表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/63

8.海と魚介とアマリリス

タイトルが長すぎるのが気になってたので少し短くしました。

領都ロックは港街だ。近くには漁村もある。


だがモリリナは魚より肉派だ。魚は食事に出ればまぁ普通に食べるくらいの扱いである。

アマリリスは前は肉派だったけれど、今は魚が大好きなようで、頻繁に祖父と港や漁村に行っている。


今日も朝早くから新鮮な魚を求めて2人は漁村に向かった。

仕入れた魚を干して干物というものを作るのだと張り切っているのだ。


この間アマリリスが作った干物というちょうどいい塩味の干した魚はとても美味しくて、家族や城の皆に大好評だった。


今までも保存用の干し魚はあったけど、カチンコチンに固くて、スープに入れるか水で戻して食べるものだった。これはこの土地の名物になるぞ! と、お祖父様とお父様も干物に夢中になってるのだ。


そして今日の朝食の時、今夜はサシミを皆に食べさせてあげるわ!とアマリリスが大きな声で宣言していた。


サシミとはいったいなんなのか。


漁村で調達するということは魚なのだろうけど、聞いたこともない魚だ。


楽しみである。



アマリリスに付いていくこともなく、モリリナは毎日何をしているかというと、

午前中は勉強をしてそれ以外の時間はほぼ愛馬フライと遊んでいる。


ちなみにアマリリスは1度だけミューズに乗って、高くて怖いと言ってすぐ降りていた。こればかりは向き不向きがあるのでしょうがない。


今ではミューズは乗り手がいないので勝手気儘に放牧状態である。領主の娘の馬なので城の兵が乗るわけにもいかず、馬丁が調教の時に乗るくらいだ。


本当はモリリナが乗ってもいいのだけど、フライのヤキモチが凄くて、浮気をするとわざと人に糞をかけようとしたり頭を噛んだりしてくるのである。


夕方までフライに乗って遊んでいたら、城の兵がモリリナを迎えにきた。

急いで帰り、お風呂で軽く体を流して着替える。


夕食の席にはもう祖父母と両親、アマリリスが待っていた。


「遅くなってごめんなさい」


席に着くと、母親にもう少し早く帰るようにと注意を受けた。


運ばれてきた料理を見て、モリリナは固まった。白い皿の上にピンクのグチャッとしたものがのっている。そっと他の人の皿をのぞくと、皆同じ物のようだ。

皆、皿を見て固まっている。


「前菜は、魚のタタキよ。塩を付けて食べてね!」


私が作ったのよ! と楽しそうに言うアマリリスに、お祖父様が困惑して尋ねる。


「アマリリスよ、これは生なのではないか?」


「ええ! そう! サシミの予定だったけど、魚を捌いたのが初めてだったから少し失敗してしまって、タタキになったの。新鮮だから生でも大丈夫よ! 美味しいからわたしを信じて食べてみて!」


「そ、そうか......」


恐る恐る口に入れる祖父。他の皆はジッとしている。


「ふむ。うまい、な?」


2口目を食べる祖父。


「でしょ?! 本当は醤油とワサビが欲しいのだけどね! 皆も食べて!」


父母も恐々と食べる。


「食べ慣れないが、不思議な味だな」


「そうね」


祖母とモリリナは食べなかった。


そして次の皿がやってくる。


「前菜ばっかりになっちゃった。タコのカルパッチョでーす!」


皿には黄色い液がかかっているネチョネチョした灰色の物があった。


「タコも初めてだったから大変だったよ! 黄色いのはオリーブオイル。あとお塩はかけてあるからそのままどうぞ!」


ホークで刺そうとしても刺さらないので困惑する祖父。


「これはずいぶんヌメリがあるぞ」


「タコだからね!」


「生で食べて大丈夫なのか? 臭いもあるのだが......」


「大丈夫! あまり触らないように手早く調理しなきゃいけないって魚のタタキで学んだから。それは出来るだけ触ってないからすごく新鮮だよ!」


「そ、そうか」


結局のところ祖父は孫大好きなので食べないという選択肢は無く、ナイフで切ることもホークで刺すことも出来ないそれをホークにのせて口に入れた。


そしてビックリして、ナプキンに吐き出す。


「こ、これは......アマリリス、これは無理だ。きっとこいつはヌメヌメをちゃんと捕らないと食べてはイカン」


ワインをゴクゴク飲んで口の中の味を消す。


「えっ?! うそ?」


アマリリスも口に入れ、すぐナプキンに出すとグラスの水をゴクゴク飲んだ。


「これは失敗ね。洗ったのに全然取れてないわ......どうやってヌメヌメを取るのかしら」


父母と祖母、モリリナは食べなかった。


3皿目がやってきた。


カクテルグラスの中に白くて細長いのが入っていた。


「イカ刺よ。これも塩でどうぞ」


「む! これは美味いぞ!」

ぱくぱく食べる祖父。


「本当! 大成功ね!」

アマリリスも食べる。


父母と祖母も恐々と口にする。


「美味いな! ねっとりしてて、ほのかに甘い!」


「ほんとね。これはなに?魚じゃないわよね」


「イカよ! 残りは干物にしてあるから明日食べれるわ」


「ほう。これの干物も美味そうだ!」


イカは皆に好評でモリリナ以外は完食した。


モリリナは食べなかった。



生の魚も少し抵抗があったけど、それよりもグチャッっとした見た目が苦手だったし、アマリリスの手の味がしそうだな。と考えてしまうともう無理だった。


結局その夜はパンとスープだけ食べた。


家族や使用人達からの、せっかくアマリリスが頑張ったのに、少しは食べてやれよ! という無言の非難を感じ少し申し訳なく思ったがやっぱり無理だった。


次の日アマリリスの料理の味見をした厨房のスタッフと、祖父母、父母とアマリリスが腹痛で倒れた。


医者と治療師が呼ばれ、原因は昨夜の生食だろうということだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ