89…第三部、最終話
「へ?! 恋仲?! え、達??」
タイムが目を見開いて、聖剣と魔剣を交互に見ている。
『取り合わずに、分けっこしたのよ。日替わりで?』
『あいつ選べねーとか言うしな』
定食みたいに言うなとパクツは突っ込みそうだったが、日替わり定食を皇族貴族が知っているのか分からないし、もう何をどう突っ込んで良いのかわからないので、諦めて傍観を決め込むことにした。
リリーは大切な事を思い出して、聖神と魔神の方へ向いた。
「あの、これは、2人に伝えた方が良いと思ったの。今言って良いかしら……」
リリーは一旦深呼吸をして呼吸を整えて話し始めた。
「"2人を愛することが出来て、愛してもらえて、本当に幸せだ"と、"いつか2人を残して逝くのが何よりも辛い"と、書いてあったわ」
ーーありがとう、大好きよ
聖神も魔神も呆気に取られた顔をして、止まった。
ーー私とっても幸せだったわ
すると、魔神が頭を掻きながら溜息をついた。
『あぁーくそっ、会いてーな』
ーー探さないでね
聖神は腰に手を当てて、溜息をついた。
『もう会えないのよね……こればっかりはしょうがないわよねぇ、もう、永遠に想い続けるしかないわ』
ーー今を楽しんで
リリーは切なくて胸が苦しくなって、泣きたくなった。
ーー過去に囚われないで、今を生きて
一方、アキラはやけに希望の光が見えたような顔をしてユウの方へ振り向いた。
「分けっこか! じゃあ、俺もリリの婚約者になって良いんじゃないか? 分けっこしようか、ユウ」
タイムが負けじと話に割り込んできた。
「じゃあ、2人でも3人でも同じすよね。俺も入れて下さいよ」
「お前達ふざけるなよ?!」
好き勝手な事を言うアキラとタイムに、ユウはキレている。
とうとう3人でワイワイし始めてしまった。
ーーどうか、幸せになって
カチャッ
剣を抜く音が聞こえたと同時に恐ろしい殺気を感じたので、アキラとタイム、ユウは急いで立ち上がって音から距離を取った。
リリーを片手に抱きかかえて立上り、3人に剣を構えているパクツがいる。
リリーは先ほど切なくなってしまい、3人が話している間にパクツにしがみつきに行って、泣いている。
勿論、3人のやり取りなんて聞こえてはいない。
「お前ら、まじでいい加減にしろ。全員、今から潰すぞ?! 早く俺の後ろに気付け!! もう魔力を隠さねぇで良いからって盛大にやってんのが居るからな」
3人は視点をパクツからパクツの後方へ移した。
すると、表現し難いくらい怒り狂っているオウカ公爵が、見たこともない禍々しい魔法を練っている。
オウカ公爵はそれを防魔で包んで、その禍々しさに周りが気付けないようにしている。
ガチの戦闘で使う手段だ。
据わった目で、3人のどれを的にしようか、それとも中央に、と考えているらしく、ぶつぶつ呟いている。
手のひら程度の大きさだが、今まで見た何よりも危険であることが一目で理解できる。
周りの空間が歪み始めているから。
このおっさん正気か?!
アキラ、ユウ、タイムが思った事は同じだった。
「お前達、そこから先の話を進めたら、即撃つ」
ゆらりと手を前に出して、オウカ公爵は空間を歪めつつあるそれを見せつけた。
「僕は可愛い娘の婚約が何よりも気に入らないんだ。良いかい、僕の許し無くリリに手を出してみろ……僕が全力で、肉片も微塵も残さず、この世から消してやる」
3人共、真っ青になって直立不動でもう頷くしかない。
リリーを得るにも、命が無くては元も子もない。
「これが舅で良けりゃ、また臨むんだな」
パクツは冷や汗をかきながら、オウカ公爵の親バカ加減に呆れるしかない。
『あらぁ、じゃあ私達も交ざることはできないのかしらねぇ。残念』
聖神も魔神もつまらなさそうにしている。
平常心に戻ってきたリリーが反応して、パクツの腕から身を乗り出した。
「ダメよ、だって私はユっんぐっ」
焦ったパクツが間一髪リリーの口を手で塞いだ。
「待て、状況を知れ。先ずはお前のお父様を見ろ。それ言ったら……あいつが、消されかねん」
小声で諭しながら、オウカ公爵の方へリリーの顔を向けさせた。
「え……ひぃっ」
初めて見るレベルで激昂しているオウカ公爵に、リリーはパクツにしがみ付いて青褪めた。
ブンブン頷いてパクツに感謝するしかない。
あのまま発言していたら……オウカ公爵邸が焦土と化していたかもしれない。
皆静かになったのを確認して、パクツは慣れた手付きで窓を開けて、バルコニーにオウカ公爵を連れて行った。
大きな大きな特大花火を上げるために。
まずはこの舅を攻略しなければならないのか……と、男達はやっぱり先が思いやられましたとさ。
第三部、完。
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