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45.冤罪

誤字報告ありがとうございます!

執事に案内された部屋には、父の他に祖父もいた。

2人はモリリナが入って来ると、困ったような何とも言えない顔をした。


モリリナは2人の向かい側に座り、待った。


しばらく誰も話しださなくて、シンとした部屋で執事がお茶を淹れる音だけが時々聞こえる。


「モリリナ、なぜ呼ばれたかわかるかい?」


ラベンロッド伯爵がモリリナに聞いた。


「いいえ。誰も教えてくれないのでわかりません。何があったのですか?」


真っすぐに父を見て答える。


「アマリリスが襲われた。......警備の者が気付いて、最悪の事態は防ぐことが出来たが」


ラベンロッド伯爵は言葉を切り、モリリナを見つめる。

父がとても悲しそうな顔をしていて胸がチクッと痛む。


続きを言い出せない伯爵に代わり、祖父ダグラスが話し出した。


「アマリリスはモリリナが仕組んだと言っている。アマリリスを慕う男達を騙してけしかけたと。アマリリスの寝室に侵入した者達もそう認めた。お前にそそのかされたと」


「わたしそんな事しません!」


「モリリナ。最近アマリリスに執拗に付きまとっておったろう? アマリリスはお前の暴力が怖くて逃げていたのだそうだ。それで、逃げる自分にモリリナが怒って、こんな仕打ちをしたのだろうと言っている」


「それは! 近づいたのは、仲良くしたかったからです! アマリリスを怒ってなんかいないし、そんなことしません!」


そんな風に言われているのが悔しい。


「......私も父上も、お前がそんなことをするような子じゃないのは知っている。信じているんだ。だが......アマリリスの事も信じている。これは、こんな。何が本当のことなのか」


父が頭を抱える。

相当動揺しているようだった。


祖父が初めて見る厳しい表情をモリリナに向ける。


「モリリナ、わしはお前がやっていないと誓うなら、お前を信じる。愛しているからな。誓えるか?」


「父さん、そんな言い方。私だってモリリナを愛しているに決まっているじゃないか!」


「お前は黙っておれ。これはわしとモリリナの話だ」


「わたしは誓ってそんな酷い事しない。女神さまにだって誓えるわ」


「モリリ、」


バタン!!!


ラベンロッド伯爵がモリリナに何か言いかけた時、


いきなりドアが開いて、

血走った目をした母ジーンが飛び込んできた。


「あなたなんか帰ってこなければよかった!」


大きな声で叫びながら、ずかずかと大股でモリリナの前まで歩いてくる。


驚いて立ち上がったモリリナは、母の鬼のような形相にビクッとした。


「あっ」


パチンっと頬を張られる。

3年間グレンに稽古をつけられたモリリナにとって、母親の細腕でいくら頬を張られても体にダメージなんかない。


痛くなんかない。

でも、体は平気なのに、心はとても痛くて、深く傷付く。


涙が溢れて、泣きたくなくて口が震えてへの字になる。


それでも下を向きたくなくて、母を真っすぐ見つめる。


「わたし、してないわ。お母様、信じて」


パチンっ


また叩かれた。


「酷い子! 嫌な子! どうして! どうして! そんな子になっちゃったの! 嘘までついてっ!」


パチンっ パチンっ パチンっと、頬や頭を何度も叩かれる。


「わたし、嘘なんか、ついていないっ」


モリリナが違うという度に、母は激昂して我を忘れた。


「ジーンやめろっ!」


普段は愛情深くて可愛らしい妻の、突然の豹変にラベンロッド伯爵が慌てて押さえつける。


「何をするんだ! 君の娘だぞ!」


「こんな嫌な子いらないわ! 大嫌いよ!」


モリリナは、暴れる母が父や使用人達に部屋から連れ出されるのを、現実じゃないみたいな、夢の中にいるような気持ちで見ていた。


「モリリナ」


祖父ダクラスがモリリナを抱きしめる。


「大丈夫だ。きっとお前の母さんは、誤解して、勘違いしてるだけだ。アマリリスの事がショックで、今だけ少しおかしくなっているんだ。ジーンだってお前のことを愛してるよ。だから、だからそんな風に泣かんでくれ。モリリナ、こっちを見ろ。ああ。なんてことだ。泣くな。泣かんでくれ。爺がどうにかするから。モリリナ......」


モリリナは自分がどんな顔をして泣いているのかわからなかったし、

祖父がどうしてそんなに取り乱しているのかもわからなかった。


ただ祖父に抱かれ、涙を拭われているうちに眠ってしまっていた。





目が覚めた時、自分の部屋のベッドに寝ていた。

枕もとにはマリアがいて、モリリナの手を握り心配そうな顔をしていた。


「マリア? 春に王都に行くまでお休みでしょう? どうしたの?」


マリアはモリリナの目が覚めたことにホッとした様子で泣きそうな顔をした。


「ウィル殿下の配下と名乗るジョコボという方が、私の所に迎えに来ました。誰も信用できないから、モリリナ様の側にいて欲しいと」


「お休みなのにごめんなさい」


「どうしてもっと早く教えてくれなかったのですか。こんな事になってるなんて......」


「強くなったと思ってた。一人でも頑張れるって......ごめんなさい」


「困った方ですね。でもこれからは私がいますから。一人になんかさせません」


「そうね。マリアがいる。それにジョコボもいるし」


「あの、あの子は、もしかして昔スラムからアマリリス様が拾ってきた?」


「覚えていたの? ジョコボは今はウィル殿下の所で働いているの。私を守るために付いていてくれてるのよ」


「守れてないじゃないですか!」


「マリアを呼んできてくれたわ」


「それに、どうしてモリリナ様に守りが? いったい何が起こっているのですか?」


「......話していいかわからないから。でも、マリアもとっくに巻き込まれてるわね。殿下の許可がでたら話すから」


「事情があるのですね。わかりました」




コツン



ベランダから音がした。


「あっ。ジョコボだわ。マリア、開けてあげて。こっそりね」


「......今までも部屋に入れていたんですか? セシル様に殺されますよ」


たしかに。

実はセシルはジョコボの事を知らないのである。


「内緒にしてね」


「わかりました。私のせいで人が死ぬのは嫌ですから」


マリアがベランダの鍵を開ける。

慣れた動作でスルッと入ってきたジョコボは、モリリナが元気そうにしていたのでホッとした顔をした。ずいぶん心配をかけたようだった。


「ジョコボ、マリアを呼んでくれてありがとう」


「ああ」


お礼を言われて恥ずかしかったのか、ジョコボはチッと舌打ちをする。


「殿下が来るぞ」


「えっ?! そうなの?! ど、どっちが?!」


「第一王子の方。ウィル殿下。つうか、お前が泣いて気絶したって聞いて、ジマーマンの息子が大騒ぎして王都を出た。殿下は......たぶん面白いことになりそうだとか思ったんだろうな。ジマーマンにくっ付いてこっちに向ってる」


「......」


「セシル様の大騒ぎが目に見えるようですね」


「それで伝言。予告無しに突然の訪問をしたいので秘密にするように。だってよ」



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