105…リリーの涙と、
コンコン
リリーが聖神と魔神に戸惑っていると、扉が開いた。
「あ、やっぱり目覚めてた! リリー、大丈夫??」
リリーが目を覚ましたのを感知で気付いたタイムが入ってきた。
学園が午前中で終わり、ちょうど帰ってきたところだ。
「タイム!! 良かった、無事で」
リリーは嬉しそうに笑った。
「あ、魔神さんは城外にいるアキラさんを、聖神さんはどっかにいるユウさんを呼んできて下さいね!」
ちゃっちゃと2人をリリーの部屋から追い出した。
聖神も魔神も、何故だかタイムの言う通りに動いてくれるのだ。
「リリー、無事で良かった。元気そうだし、本当に良かった」
タイムはリリーの寝台に座り、リリーの手を握って目を見た。
リリーはにっこりと笑って、でも悲しそうに話始めた。
「タイムが斬られてしまった時、居ても立っても居られなくて、私すぐ出て行きたかったの。行けなくてごめんなさい」
涙を目に溜めながら話をするリリーを、自分のために泣いているリリーを、綺麗だと思いながらタイムは眺めた。
「タイムがあの時言った事はとっても重要だったの。神杖で鍔迫り合いの様になった時、魔力を取られるのがわかったわ。あの、傷はもう大丈夫??」
「うん、聖神さんのお陰で傷もなく」
次から次へとリリーの頬を落ちていく涙を見ながら答え、タイムは無意識に頬にキスをして涙を受け止めた。
「……しょっぱ」
キョトンとしたリリーを見て、タイムは落ち着いて話した。
「ごめん、涙が綺麗で」
もう一度頬の涙にキスをすると、リリーが少し目を閉じていたので、タイムはリリーの唇にキスをした。
リリーは目が覚めてからキスをされてばかりで、挨拶くらいにしか感じなくなってきているのか、あまり驚くことなく応じてしまっている。
夢か現かも分からない、という感じだろうか。
ただ、涙が付いたタイムの唇がしょっぱかったのは、リリーは分かった。
タイムは1度口を離したけれど、嫌がられず受け入れられているようなので、2度目は深く烈しくし始めてしまった。
リリーの反応もタイムのツボで、もう止め時も分からなくて押し倒してしまいそうになった時、タイムはバッとリリーから離れて「突然ごめん」と言いながらリリーの口元を自分の服で拭いた。
あっという間にタイムは寝台の横にある椅子に座り直した。
リリーが驚いて目をパチクリさせている。
ガチャ
コンコン
リリーが目を覚ましたと聞きつけたオウカ公爵夫妻とパクツが部屋に入ってきたのだ。
「叔父様!!」
パクツが近くまで来ると、リリーは寝台から飛んでパクツに抱きついた。
パクツは目を合わせてこないタイムの頭をワシワシしながら「ほどほどにしろ」と小声で釘を差した。
畏まって座っているタイムは、後ろから見ると耳が真っ赤になっている。
ああ、こりゃこっち向けないわけだ……
パクツは察して、とりあえずオウカ公爵にバレないようにしなければと、タイムの方へ行かないようにリリーを抱きかかえてソファの方へ移動して、タイムへ声を掛けた。
「タイム、次の予定があるだろ。ほら、行け」
「はい! 失礼します」
タイムは綺麗にお辞儀をして、部屋から出た。
父の助け舟のお陰でリリーの部屋から無事に脱出できたことに、タイムは感謝しかなかった。
やっぱり父上はカッコいい。
しかし、速歩きで部屋に戻りながら考えることはリリーのことばかりだった。
あんなチャンスは滅多に無いだろう。父上達が来なければ良かったのに、とも思いながら。
そんな考えすらパクツに届いているとも思わず。
「あいつ……」
パクツが呆れながら呟いていると、リリーが不思議そうに覗き込んできた。
「お前が無事で良かった」
パクツに頭をワシワシされて、リリーは嬉しそうにニコニコしている。
「お父様、お母様、叔父様、ご心配をおかけしました」
リリーが申し訳なさそうに謝ると、オウカ公爵は首を振った。
「リリーは全く悪くない。どうにもしてやれなかった私達の方が申し訳ない」
夫婦でしょんぼりとしていて、特に1ヶ月見なかっただけで少し痩せたかもしれない父親が目の前に座っている。
リリーはとっても胸が苦しくなった。
「いいえ! いいえ!! お父様とお母様が知っていたからこそ、皆に助言を下さって。その上で私が知識を得て、きちんと迎え討つ準備もできて、良い結果に辿り着けました」
リリーはどんどん大きくなる声を止められない。
「お父様とお母様がご存知でなったら、皆が、来てくれることもなく、私、もう、ここに、いなかっ、たわ」
突然、リリーの目から涙が溢れ出し止まらない。ポロポロ、ポロポロと零れ落ちていく。
絞り出すように、叫ぶ様に、泣きじゃくりながら、リリーは両親へ伝えた。
「お父様と、お母様がっ、私の、お父様とお母様で、本当に良かったわ!!」
何故かリリーが抱きついた先はパクツだったけれど。
リリーがこんなに泣きながら言葉を届けてくれたのはいつぶりだろうかと、オウカ公爵夫妻は目を細めて愛娘の姿を見続けた。
ああ、可愛い娘が無事で、本当に本当に良かった。




