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51.ウィルの話

異世界。それはアドリアナ王国やその近隣国では、耳にすることの殆どない言葉だ。


だが海を越えた遠くの大陸には、召還という儀式を行い、異界の民を招く国もある。

異世界人は世界の狭間を越えた時、何らかの能力を発現するのだそうだ。

争いの絶えない海の向こうの国で、彼らは兵士として使役され、使い捨てられる。


その大陸とは国交が無いので詳細は不明であるが、

異世界という言葉は奴隷や誘拐を連想させ、アドリレナではあまり良い印象がない。




「異世界の言葉?」


思いもしなかった言葉を聞いてモリリナは戸惑う。


「司書が向こうの大陸の古い本に、召還された異界人の1人が言霊を使ったという記録を見つけたんだよ。言霊って言うのはね、言葉に力があるっていう事らしい」


「言葉に力がね......でもさ、召還だっけ? 儀式の名前。それをしていないのに、そんなことあるの? しかも中身だけってなんなの?」


「そこら辺はまだ全然わからない」


セシルはあまり納得がいかないようだ。確かに普通に考えたら、嘘みたいな話だ。

モリリナにとってもウィルの話は、想像もしていなかったものだった。


ただでさえ、アマリリスの体に入ってるのは誰なのか? その人は死んでるのか? とか、なぜアマリリスに? など、わからないことだらけなのに、異世界という全く未知の言葉が出てきたのだ。


「あの時アマリリスは死んで、何かが起こって、中に異世界人? が入った?」


「うん。あのおかしな知識もそれで納得がいくしね」


「ふぅん。やっぱり僕はいまいちピンと来ないけど。不思議なことなんて山ほどあるし、まぁそんなこともあるのかな。でも今まではその言霊とか言うのが問題だったんでしょ? これで正体がわかったのなら、いくらでもやりようがあるね」


モリリナはセシルの言う事の意味も良くわからなかった。


「まあ、そうだね。でもいちおう言質を取りたい」


「セシル、やりようって?」


「ん? あのね、言葉に力があるんだってウィルが言ったろう? だったら言葉を封じてしまえばいいんだよ。舌を抜くとか喉を潰すとか。意思の疎通は筆談が出来れば問題ないからね」


なるほど。とモリリナは思ったが、アマリリスの体が傷付くことは抵抗がある。

これだから甘いと言われてしまうのだ。

それに、その言霊とやらを封じたからって、許せるか? と言われたら否だ。


「わたしはアマリリスじゃないのなら、あの体から出ていって欲しい。嫌なの」


「そうだね。僕もそう思うな」


ウィルが頷く。同じ考えのようで良かった。

声を封じて、もう害はないからと終わりにされるのは絶対に嫌だ。


ふぅ。


モリリナとウィルの緊張した空気が、セシルのため息で破られた。


「ねぇ、侍女呼んで? モリリナにお茶飲ませたい」


いつの間にかモリリナのお茶は、すっかり冷たくなっていた。それに言われてみると喉が渇いたような気がする。


「あ、ああ。そうだね」


ウィルがテーブルの上にあった小さなベルを鳴らすとすぐに侍女が現れる。


「モリリナにお茶を。それと甘くない摘まめるものもくれる?」


「ウィルお腹空いたなら何か食べてきなよ。用は済んだろ? モリリナにお茶を飲ませたら、僕達はもう帰るから」


「えー。もう少し居たら? まだ話したいし。僕、こんなにまとまった時間が空くの本当に久しぶりなんだよ。もう少しゆっくりしたいし」


セシルは露骨に嫌そうな顔をする。

「まだ話すことあるの?」


「うん。ジョコボから報告が入ったんだけど、アマリリス嬢が今年の社交シーズンは王都に来るって」


「へえ! ウィルの努力が無駄じゃなかったな」


セシルが思い出してクスクス笑い、ウィルは肩をすくめた。


「まぁね。頑張ったから」


3人でお茶を飲み、小さいサンドイッチやハム、チーズ、ミニパイを摘まみながら話す。


「春にはルイの立太子の式典があるだろ? 他国からの賓客もたくさん来るから、僕も忙しいんだ」


「ああ。だろうな。ルイのお妃様候補も来るの?」


「来るね。セレス公国の公女だろ、レファニアの第一王女に、ガレオス帝国の第二姫とか、他にもまぁいっぱい来るね」


「そんなに候補が......」

モリリナの驚く顔を見て、セシルが赤くなった。


「可愛いなぁ」


「え?」


「ちょっと。面倒臭いから止めてよセシル。話が終わってないんだから。それで僕はルイの立太子まで忙しいから、アマリリス嬢のことは、式典か終わってゲスト達が国に戻ってからにしたいんだよ」


なる程納得である。

「勿論です。ウィル殿下、わたしも出来ることがあればお手伝いします」


こんなことを思うのは今ではもう不敬なのだが、モリリナにとってルイは大好きな友達で、兄のように思う大切な人だ。手伝えることがあれば手伝いたい。


「モリリナは僕の相手で忙しいから無理だよ」


「セシル!」


「......うん。ありがたいけど、君が手伝うのはちょっと。セシルがね......嫌な予感しかしないから、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとうモリリナ」


断られた。

ウィルに気を使われ、モリリナはなんだか恥ずかしくなった。


「そ、そうですか......」


「それより、モリリナは自分の身の回りに気をつけてね」


「わたしの、ですか?」


「アマリリス嬢だよ。君を敵視してるだろう? ラベンロッドでも僕に君の悪口を凄く言ってたし、それがなんだか異様だった」


「わたし色々考えてみたのですが、どうしてあんなに嫌われているのかわからなくて」


「ああ。自分が上の存在なのに。とか言ってた。それと、私が特別な事を僻んでモリリナが意地悪してくるんですぅ! だったかな。はっきり言って、アマリリス嬢は人を見下す性格というか、単に性格が悪いだけだと思うよ」


「僕、今度モリリナが意地悪されたら我慢できないかも」

セシルが無表情になってボソッと言った。


「止めてよ! あっさり殺しそうで怖いんだけど! 今までの努力と我慢が台無しになっちゃう。色々聞き出してからにしてよ」


ウィルが頭を抱える。モリリナに関しては、セシルの忍耐力に信用は無いのだ。


「セシル、心配してくれるのは嬉しいけどダメよ」


「じゃあ、何もされないようにモリリナは僕から離れないで」


「わかった。出来る限り離れないようにするわ」


「頼むよモリリナ。セシルを暴走させないで。これが君の仕事だからね」


「はい殿下。がんばります」



その後は、ウィルの忙しさの愚痴を聞いたり、ルイはもっと忙しいという話を聞いたりして、セシルとモリリナは城を辞した。


読んでくれてありがとうございます!

今話でストックが切れてしまい、2日ほど更新お休みします。

楽しみにしてくれている方ごめんなさい!

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