93…神杖
風が心地良く、天気も良い昼下がり。
聖神と魔神が元の姿に戻って1ヶ月が経った日。
公爵邸の裏にある広い練習場で、リリーと聖神と魔神で何やらやっているようです。
「あの……ゆっくりお願い。何だか力が抜けていく感じが、慣れないわ」
『あらぁ、リリの魔力の質はやっぱり良いわねぇ』
『おい、急いで取り過ぎんなよ』
聖神と魔神の手を持ったまま、リリーは今にも崩れ落ちそうになっている。
リリーは自分から魔力を出すばかりで、抜かれることは未経験で、今は強制的に絶賛脱力中だ。
「何だか思ってたのと違うわ……」
『座っても良いのよ?』
「う……何か負けた気がするから立っていたいのだけど、お言葉に甘えて、座らせていただこうかしら」
手を繋いだままリリーが座った左右に、聖神と魔神がリリーの方を向いて座った。
『俺等が魔力を抜く分を出す感じだろ』
「制御は……」
リリーは魔力量を隠すために、オウカ公爵が許可せずあまり魔法を使わせてもらえなかった。
座学は完璧だが、制御にあまり自信がない。
「初めてなの」
『あら良い響きねぇ』
『まずお前は黙ってろ』
魔神に睨まれて、聖神はつまらなさそうに溜息をついた。
「ごめんなさい。魔法を使う時は、その時に出したいだけ出していたから」
リリーがしょんぼりしながら恥ずかしそうに言った。
『この魔力量をか……受ける相手に同情しかねーな』
魔神が呆気に取られている事に気付いているのかいないのか、リリーは悩みながら呟いた。
「もっと多めなら……いける気がするの」
『いけんなら、そーするか』
『あら、リリってば挑戦的ねぇ』
リリーが軽く出し続けられる程度に、聖神と魔神が合わせることにしたらしい。
『軽くでこれなの?!』
聖神は勿論、魔神も驚きの魔力を出し続けたので、予定よりもかなり早くリリーは必要な魔力を渡すことができた。
2人の神が何か呟きながら、リリーと繋いでいない方の手を上に向けると、風が吹き上がり一部で旋回し始めた。
風しかないはずなのに、中が見えなくなっている。
リリーはその様を、ずっと嬉しそうに見ている。
そんなリリーから聖神と魔神は目を離せない。
『そろそろだな』
ふわっと優しい風が吹き、今までに見た何よりも綺麗な輝きを放ちながら、神杖が空からリリーの目の前へゆっくり落ちてきた。
まるで聖剣を初めて手に持った時のユウみたいだと、リリーは心が跳ね上がるのを感じた。
想像よりも短いそれを、そっとリリーは手に取った。
「綺麗ね……ありがとう」
大切そうに神杖を抱きしめるリリーを、聖神も魔神も懐かしそうに眺めている。
『帰りましょ』
「ええ!」
リリーは神杖を持って一瞬立ったが力が抜けて、へにょっと座り込んでしまった。
最初の脱力と、慣れない魔力制御で、やはり体に力が入らなくなってしまったらしい。
『あらぁ……、懐かしい光景ねぇ』
『チッ。てめーいい加減にしろよ』
何故か魔神は静かに激しくお怒りだ。
「カノ様もこうだったの?」
リリーは地べたに座り込んだまま、聖神と魔神を見上げている。
『いいえ〜カノは魔力制御が上手かったから、普通に歩いてたわよ』
聖神はリリーを愛おしそうに見ながら笑った。
「でも懐かしいって……」
『行くぞ』
魔神が神杖を大切そうに持つリリーを抱き上げて、そのまま聖神を置いて移動しようとしたが、
チッ
阻害されてできず。
魔神はイライラしながら溜息をついて、にこにこ笑う聖神も連れて消えていった。
◇
キラキラと星が会話している空の下、リリーが寝息をたてている。
そのベッド横に、キラキラと誇らしそうに神杖が立て掛かっている。
『もう二度と見ねーと思ってたのに……』
神杖を手に取り、魔神はゆっくり振り回した。
『寝顔も可愛いわねぇ』
聖神がリリーの寝顔を覗き込んでいるのを見て、魔神はげんなりした顔をしている。
聖神が『神杖の出来を見たいから、ちょっとリリーの部屋に連れてってよ』と言ってきたので、魔神は聖神をリリーの部屋まで連れて来たのだ。
『おい』
魔神はそう言って、神杖を聖神に投付けた。
『ちょっとくらい良いじゃない! この子、全然起きないわねぇ』
聖神はリリーの頬を突いてから、離れて神杖の出来を確認し始めた。
ベッドに腰掛けた魔神がリリーの顔を覗き込もうとした瞬間、リリーが魔力を込めて首元にしがみついてきた。
『は?! 待て、全力じゃねーか?! いってーな』
神と言えど、リリーの全力は簡単には対応できないらしい。
聖神は『あらあら』と適当に言って、すぐ神杖の確認に集中した。
『何なんだっ、起きてんじゃねーか?!』
「……ねむぃの」
『起きてんだろ?! つーか起きろ!!』
もうリリーから返事が返ってこない。
まいった。
こんな事になるなんて。
でも、この切り抜け方を知っている。
寝相の面白いカノにもよくしていたから。
魔神は溜息をついて、
リリーの唇にキスをした。
参考→70…リリーの寝相、83…本②記憶があるという事




