88…私達とカノは
「叔父様!! いらっしゃいませ!!」
パクツがオウカ公爵に呼ばれて再び公爵邸へやって来た。
「復活したか。元気そうだな」
リリーは嬉しそうにパクツに飛びつくと、パクツはリリーを抱きかかえて周りを見回した。
オウカ公爵邸に居るリリー、オウカ公爵、タイムは勿論、挙動不審なアキラ、聖神と魔神もいる。
「……何か増えてんな」
ムッとしているタイムがパクツを見ている。
リリーを下ろせと言わんばかりの目つきだ。
「父上、声出てますよ」
パクツは悪戯っ子の様にタイムの頭をワシャワシャ触って挨拶した。
「どう見てもオウカの人間じゃねぇだろ」
ワンレン美人の男がパクツに手を振った。
『聖神様よ。神なの』
パクツは真剣な顔でオウカ公爵に振返り、瞬きせず言葉を絞り出した。
「……とりあえず、やべぇって事だけ分かったが」
オウカ公爵は苦笑いするしかない。
その横で、タイムがパクツに手招きした後、ユウを指さした。
「父上、ユウさんも居ますけど喋って良いんすか」
パクツの声を初めて聞いて驚愕している顔から戻れていないユウを見て、パクツはゲッという顔をしている。
するとアキラがしてやったりの顔でケラケラ笑っているのがパクツの目に入ってきた。
「アキラ、お前わざとだろ。後に弟を隠してんじゃねぇぞ……」
パクツは悔しそうに溜息をついて、当て付けの様に暫くの間リリーを下ろさなかった。
◇
「2つの剣だけれど、アキラとユウによるとまだイヤリングにしたりが可能らしいの」
歩きながらリリーが聖神と魔神に聞くと、魔神がリリーの髪を指に絡めて遊びながら答えた。
聖神が魔神の手を払っている。
『元からそんな剣だ。俺等がそこに宿ってたっつーだけだ。おい、お前らそのまま使え』
いつか必要になる、という言葉を飲み込んで、魔神はアキラとユウを指差した。
オウカ公爵の執務室に到着すると、リリーとユウが一緒に座ったソファの肘掛けに、魔神と聖神が当たり前の様に座る。
「えっと、神杖の事は本に書いてありました。言っても良いのかしら?」
リリーは魔神を見てから、ユウの肘置き座っている聖神を覗き込んだ。
『勿論よ。私達が言えないのは、人間で言う誓約みたいなものをかけられているからよ。リリは何をどう言っても良いのよ』
リリーは頷いてから話始めた。
「先ず呼び起こし方です。神は沢山いて、普段は単独行動で会うこともなく、協力なんて以ての外なんだそうです。そんな神が2人以上協力すれば神杖は創れると」
合っているか確認で、リリーはユウ側に座っている聖神を覗いた。
『正解よ……2人揃ってるだけで有難いと思いなさい?』
聖神はフンッと偉そうにした後、優しい顔になってリリーに視線をやった。
『リリには必要になると思うから出してやるわよ。でも創るには"リリの"魔力が必要なの。今は身体は元気でも、魔力はまだ全快ではないでしょう? 私達も直ぐは無理よ。そうねぇ、1ヶ月経てばいけるかもしれないわ』
リリーは自分の手を握って開いて、頷いた。
『それまで気を付けて過ごしなさい?! 本当はカノで最初で最後だったの。特別よ! 私達を元に戻してくれたし、感謝してるの』
聖神がリリーを覗き込んできたので、ユウが止めている。
『神が協力するとかねーからな! リリ、お前で最後だ。お前が消えたら、神杖も消えて無くなる』
魔神はまたリリーの髪を持ってキスをした。
そして、リリーの持っている本に優しく触れながら、寂しそうにそっと呟いた。
『"これを読めんのは、此の世にお前1人だけっつーことだな"』
リリーは目を見開いてゆっくり魔神を見上げた。
魔神と目が合ったまま、大きく鼓動して体が揺れてしまう。
それに気付いた魔神はリリーと目をそらせずにいる。
『おま……』
『リリ、他にはないの? カノは何書いてたのかしら?』
リリーはビクッと反応してしまったので、何か書いてあったのだと皆に分ってしまった。
リリーは魔神から気不味そうに目を逸らして、聖神の方を見た。
「あと……あの、その」
皆が注目をしているので、余計に話し難い。
リリーは深呼吸して、少し時間をおいて短文で話してみた。
「……カノ-オウカは、赤裸々に日記の様な文も書いていたの」
人間達は意味が分からないようだが、聖神と魔神は開いた口が塞がらない様子だ。
『……リリ、それって、もしかして、もしかしなくても、私達のこと、とか、かしら?!』
リリーは目を閉じて頷いた。
「そ、そうね。どこまで読んだら良いのか、読み飛ばした所が重要だったらと思って……全て読んだのだけど」
『はっ!! まじか、あいつ!』
『あらー……それは読みにくかったわね?!』
リリーは顔を手で隠して頷くしかなかった。
人間達はまだ分からないという顔をしながら、ただただ会話を聞いている。
それに気付いた聖神が、切ない顔をして肩をすぼめた。綺麗な顔が余計に綺麗に見える。
『私達は、カノと恋仲だったのよ』
聖神のその言葉で、その場がとりあえず余計に静まり返った。




