39…白と黒
非常用の電波魔法の魔宝石が光っている。
「父上!!!! 申し訳ありません!!! 透過魔法か姿隠しを使われて、地下に入られました!! クッソ、やられた!!」
話の内容も、タツァックが悪態をつくのを聞いたのが初めてな事も、どちらにも驚いてしまい、オウカ公爵は珍しく動揺している。
「……だ、大丈夫、皆に被害は?」
「今のところ、眠らされていた従者は数名いましたが、特段ありません!」
「眠らされていた……なら、マリル嬢1人での侵入ではなさそうだね。直ぐ戻るから、それまで頼んだよ」
「はい。これ以上の失態は死んでもしません。もし手引したものがいたら地下にぶち込んどきます」
音声だけでも、タツァックがブチギレているのが伝わってきた。
オウカ公爵は、初めての息子の激怒した様を目の前で見れないのを残念に思いながら、通信を切った。
その時、勢い良く扉が開いた。
オウカ公爵とパクツが振返ると、リリーを抱きかかえたユウが扉を蹴り開いた姿があった。
「「リリ?!」」
リリーは目線だけオウカ公爵とパクツに向けた。
「ふふっ。任務完了よ、お父様、叔父様。初めて沢山魔力を使ってしまって……ユウに運んでもらいました」
リリーは照れ笑いしながら、真っ白な髪飾りを解呪して聖剣にして見せた。
「大丈夫かい? 無理はしなくて良かったんだよ」
「ちょっと魔力を使っただけです」
「すげーな! よくやった」
パクツはリリーの頭を撫でたが、ユウがすぐ避けて、パクツと睨み合っている。
『リリーの周りは何ていうか、奪い合いね』
「? そう?」
オウカ公爵とパクツはリリーが独り言を言い始めたので、心配そうに見ている。
慌ててリリーが説明すると、2人共畏まって聖剣に礼を尽くした。
『あらぁ、良く出来た父親と叔父ね』
「ええ、素敵でしょう?」
オウカ公爵家の地下にある魔剣の安置部屋の鍵が開いている。
部屋の中央には、魔剣の封印を解くために使われたであろう魔法石が、公爵家を嘲笑うかのように置き去りにされていた。
「これで私はお姉様より上になれるの?」
マリルは馬車の中で、目の前にいるセイチとその父親……スモス子爵父子に聞いた。マリルの手には黒い棒のような物がある。
「そうだ。到着するまで黙っていろ」
スモス子爵はマリルに冷たい視線を一瞥して、外を見た。
セイチは、自分も連れて行かれて目にした、父親の犯したとんでもない事を、まだ受入れられないでいる。
オウカ公爵邸へ行ってみたいという憧れは持っていた。けれども、姿隠しで入り保管されていたものを盗むという、そんなことを望んでいたわけではない。
リリー様にもう顔向け出来ない。
そう考えるとセイチはどんどん青褪めていき、今まで頑張ってきたものが崩れていくのを感じた。
父上が応援してくれていたのは何だったんだ。
……もしかして、仲良くなっておけば、疑惑をかけられにくくなるとでも思ったのか。あのオウカ公爵が、そんな甘い考えを持っているわけないじゃないか。
僕の立場を考えてないのか。
父上にとって、僕はただの駒でしかないのか。
どんどん絶望していくセイチを、スモス子爵は確認した後、マリルの手の物を見た。
先程より禍々しく、美しく光っているようだ。
マリルは自分の欲に素直で扱いやすく手駒にし易いが、逆に危ういのではないかとスモス子爵は警戒している。
かの方に頼まれたので、手籠めにしているのだが……
マリルはリリーより上になれると聞いて、何も疑わず上機嫌で座っている。
その手には、鍔のない真っ黒な剣を持って。




