108…リリーをリリーとして
『あの子は確実に記憶持ちね。もう全部見ているのかしら?お前の話を聞いた時はちゃんと聞く時間が無かったし、リリははぐらかしそうだし』
聖神は目の前に居る女性の右手を掴んで上げた。
『で、どーなんだ?』
魔神も同じ様に左手を掴んだ。
ここは公爵邸のオウカ公爵夫人の部屋であるのにも関わらず、何故か聖神と魔神にオウカ公爵夫人がカツアゲをされているような図になっている。
オウカ公爵夫人は諦めて答えることにした。
「カノ様の本を得た後、倒れて眠っていた時から、かなり見ているはずです」
聖神と魔神が思いの外真剣に聞いているので、オウカ公爵夫人も嘘偽り無く伝えた。
「その人の印象に残った記憶を断片的に見る感覚でした。リリと話をした時に、スムーズに話ができたことから、もう私よりも……」
オウカ公爵夫人は、聖神と魔神と正面から向かい合った。
「でも、あの子はカノ様ではありません」
聖神はフンッと鼻を鳴らして、怒りを隠さず見下ろした。
『分かってるわよ、そのくらい。カノが言ってたもの。"たとえ自分の記憶を持っている人間が現れたとしても、それは私じゃない。今の私だけがカノ"ってね』
『ああ、そー言ってたな。誰かの人格が出てくるわけでもねーとも』
ホッとして、オウカ公爵夫人はやっと強張っていた力が抜けてきた。
しかしそれを見て、聖剣は悪そうにニヤリと笑って言った。
『カノとしてでなくリリとしてなら良いわよね?』
「はぃ?!」
オウカ公爵夫人はこんな間抜けな声を今まで生きてきて出したことがあっただろうか。
けれども、今はそれどころではない。
「今まで通り、カノ様を想っていて下さいませ!!」
オウカ公爵夫人にフツフツと怒りが込み上げてきた。親にとって我が子は何よりも大切な存在なのだ。
あれもこれもといった様に手を出されるのはお断りだ。
『カノも良かったが。リリは今まで見てきた中でも1番良い女だな』
「2人して何をふざけた事を仰ってるんですか?! 止めて下さい。困ります。それに、そんなことになったら、あの人が……。国が無くなります」
オウカ公爵夫人は、最後は青褪めながら呟くように言った。
『そんなの知ったこっちゃないわ。図らずも私達、分け合うのは慣れてるの』
『あー、誰かさんのお陰でな』
聖神も魔神も、全く聞いちゃいない。
ああ、こんな破茶滅茶なやり取りは夢で見たことがあるわ。
カノはこんな2人のどこが良かったんだろうかと、オウカ公爵夫人は理解できないでいる。
そんな顔で聖神と魔神を見ていると、聖神と目が合った。
『お前、何か失礼な事考えてなぁい??』
オウカ公爵夫人は一瞬ギョッとして、冷静に答えようとしたが……
「い、いいいいえ?! そんな事より、リリは本当にやめていただけませんか?!」
聖神は鼻で笑いながらオウカ公爵夫人を見下ろした。
『あら、本当に親子なのね。動揺の仕方がリリと一緒よ。でもねぇ、気に入っちゃったんだもの』
『しょうがねーよな。諦めろ。じゃーな』
魔神が聖神の肩に手を置いて消えていった。
「嘘でしょ?! ダメって言ってるじゃない……」
顔面蒼白のオウカ公爵夫人は、夫の元へ急いだ。
『『リリ!!』』
「きゃあっ!?」
突然現れた聖神と魔神に心底驚いたリリーは、思わずユウに飛びついて、ユウも聖剣に手をかけた。
ここは皇城のユウの執務室で、隣に自室がある。
今はリリーとユウで読まなければならない資料があったので、一緒に読んでいたのだ。
『やぁねぇ、私達が来てやったってのに、そんな物騒な物出そうとして』
飄々としている聖神の横で、魔神が何かを探している。
『お前の兄上はいねーのか?』
「今日は公務で皇城外にいるはずだが」
『ははっ! 煩いのがいねーのは良いな!』
アキラの不在に、魔神はご機嫌になった。
『リリ、こっち来い』
魔神はリリーをお姫様抱っこして、移動しようとしたのだが。
『……は? おい、てめー移動阻害を教えやがったな?!』
キレかけている魔神の隣で、聖神は頬に手を当てて大きな大きな溜息をついている。
『教えるんじゃなかったわ……』
「リリを離してもらおうか」
魔神がおとなしくリリーを下ろした。魔神は勿論、聖神も理解できないという顔で、ユウを見ている。
ユウは勝ち誇った顔で微笑みながら、ポケットから真黒なイヤリングを取り出した。
「効くかどうかは分からなかったが、念のため持っておけとアキラから渡されていたんだ。ちなみに解呪が出来ることは実験済だ」
ユウはイヤリングを剣にしてみせた。
『チッ……クソが』
『どっちも持ってたらチート過ぎじゃない! 面白くないわ!!』
悪態をつく魔神と文句をいう聖神を、余裕を持って相手しているユウはどことなく嬉しそうだ。
「面白いとか面白くないとかの話ではないからな」
『クソ真面目でつまらない奴ね!』
聖神が悔しそうにしているのも、優越感を感じることができて、今日のユウは少し余裕がある。
アキラの機転のお陰で本当に助かったと、ユウは心の底から感謝した。




