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4.スラムの男の子

その日モリリナとアマリリスは、父のラベンロット伯爵に連れられて、生まれて初めて王都の商業街へ出た。

今まで領地への行き帰りに馬車の中から眺めるだけだったのだ。


母ジーンの誕生日が近づいているので、アマリリスが贈り物を自分で選びたいとしつこくねだって、父が根負けしたのだ。

この国の誕生日の風習はほぼ無いに等しく、特に何もしないことも珍しくはない。


ラベンロッド家の子供達の場合は、自分達で描いた絵を送ったりピアノで曲を弾いたりと小さな子供らしい贈り物をしていた。

お金もないのにプレゼントをどうやって買うのだろうとモリリナが思っていたら、父が 「これで贈り物を買いなさい」と2人にお金をくれた。


馬車に乗り、領地の行き帰りでは通る事のない中心部へ入る。

大きな商会が並ぶ大通りは賑やかで、たくさんの馬車や人々が行き交っていた。


馬車溜まりで乗ってきた馬車から下ろしてもらう。


「今日はタマキ商会で買い物をするだけだが、迷子にならないように。自分の侍女と手を繋いでいなさい」


「「はい!」」


「うん。良い子だ。そうだ、この大通りを脇道に入ると、小さな商店が沢山あるんだよ。もう少し外出に慣れたらそっちも連れてきてあげよう」


父親に侍女と手を繋ぐように言われ、マリアと手を繋ぎ歩く。

モリリナはちょっと不安でギュッと強く握ってしまった。


「大丈夫ですよ。マリアは絶対にモリリナ様の手を離しません」

マリアが優しく笑って言ってくれたのでホッとした。


横にいるアマリリスも侍女と手を繋いでいるが、キョロキョロしている目がギラギラしていて、なんとなく嫌だなと思った。


ラベンロット伯爵家の御用達の商会に入ると、到着を待っていたらしく即座に出迎えられそのまま応接室に通される。


「ようこそいらっしゃいました!お嬢様方、これは隣国から最近届いたばかりのお菓子なんですよ。どうぞお食べになってみて下さい」


支配人のおじさんが勧めてくれたそのお菓子は、花の形の白い石みたいだった。

口に入れてみるとあっという間に溶けてなくなる。甘くてお砂糖みたいな味ですごく美味しい。

止まらずパクパクと食べるモリリナ。


「和三盆......」


アマリリスがボソッとなにか言ったけど、モリリナは無視した。


その後、皆で店内を見てまわる。


沢山の物があり目移りしたが、モリリナはガラスの7色の小鳥のペーパーウエイト。

アマリリスはピンク色の柔らかいショールを選んだ。


綺麗に包んでもらい、父から貰ったお金で払う。


「お父様、ありがとう」


お釣りが沢山余ったので父親に返そうと差し出す。


「お釣りは貰ってもいいよ」


「えっ!いいの?」


「ああ。次来たときに使いなさい」


「わぁ。ありがとう!」


モリリナはポシェットに大事にしまう。また連れてきてもらえるのがとても楽しみだ。


初めての買い物はとても楽しかった。


「だいぶ時間が余ったな」


ラベンロット伯爵が懐中時計を見て、これからどうしようか迷う素振りを見せると、買い物の間付いていた支配人が話しかけてきた。


「伯爵様、それでしたら近くに最近とても流行っているカフェがあります。そこで休憩などしてみるのはいかがですか?コーヒーという南国から来た新しい飲み物と、揚げた甘いパンが人気なのです」


「へぇ。よし行ってみよう」


支配人が勧めるカフェに行くことになり、マリアと顔を見合わせて喜ぶモリリナ。


商会を出て路地を入ってすぐの流行りのカフェは、とても混んでいて賑やかで、モリリナの飲んだ甘いミルクティと揚げた甘いパンも美味しかった。


だが人が多くてあまり落ち着いて過ごすことは出来なかった。


「混んでいて少し落ち着かないね。でもこのコーヒーは気に入った」


そうとう気に入ったようで、父親はカフェの店員にお土産用のコーヒー豆を手配させている。

入れるのに必要な道具も屋敷に届けさせるようだ。

お茶にこだわりのない父親のそんな姿は珍しく、モリリナは興味をひかれる。


「どんな味なのお父様?」


「とても良い香りだよ。味は苦いのだけど少しミルクと砂糖を入れると飲みやすくなる。ジーンにも飲ませたくてね。それに領地のお祖父様にも好きそうだから買って帰るよ」


「私も飲んでみたい!」


「では屋敷に帰ったら飲んでみなさい。モリリナはミルクと砂糖をたっぷり入れたら飲めると思う」


「やったぁ。楽しみです!」


父親とそんな話をしていると、アマリリスのお花を摘みに付いて行っていたはずの侍女が、真っ青な顔で1人戻ってきた。


「だ、旦那様。アマリリスお嬢様が居なくなってしまいました」


侍女は動揺してガタガタ震えている。


アマリリスはいきなり侍女の手を振り払うと、走って人混みに入っていってしまったらしい。

もちろん追いかけたのだけれども、大人達の中に紛れてしまい見つからなかったようだ。

可哀想なほど震えて怯え、泣き出しそうな侍女を連れて急いで店を出る。


「警邏隊にも連絡を!私達はアマリリスを探す。侍女達とモリリナは屋敷に戻りなさい。戻ったら、ポワロに話して屋敷の兵も捜索によこすように手配させろ!」


大変なことになった。


どう考えても自分で逃げたしたのではないかと思えるのだが、アマリリスは何を考えてるのか。

モリリナは突然の事態に混乱して頭が回らないまま、馬車に乗せられて屋敷に向かっていた。


街に出たとき、ギラギラした目でキョロキョロしていたアマリリスを思い出す。

きっと逃げ出す機会を窺っていたのだ。


屋敷に戻り、執事のポワロが捜索隊を街へ送る。


母親は知らせを受け倒れてしまったので、モリリナは母の枕元に付き添っていた。


ジリジリと時間が過ぎる。


そして夕方になり、このまま夜になってしまったらまずいと皆が思い始めた時、アマリリスが見つかったと連絡が来たのだった。



屋敷に帰ってきたアマリリスは全く悪びれた様子もなく、なにかやりきったかのように満足気で、なぜか街のスラムの男の子を1人連れていた。


「この子は私の執事にするわ!」


そう言ってニヤニヤ笑うアマリリスの高揚した姿は、モリリナには異常に思えたけれど、両親や屋敷の皆はアマリリスが無事だった事をただただ喜んでいた。


もちろん厳しく叱られていたし、罰として10日間の間は部屋を出ることを禁じられた。

だがモリリナからみると何も反省していないようだったし、なんなら心配する周りを内心少しバカにしているようにも思えるのだ。


なぜ皆わからないんだろうと、疑問だった。


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