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42.父との再会

昨日の話し合いの後、セシルは部屋を出て行ってから、モリリナの前に顔を出さなかった。


次の日マリアと2人で王城の馬車に乗る時も周りを見回したけれど、

どこに居ても見つけられるセシルの綺麗な銀色の髪の毛を、見つけることは出来なかった。


「怒っちゃったかな」


タウンハウスに向う馬車の中で呟く。


「大丈夫ですよ」

マリアはそう言うし、モリリナもセシルがそんなことで自分を嫌いになるなんて無いとわかっている。

拗ねてるだけと知ってるけれども、気分は冴えない。



馬車は朝のまだ空いた王都の道をすいすいと進み、あっという間にラベンロッド家のタウンハウスに着いた。


今朝、帰宅の知らせを出したのだけれど、急だったからきっと戸惑っているだろう。

不安と期待で胸がドキドキした。


玄関の前に乗り付けた馬車の窓から、出迎えのために家の前に出てきた執事のポアロとその後ろのラベンロッド伯爵が見えた。


自分で馬車のドアを開けて、ピョンと飛んで降りる。


「モ、モリリナ様!」


マリアの焦った声が後ろから聞こえたが、かまわずに父に向って走る。


「お父様!!」


走って来るモリリナを見て驚いている父親に思いっきり抱きつく。


「モ、モリリナ?」


一瞬戸惑ったラベンロッド伯爵だったが、抱きつくモリリナを見下ろし、何とも言えない顔になる。

眉が下がり、口がへの字になりブルブル震えて瞳に涙が溢れた。


「モリリナ。おかえり」


父親に苦しいくらいに抱きしめられた。

会いたかった。と言われて見上げた顔に、父の目から落ちた涙が降って来た。

口に入って少ししょっぱかった。


驚いた。


父が泣いているのなど初めて見たし、それが自分に会えたからだなんて。 

きっと、とても心配してくれていたのだ。

じわじわと嬉しい気持ちが湧いてきて、モリリナの目からも涙が出た。



ゴホン。


ゴホン。ゴホン。


しばらく抱き合っていた2人に執事のポアロが咳払いする。


「旦那様。お嬢様、中に入りましょうか」


「あ。ああ。そうか。うんそうだな。モリリナおいで」


「は、はい」


照れ臭そうに少し顔を赤くしたラベンロッド伯爵の後から家の中に入る。


「モリリナ様、おかえりなさいませ」

ニコニコしたポアロに言われて、帰ってきたんだなと実感した。




家族用のサロンでラベンロッド伯爵は、ポアロの淹れてくれた紅茶を飲む娘をジッと見ていた。


「大きくなったな。顔も、変わった、か?」


「え?」


「随分変わったような気がする」


そんなことを初めて言われて少し戸惑う。


「背は伸びたけれど、顔はそんなに変わってないと思うけれど」


モリリナを見てポアロも頷く。


「はい。背が伸びられて、少し大人になられました。顔は、そうですね、可愛いから美しいへと変わりつつあり、この先が楽しみではありますが、顔が変わったというのとはまた違うかと......」


「そ、そうか?」


なぜか動揺するラベンロッド伯爵が何が言いたいのかわからなくて、ポアロと顔を見合わせる。


「ま、まあそれはいいとして。モリリナは今年は領地に一緒に帰れるのだろう? 皆会いたがっているんだよ」


「はい。お父様と一緒に戻るつもりです」


「そ、そうか! 久しぶりの領地だな。だいぶ発展したから、驚くかもしれないよ」


モリリナと帰れることをラベンロッド伯爵は嬉しそうにしている。





王都を出るのは5日後ということだった。




◆◆◆◆◆




王都での5日間は忙しかった。


今の自分の体に合う既製品のドレスを急いで何枚か揃えた。


ウィル王子との打ち合わせもあった。


そしてセシルに毎日会いに出掛け、


王都最後の日には、少し病み気味のセシルに部屋に閉じ込められて、グレンに救出された。


「モリリナ。僕は君をいつも想っているよ。忘れないで!」


グレンに拘束されているセシルの頬にキスをする。


「忘れるわけないよ! わたしも大好きなんだから」


「寂しいよ......胸が張り裂けそうなんだ......」


下を向いて黙ってしまったセシルに、どうしていいかわからなくて黙ってしまう。


「モリリナ、何かあったら助けに行くからな」

グレンがそう言い、セシルを肩に担ぐ。


「ほら。馬車に乗って。またな。それと、1人でも稽古は続けるようにしなさい」


いつまでも続く2人の別れにグレンは飽きたのだろう。


「はい! お義父様もお元気で。それでは」


ペコリとお辞儀をして別れを告げる。


グレンの肩に担がれたセシルがジタバタしていて気にはなったが、そのまま馬車に乗る。


別れるのはとても寂しくて、胸が痛かったけれど、今はしなければいけないことをしようと頬っぺたをパンパンと掌で強く叩く。


「泣かない!」


泣きそうだったので気合いをいれたのだ。




◆◆◆◆◆




領地までの父と2人の旅は、楽しかった。


ラベンロッド伯爵は、娘と会えなかった時間を取り戻すかのように、途中の町での滞在を増やして色々なものをみせてくれた。


サーカスの来ている町や、

天文台のある町、

競馬場のある街、

祭りをしている町があればその見物に滞在した。


普通なら2週間の道のりを、3週間と少しかけてラベンロッド領都ロックに着いた。


3年半ぶりに帰るロックは思ったより変わっていないように見えた。


賑やかな港町。


大好きな故郷だ。


ラベンロッド伯爵は、あれがうちの商会だよ。とか、

あのカフェは流行っている。とか、

あそこの料理屋はうちが出しているんだよ。

あの図書館を新しく建てたんだよ。


モリリナの知らない街の新しい所をたくさん教えてくれた。



ラベンロッド城へ着くと、ずらっと並んだ使用人達が当主を出迎える。


そして、その奥には祖父母と母ジーン、アマリリスが2人の到着を待っていた。



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