58.ウィルドリフ王子はお疲れ
セシルとモリリナは王城に来ていた。
案内された王子達のプライベートルームに入ると、ウィル王子がソファに倒れていた。
「何あれ?」
呆れたように言うセシルに、ルイが笑いながら答える。
「兄上もいっぱいいっぱいなんだ。放置でいい」
モリリナが
気になってチラチラ見ていると、セシルに浮気をしないようにと注意される。
「見てただけよ。それでも浮気になるの?」
ルイが笑う。
「見ただけで浮気になるわけないだろ。セシルは頭がおかしいんだから無視しとけ」
テーブルにお茶とお菓子がならんだ。
「あ、僕にサンドイッチかなにか持ってきてよ」
ウィルがムクッと顔を上げて、侍女に頼む。
「食べてなかったのか?」
「うん。食欲無くて。でも2人の呑気な声を聞いて、惚けた顔を見たらお腹が空いてきた」
「失礼だな。あれ? どうしたの? その顔。いつものキラキラが出さないの?」
セシルがからかう。
確かに今日はしょぼくれてるなとモリリナも思っていた。
「あのねぇ。聞いてよ。僕もう限界! アマリリス嬢だよ!」
「アマリリスですか? やっぱり迷惑をかけているんですか? 立太子の式典が終わるまで我慢してって言ったのに......」
父や祖父は何してるのだろう。
大切な行事なのに。
まさかこんな迷惑をかけているのを知らないのだろうか。
「最初は手紙が毎日来てた。でもそれはいいんだよ別に。毎回カードと花を返してたし。一応言っておくけど、礼儀としてだからね? カードには忙しいから式典が終わるまで待ってねって、僕はきちんと何回も何回も書いたんだ」
ウィルが頭をかきむしる。
綺麗な金髪はぐちゃぐちゃになった。
「あの子、一般開放されてる王城の庭で、毎日お茶会してるんだよ。それも僕の婚約者だと匂わせて! 明言しないで、それっぽく話すからいつの間にか公然の秘密ってことになっちゃってるんだよ」
「まぁ!」
「へー!!」
ルイはクスクス笑っている。
「あの、アマリリスは成人前です。きっと父や祖父は城に入ることを許さないと思うのです。連れてきているのは母ですか?」
「そう。君の母上と一緒に来てる。マリアの報告だと、夫人はアマリリスが僕と結婚するって本気で思ってるみたいだよ」
「ラベンロッドから辞退したのに!?」
「その事は彼女達の中では、無かったことになってるみたい」
「あの、父や祖父は?」
「止めろって言ってるようだけど、アマリリスは使用人も手懐けてるからね。彼等の協力で内緒で抜け出して来てる」
「そんな滅茶苦茶な......」
「お茶会してるだけならいいんだよ。だけど、外堀をどんどん埋めて来てる。いつの間にか若い令嬢の取り巻きを大勢作ってるよ。僕が否定しても何故か噂が止まらないんだ。僕は婚約者を作らないのではなくて、アマリリスが婚約者だ。いつの間にかそういうことになっている」
「あの。アマリリスが申し訳ありません」
ウィルに申し訳なくて、モリリナが頭を下げると、セシルが止める。
「ウィルは皆に良い顔してるからな。だからなめられるんだ」
「これは作戦なの! 裏の仕事をするのに、外面は優しくて善良な王子様でいた方がいいって思ったの!」
「裏目に出たな」
ずっとクスクス笑っていたルイがからかう。
「ルイィ、お兄様にもっと優しくしてくれよぉ。あぁー! 僕はルイの立太子が終わるまで我慢できるかなぁ?! イライラするんだ! はっきり言って気持ち悪いし、大嫌いだ!」
ウィルが天井に向かって吠えるように叫ぶ。
そうとう溜まっているのだろう。いつもキラキラした王子様であるはずのウィル王子が、ボロボロで荒んだ雰囲気になっている。
迷惑をかけているのは自分の家の人間なので、モリリナはいたたまれずソワソワしてしまう。
「本人を直に呼び出してはっきり注意したいけど、ルイが止めるし」
「それは止めた方いい。きっと、恋人の時間を過ごしたって言いふらされるぞ」
「あーありそう」
セシルが同意する。モリリナもあり得ると思った。
「それでこっちも外からやり返そうと思って、アマリリス嬢とはあり得ないって言いまくったんだ。そしたらどうなったと思う? モリリナ」
「どうなったんですか?」
「次の日にはそんなこと言ってない事になってた! どうなってるの?! 言霊って凄すぎない?!」
ウィル王子が叫ぶ。
「確かに凄いな」
セシルが感心している。
「ああ。中身さえまともなら側近に欲しいくらいだ」
ルイも頷いている。
「陛下は知ってるの?」
ウィルがソファから立ち上がる。
「知ってるさ。全部ね......父上が僕になんて言ったと思う? 『お前は “必ずうまくやるから任せろ” そう俺に言ったんだから、やってみせるんだろう?』って笑ってたよ......きっとこのくらいの事なら、父上や側近達だったら本当に何てことなく処理しちゃうんだろうね」
ウィルはフラフラと歩く。
「僕は......ダメだ。才能が......無い」
そう言うと、床に倒れゴロゴロ転がる。
「自分から近づいたんだから頑張れ!」
セシルが笑って励ます。
ルイも爆笑している。
モリリナは困惑した。
自分には大変なことに思えるけれど、やはり国を動かす人達からみたら、アマリリスはどうにでも出来る程度の些細な問題なのかもしれない。
流石である。
モリリナが感心している間に、セシルとルイの話が進む。
「ルイの婚約者候補達は?」
「明日から続々と到着予定だ。立太子が終わるまでは今これがゆっくり出来る最後だな」
「そうか。頑張れよ」
「ああ。一生に一度の事だ。しっかりやるさ」
2人が笑いあう。
モリリナも、ルイのお妃様が素敵な人に決まればいいなぁと、ニコニコしてしまう。




