103…終わりは始まり
神杖の飾りの音色と共に、閃光が走った。
神杖から辺りが真っ白になるくらいの光が放たれ、3人は思わず目を閉じてしまう。
少しずつ目を開けると、リリーは目の前に1人の幼子が座り込んでいることに気付いた。
「この子は……」
幼子がリリーに視線を向け、リリーは目が合うと驚いてしまった。
目が、瞳の色が竜神の深緑色だ。
「……竜神?」
後からゆっくり聖神と魔神が近付いて来て、リリー達の後で止まった。
『そうよ。神杖で神2人の神力をぶち込めば、神格を落とせるの。子どもになったのねぇ』
聖神は腕組みしながら竜神を見下ろしている。
『中身は変わらねーから、気にせず討て』
魔剣はリリーに後から抱きついた。
リリーから魔神をさっさと外しながら、子どもに手を出したくなさそうなアキラが溜息をついている。
「良心に訴える感じがなぁ……」
「俺はリリに仇なす者には容赦しないと決めている」
アキラとは違い、ユウは躊躇うことなく聖剣を構えた。
それを見て、諦めたようにアキラもユウに合わせて魔剣を持った。
『迷いなく、同時に、よ』
聖神の言葉が終わるか終わらないかと同時に、
「待って!」
討とうとしたアキラとユウを、リリーは止めた。
竜神があまりにも小さな小さな幼子になるので、思わず止めてしまったのだ。
「ごめんなさい、待って……」
竜神の神格を落とす際に、神杖がリリーのほぼ全ての魔力を取ったので、今リリーはふらふらだ。
リリーは残っている力でゆっくり幼子の近くまで行き、座ってふわりと抱きしめた。
この人が消滅してしまったら、また違う竜神が生まれるらしい。
次もまた似たような気質になることが多いと、以前聖神からリリーは聞いたことがあった。
「竜神……」
そうなると、この先また同様の出来事が起こるかもしれない。
「聞いてほしいの」
もし、この人がここで学ぶことができれば、気狂いの竜神はいなくなるのではないかと、リリーは思ったのだ。
「申し訳ないけれど、私もあなたを受け入れることは出来ないの。ごめんなさい。大切な人がいるの」
幼子になった竜神は、リリーに抱きしめられながらしょんぼりして、時折ユウと睨み合っている。
しかし、可愛過ぎる幼子の姿が、あの竜神と似ても似つかない。
「きっといつか、あなたの側にいる人が現れるわ。祈っているわね」
リリーが慈しみながらそう言うと、竜神は少しだけリリーにだけ分かるように頷いた。
それに気付いて、リリーはふわりと笑った。
竜神はそっとリリーの額にキスをして、嬉しそうに笑った。
そして、綺麗な一粒の涙を落として、空へと高く高く帰って行ってしまった。
他の者へはニヤリとした笑みを残して。
『あーあ、甘いな。リリは』
座り込んでいるリリーを後から囲う様に魔神が座って抱きしめた。
アキラとユウで引き剥がそうとしているが、リリーがふらふらなので上手くいかない。
『また狙われるわよぉ? まぁリリらしいと言えばリリらしいけど』
聖神はしゃがみ込んで、怒るアキラとユウを軽くあしらい、リリーの頬にキスをした。
ユウが聖剣を、アキラも続いて魔剣を出し、聖神と魔神に斬り掛かったが……
どちらも指で掴んで止められた。
「はあぁぁ?! 高みの見物するくらい神力無くなってたんじゃないのか?!」
アキラが声を荒げると、聖神は愉快そうに笑った。
『リリのもしもの為に残してたに決まってるでしょ』
『そーだよな』
「それは有難いことだが、なかなか苛つくな。でも2対1ならどうだろうか。アキラ、やるぞ」
目の据わったユウが、剣先を聖神に向けた。
聖神はギョッとした顔をしたので、ユウがニヤリと笑う。
そんなやりとりを見ながら、リリーは疲れた顔でにっこり笑った。
そのまま視界が狭くなっていくことに、リリーは気付いたけれど、もう何もできない。
魔神にもたれ掛かるように沈んでいく。
ありがとう。
みんな、無事だったわ。
私、無事に、帰れるのね。
リリーは1ヶ月振りにオウカ公爵邸へ戻った。




