花宮のリリーの寝室から一歩も出さず、かれこれ1週間が経つ。
「そろそろ動きたいのだけど……」
万人に言えることだが、何もしていないと身体が鈍ってしょうがない。
こっそり隠れて寝室で動くにも限界があるので、リリーは外に出たくてたまらないのだ。
動けなくて不健康な気がしてならない。
「今日の診察次第だな」
「……そうよね」
ユウはベッド横の椅子に座ってリリーと話している。
サイドテーブルに、聖剣の髪飾りとリリー宛の手紙の山があり、ユウは何気なく手にとって目を通してみた。
「皆心配して手紙をくれたの」
「…………」
「ユウ??」
ユウは手紙を2つに分類して、1つの束を手に取った。
「こっちは返事しなくて良いからな」
「ええ?! ダメよ、お返事はしなきゃ」
取り返そうとするリリーから離すように、ユウは自分の背中に隠した。
「こっちは俺が出しておくから」
「ユウが?!?! もう、ほら返して」
ユウの背中に隠した手紙を取ろうと、リリーはベッドから身を乗り出してユウに抱きつくような形になった。
「!!!!」
ユウは一瞬躊躇したが、思い切ってリリーを引き寄せて、抱きしめた。
「……リリが倒れているのを見て、生きた心地がしなかった。無事で良かった、本当に」
あの時の気持ちを、ユウは初めてリリーに伝えた。
リリーもユウの背中に手を回して抱きしめた。
「……心配かけてごめんなさい。ユウ、側にいて助けてくれて、ありがとう」
ユウが抱きしめてから何分経っただろうか。
ハッと我に返り、ユウはリリーを抱えて優しくベッドに戻した。
「リリ、ごめん、まだ療養中なのに」
ユウの心配とは裏腹に、リリーは非常に元気で、なんなら隠れて聖剣に少し稽古をつけてもらっているのに……リリーは申し訳なくなった。
タナー小公爵が外からノックして次の予定の時間を知らせたので、ユウはリリーの手を取りキスをして部屋を後にした。
次は、タイムから電波魔法で連絡がきた。
「リリー! 倒れたって聞いたけど、大丈夫?!」
「ありがとう、タイム。ちょっと疲れた程度よ。何日も前から元気なんだけど……お医者様が許可してくれなくて」
リリーの療養解除の許可を出すのは、周りの男達の所為できっと命懸けだろうから、医者は慎重にならざるを得ないんだろう……と、タイムはリリーにも医者にも同情した。
「じゃあ、外出出来るようになったらウィステリア領に遊びに来て! もう少しで母上は赤ちゃんを産むし、見に来てよ」
「そうなのね! 会いに行きたいわ」
赤ちゃんなんて何年も見ていないリリーは嬉しそうに返事をした。
「行くなら俺も付いて行くからな!! おいタイム、いつからしれっと敬語無くしたんだよ」
「あ゙??」
タイムは予期せぬ横槍に不機嫌に返した。
「アキラ!」
「リリ、元気みたいだな! タイムと楽しそうな話してたから、俺も入ろうかと思って」
「いや、邪魔っす」
明らかに不機嫌なタイムの声が聞こえてきた。
「お前はっきり言うよね。俺に媚びといた方が後々楽だよ?」
「敵認定してるんで。つか、ウィステリア候爵家は盤石なんで大丈夫す」
アキラは何故か嬉しそうな顔をしている。
「言うね。その性格嫌いじゃないんだけどなぁ……ま、リリ関係だと俺は譲れないんだ。だから悪く思うなよ! またなー!」
アキラは一方的に通信を切ってしまった。
リリーは呆気に取られて、アキラをただただ見ている。
「リリ、ずっと起き上がれるようになったんだな」
「ええ、お陰様で」
ちょっと隠れて聖剣と……とは口が裂けても。
それにアキラにも聖剣等々の事についてまだ説明されていないらしいので、尚更言えない。
「良かった! ちょっと我慢してたんだ。リリ、おいで」
アキラはベッドに腰掛けて、リリーを持上げて膝にのせた。
勿論抱きしめて、頭を撫で、ぼんやりとサイドテーブルにある聖剣の髪飾りを見ている。
「心配かけてごめんなさい」
「元気が取り柄のリリが倒れたとか、本当何事かと思った。生きた心地がしなかった……なあ、リリ、俺が居なくなったら寂しい? 悲しい?」
アキラの予期せぬ言葉に、リリーは心配になってアキラの顔を覗き込んだ。
「え、当たり前でしょ?! どうしたの? アキラ、どこかに行くの? どこへ??」
アキラはにっこり笑って、いつものようにリリーの頬にキスをして、また抱きしめた。
「リリは可愛いなぁ。ずっと側に置いときたい……はぁ、けど、時間だ」
アキラはリリの頬にキスをして、手を振って部屋から出ていった。
桜花宮から皇城への廊下で、アキラは立ち止まった。
「やばっ……本格的に、苦しくなって……きた、な」
アキラはしゃがみ込みながら、そこから忽然と姿を消してしまった。
突然、消えてしまったのだ。




