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43.似てない双子

「おお! モリリナ! 大きくなった!」


1番最初に大きな声で迎えたのは祖父のダグラスだった。


小さい頃のように抱き上げようとして、祖母のミシェルに止められる


「あなたもうモリリナは大きいのだから、嫌がられますよ」


「お、おぅ。そうか......」

残念そうにしょんぼりする祖父に、笑いながら両手を上げる。


「いいよお祖父様! 抱っこ!」


「!」


「あらまあ」


嬉しそうにモリリナを抱き上げて、高い高いをするダグラス。


大きくなったなぁ! と感激している祖父の禿げ頭を撫でる。

さわり心地は変わってなくてツルツルサラサラだ。


昔のように肩に乗せられたまま移動するのはさすがに無理があったので、下ろしてもらって祖母と母ジーンと対面する。

2人はモリリナの顔を見て、少し驚いたようだった。


「モリリナは 随分顔が変わったのね」


「ええ本当。見違えたわ」


父と同じようなことを言われて戸惑う。

背が伸びただけで、顔は変わっていないと自分では思うのだけど。


だが祖母と母ジーンの後ろに立っていた乗馬服のアマリリスを見た時、3人の言っていた意味がわかった。


「アマリリス?」


そっくりだった双子の見た目は今ではそんなに似ていなかった。


顔立ちは間違いなくアマリリスなのだ。


アマリリスなのだけれど、薄い茶色のクリクリ巻き毛は茶色の緩いウェーブに変わっていたし、

目は少し細くなって、瞳も茶がかった薄緑だ。

鼻も少し低く丸くなっている。

肌は少し黄みがかっていて、プリっとしていたピンクの唇は朱色の薄い唇に変わっていた。


だからといって醜いわけではない。

可愛らしいのは変わらなかったし、将来も美人になるだろうと思われた。

特に肌は、真珠のような質感で美しい。


だが双子を見比べると、変わったのはアマリリスなのだとわかる。

今の彼女はモリリナには似ているが、ラベンロッドの誰にも似ていないのだ。


モリリナは、アマリリスの中身が姉とは違うと思っているので、混じったのだと思った。

異質な中身がアマリリスの外見を変えたのだ。


「モリリナなの?」


アマリリスもモリリナを見て驚いたようだった。


「アマリリス、久しぶりね」


モリリナは、今度アマリリスに会ったら必ずニッコリ笑おうと思っていた。

負けてたまるかという意思表示なのである。


挑むように笑うモリリナに、アマリリスは怪訝な顔をするが、すぐに見下すように笑った。


「ええ。おかえりなさい。会いたかったわ!」


「わたしもよ! 皆がとても恋しかったの」


「たくさん聞きたい事があるのよ。そう! 婚約者の話もね!」


アマリリスはスルリとモリリナに腕を絡ませた。

2人が仲良く話しながら城に入っていくのを、家族も使用人達も微笑ましく見守っていた。






ラベンロッド城のモリリナの部屋は、昔のままだった。

掃除もマメにしてくれていたのがわかる。


クローゼットにはいつ帰ってきてもいいようにと、様々なサイズのドレスが仕舞われていたし、良い香りのサシェも置いてあって、誰かの優しい気持ちを感じて、嬉しくなる。


最後にここに居た時、7歳だったモリリナは、アマリリスへの不快さや他人からの悪意、初めて感じる孤独に縮こまっていた。

きっとあの時もこんな風に、モリリナの為に色々してくれていた人もいたのだろう。

嫌う人ばかりではなかったはずだ。


「ねぇ、それで婚約者ってどんな人よ?」


クローゼットや、宝物の入った引き出しの中、部屋の懐かしい場所を見て回っているのを、勝手に人のベッドに寝転んで、薄笑いしながらジロジロ見ていたアマリリスが話しかけた。


「とても素敵な人よ」


「そんな説明じゃわからないわよ。まったく。相変わらずなんだから。てか、3年もどこに行ってたのよ? 内緒とか酷くない?」


「内緒?」

そういえば、ルイが王太子だからこっそり行くって言ってたな。と思い出す。


「わたしだけの事じゃないから、言えないわ」


「はっ?!」


ガバッと起き上がったアマリリスが目を吊り上げて枕を投げつけてくる。


「最低! 意地悪女!」


飛んで来た枕を軽く受け止める。


「意地悪じゃないわ」


「なんなのよ! 調子に乗んじゃないわよ!」


怒り狂ったアマリリスは部屋を凄い勢いで出ていった。


ふぅっ。

ため息をついて、ぐちゃぐちゃになったベッドを直す。


「すごい怒りん坊......今頃わたしの悪口を皆に言ってるのかな」


やだな。と思うが、それだけだった。



コツン



窓ガラスが鳴った。


ベランダを見て確認して、急いで部屋の扉に走り、鍵をかけて戻る。


「ジョコボ! 大丈夫だった?」


「ああ」


ベランダからスルッと入ってきたのはジョコボだ。


彼はアマリリスが7歳の時にスラムで拾ってきて、逃げだした男の子だ。





王都でモリリナはジョコボに再会していた。


3年前モリリナの話を聞いたウィル王子が、皆がアマリリスに惹かれる中で、彼女を嫌って逃げ出したジョコボに興味を持ち探し出していたのだ。


逃げた後、ジョコボはアマリリスから盗んだ宝石を売ろうとして、逆に悪い人に目を付けられ、娼館に売られていた。


薬を使われていたらしく、見つけた時は薬物の中毒になっていてもうダメかと思ったと王子は言っていた。


だが今ではウィル王子直属の配下になっている。



「アマリリス見た?」


「見た。......気持ち悪い」


ジョコボにはアマリリスの鼻や口、耳から、黒いブヨブヨしたものが溢れてはみ出して見えるのだそうだ。


「あれは、中身と入れ物の大きさが合っていないんだ。ゾッとする」


ジョコボの顔色がひどく青褪めていて心配になる。


水差しの水を差し出すとジョコボそれをゴクゴク飲み干した。


「......それでも、わたし、皆にも見えたらいいのにって、そう思ってしまう。......ごめん」


「いい。見えたら本当に手っ取り早いからな」


「どうしてジョコボにだけ見えるのかしら」


「さぁ。殿下は魔力のせいかもって言ってた」


ジョコボは少しふらつきながらソファにドサッと倒れるように座った。


追加の水を注いで、後で食べようとしまっていた焼き菓子を持ってきて差し出す。


「俺、魔力があるんだ。でも属性がわかんねぇ。魔物の血が混じってんのかもって言われた」


「魔力? 凄いわジョコボ! でも属性がわからない事もあるの? 魔物の血?」


すごい勢いでお菓子を食べるジョコボに、荷物の奥に隠していた秘蔵のチョコレートも急いで持って来る。


「普通は無い。だから俺には魔物が混じってるんじゃないかって言われてんだよ。気持ち悪いってお前も思うか?」


モリリナはポカンとした。

魔物を気持ち悪いとか、考えたことが無かったからだ。


なので少し想像してみた。


「う~ん。わかんない。魔物のことを、本でしか知らないから。でも私はドラゴンが素敵だと思うの。本で見たオーガの戦士も強くてかっこ良かったし。あのね、ジマーマンのお義父様はオーガの様に強いの。だからもしジョコボがゴブリンの子供だったとしても、わたし気持ち悪いとか思わないと思う!」


考えていたら楽しくて、ドラゴンに乗る自分を妄想しながら、モリリナもお菓子をモシャモシャ食べる。


「なんでゴブリンなんだよ。俺だってドラゴンとかかっこいいのがいいに決まってんだろ」


ジョコボがぶつぶつ言っていたが、声が小さくて聞こえなかった。


「え? なんて?」


「ちぇっ。なんでもねぇよ。俺は行くぞ。認識阻害の魔道具付けてるから見えないだろうけど、だいたい側にいるから、用があったら呼べ」


ジョコボはそう言うと、モリリナのチョコレートを全部ポケットにしまってベランダからスルッと出ていった。


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