34.ジミーの涙
モリリナの知らないうちに、セシルがジミーと仲良くなっていたようだ。
グレンの稽古を終え、温泉で汗を流して小屋に帰る途中、
下の牧草広場で2人がしゃがんでなにかをしているのを見つけた。
急いで下に降りて2人のところに行くと、ジミーのために花壇を作ってあげるらしかった。
「お花の種あったの?」
「あ、私がいつか花が見たくて集めていたのがあるんです。それをセシル君が育ててくれるって」
「ほぉ!」
石で囲まれた小さな花壇に、芽がたくさん出ている。
「ジミー、もうちょっと成長させる?」
「あ、それは、いえ。咲くまでの過程も見たいのでこれで。でも枯れそうになった時に助けてもらえたら嬉しいです」
「ん。いいよ。水やり忘れないでね」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
ジミーが嬉しそうでホッコリする。
「セシル様ぁ!!」
セシルを呼ぶ大きな声がした。
チェリーが笑って手を振りながら駆けてくる。
なんだか久しぶりに会うなぁ、とモリリナは思った。
「チェリー」
ジミーがひきつる。
「モリリナとジミーはここにいて。僕が話すから」
セシルがチェリーの方に歩いていく。
ちょっと離れてしまって何を話してるか聞こえない距離だ。
モリリナは気になって、2人をジッと見てしまう。
前歯が欠けていることなど気にしていないのか、チェリーは満面の笑みで何か一生懸命セシルに話している。
抱きつこうとしたチェリーをセシルはサッと避ける。
あれ? っと不思議そうにするチェリーにセシルが何か言ったようで、
チェリーの顔が固まる。
何を言われているのか、どんどん顔色が悪くなっていった。
チェリーの顔は血の気が引いて真っ白で、表情が無くなった。
モリリナの胸がギュウッと痛くなる。
セシルがこっちを振り向こうとしたのでとっさに下を向く。
顔が上げられないモリリナを、近付いてきたセシルが抱き締める。
「モリリナ」
「うん」
モリリナもセシルに抱きつく。
どうして皆が幸せになることがないんだろう。
誰かが幸せになると、
他の誰かは泣いていて、
いつだってそうなのだ。
「チェリー!」
ジミーがチェリーに駆け寄って、おずおずと肩に手を置いて、慰めているようだった。
「うるさい! 裏切り者!」
強く突き飛ばされて、ジミーは転んでしまう。
チェリーは助け起こすこともなく走り去る。
本当に嵐のような女の子だ。
迷惑な子だけれど、モリリナは彼女がなぜか嫌いになれないのだ。
ジミーは地面に座り込んだままで、ずっと下を向いていた。
あんまりにもずっと動かないので、心配になって声をかけた。
「ジミー? どこが痛くした? 大丈夫?」
モリリナに話しかけられて顔を上げたジミーは、声を出さないまま、いっぱい泣いていた。
「チ、チェリーが好きなんだ。元気で、可愛くて。チェリーは私を全然好きじゃなかったけど、それでも、一緒にいたくて。好きで。好きで、嫌われてるのに、付きまとって。子供の頃からずっと......好きで......」
吐き出すようにチェリーへの想いを語る。
声を一切出さないジミーの泣きかたは、とても苦しそうで、
彼の叶わなかった恋が、
終わったことを感じさせた。
モリリナとセシルは、泣き続けるジミーの側に付いていた。
それで少し泣き止んだら、セシルがジミーを温泉に連れていった。
2人で長々と帰ってこなくて、変だなと思っていたら、グレンがのぼせて倒れていた2人を運んで来た。
ジミーがお風呂の中でも泣き出して、付き合っていたらのぼせたらしい。
その日、ジミーは小屋に泊まったのだけど、余分なベッドがなくて、
セシルと2人、二段ベッドの上段でくっついて寝たみたいだった。
モリリナはセシルしか好きになったことが無いので、失恋の痛みを知らない。
だけど、もしもセシルを失ってしまったら。
そう思うと、
想像しただけでゾッとする。
チェリーも今頃どこかで泣いているのだろうか。
誰か側で、支えてあげているのだろうか。
かなり短くなってしまったので、追加でもう一話(18:00予約で)




