94…緊張の剣術大会①其々の
「順調に勝ち進んでいらっしゃるな」
良い天候に恵まれた、剣術大会の当日。
今回のマルティ国の皇太子の案内役はオウカ公爵が引受け、アキラもユウも貴賓席に座っている。
「……チッ。何かあったら観客の安全を第一に行動しないとならないのが不満でならない」
今年は皇族用の主賓席に座るアキラの隣で、ユウが不貞腐れながら言っている。
「ユウ、舌打ちしない。はぁ、俺達皇族だしなぁ。完全退避の後は戻って良いだろ。便利な瞬間移動で連れてってやるから」
ムロレイから目を離さず、アキラはユウの肩を持って揺らした。
「兄上はリリが危険になったら俺のこと忘れて置いて行きそうなんだよな」
「あー、否定はできません」
そんな皇族兄弟が会話しているとは知ってか知らずか、会場を挟んで貴賓席の向かい側にあるエキシビション演者用の席にリリーが座って大会を見ている。
左右にイケメンの騎士を置いて。
◇
「騎士様達はすごい人気ね」
リリーは真っ直ぐ向いてアキラとユウに手を振りながら、ふわりと笑って2人のイケメン騎士に話し掛けた。
この席に向かうまでの間に、何人もの人達が振返っていたのを流石のリリーでも気付いたのだ。
『この服、思ったより動きやすいのねぇ。かなり似合うでしょう?! そりゃ、振返るわよぉ』
座っているリリーの頬にキスをしようとした騎士の顔をガッチリ掴み、別の騎士がすかさずガードする。
『うるせーから、そろそろ黙れ』
全く緊張感の無い会話をしながら、リリーの左右で護衛をしているのは、言わずもがな聖神と魔神だ。
件の釣書を見てからというもの、リリーの側から離れようとしない聖神と魔神に、リリーは少しずつ慣れてきて相手をしている。
まるで小さな子どもがそのまま大人になった様な聖神と魔神が何だかとても可愛くて、リリーはどうしても相手をしてしまう。
それを面白く思わない男達の内2人が向かい側から睨んでいるのだが……
それに気付いた聖神は、フフンと鼻で笑いながらアキラとユウに手をヒラヒラ振った。
魔神は向かい側に全く視線を向けず、相手にしないと意思表示しているようだ。
『ぶふっ、皇族のお2人は何故かお怒りねぇ』
聖神はわざとアキラとユウに見えるように、行われている対戦を見ていたリリーに話し掛ける。
「え? あ、本当だわ。どうしたのかしら??」
そんなお怒りのアキラとユウに、リリーはにっこりと手を振ってみる。
『怒りっぽい男は選んじゃダメよ〜。ところで、今は何回戦であとどれくらいなの??』
魔剣が溜息をついて聖神を見た。
『アイツがあと2回勝てば決勝じゃねーか?』
「……そうね」
リリーが緊張で手を握っているのに気付いて、魔神は優しくリリーの頭を撫でた。
『大丈夫だ。何かあったらすぐ助けてやるから』
聖神がしゃがんで、リリーが力を入れて握っている手を優しく解いて、自分の手でリリーの手を包む。
リリーは聖神と目が合うと、少し力が抜けてホッとした。
「ええ、そうね、そう、ありがとう。神杖もあるし、きっと少しは自衛もできるわ」
神杖を剣術大会用の剣に変化させ、それを使うことにしている。
出来る準備はしっかりしてきたはずだ。
それでも、やはり恐いものは恐い。
『自衛はかなりできるだろ』
『そぅねぇ、リリーはなかなかやるからねぇ』
リリーは照れくさくて笑みを我慢しながら聖神と魔神にお礼を言った。
淑女としてより剣術を褒められる方が何倍も嬉しいという、リリーは珍しい公爵令嬢なのだ。
少しリリーの緊張が和らいできたところで、マルティ国皇太子が決勝に進むことになったアナウンスが流れた。
◇
「父上、こんなにオウカに滞在してウィステリア大丈夫なんすか」
「まぁ、あいつらが居れば何とかなるだろ」
貴族席にドカッと座っているパクツの隣で、タイムは貴族らしく座り父を見続けている。
タイムの脳裏に、父の側近たちがげっそりしながら仕事をしている様が浮かんできた。
ウィステリアではよく見られる光景なのだ。
パクツは先見も良く判断力もあり、賢い上に幼い頃からオウカ公爵の近くにいたこともあって、領地運営は天職ではなかろうかと思わせるくらいの仕事ぶりなのだ。
本人は全く自覚なしなのだが。
「……まぁ、リリーの方が大切すね」
タイムは側近たちに同情しながら、次の決勝に視線をやった。
「ああ。あの皇太子は手抜いてやがんな」
「はい……エキシビションは奴すね」
ムロレイ皇太子が相手の喉元に軽く剣先を付けて、優勝者となった。
人外に綺麗な顔で笑顔を作り、ムロレイ皇太子はマルティ国のお辞儀を4方向へ披露した。
そして、最後はリリーの方を向いて。
ムロレイ皇太子のとても嬉しそうな笑顔に、リリーはゾッとしながらも必死に笑顔を作り拍手で応えるしかなかった。
他国の綺麗な皇太子の優勝という、大盛り上がりの拍手喝采で決勝は終わった。




