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3.家庭菜園

アマリリスが目覚めて1月が経った。


記憶は戻らないままだったし、そのせいか少し性格が変わったようではあった。

いきなり突拍子もないことを言い出したりして皆を驚かせたりしながらも、明るく可愛らしい所は変わらなかったので、今では皆にアマリリスとして受け入れられていた。


モリリナはあの後何日も泣き続けて目をパンパンに腫らし、何度か引き付けをおこしたし、食事も殆ど取れなくなった。


そして少しずつ本当のアマリリスはもう戻らないと受け入れた。


本物は階段を落ちたときに死んでしまったのだと思っている。


そして今いるアマリリスは、違うアマリリスなのだ。


それを子供の柔軟さと、諦めの心が受け入れた。


だが受け入れたはしたが、前のように愛してはいなかったし、これから先も愛せないだろうと感じていた。




今日も午前中の勉強を終えたアマリリスは、自分の専属庭師として雇ってもらったジダンと家庭菜園を楽しんでいた。


なぜアマリリス専属庭師かというと、庭師のペーターが伯爵家の庭を野菜畑にすることを断固として拒否したからだ。


この家の庭は先代の伯爵が愛する妻が病気になった時に、少しでも心が安らぐようにと自ら設計し、ペーターと共に作り上げたものだ。

今は領地にいる先代夫婦は年に1度王都にやって来る。

その時この庭を夫婦で散策するのをとても楽しみにしているのだ。


そんな事情を話したのだが、アマリリスは納得せず、


「花より団子! 野菜作りは定番!」


とよくわからないことを言い、意見を曲げなかった。

結局、庭の隅っこをアマリリス用のスペースとし、新しく専属の庭師を雇うことになったのだった。



モリリナが庭の散歩のついでにアマリリスの家庭菜園をのぞくと、植えられた葉っぱは虫食いが酷くて食べられそうには思えなかった。葉っぱというより、もはや茎だった。


虫は苦手だ。


元のアマリリスはもっと苦手で、虫大嫌いだったな、と思い出す。


「虫が一杯ついているわ」


日焼け防止のためなのか、顔や首に布切れをグルグル巻きにしたアマリリスに声をかける。


「あらモリリナ。菜園に来るのは珍しいわね。ここは無農薬でやってるから虫は仕方がないのよ」


「これ、食べるの?」


「ええ。もちろんよ」


食べるのやだな。と思ったが、

このアマリリスは人に反論されると物凄く絡んできて面倒なので取りあえず頷いておく。


「サラダにいいわ。ビタミンよ」


ビタミン?何を言っているのかわからないが、これも頷いておく。


「お嬢様、持ってきました」


ジダンが何か重そうなバケツを持ってフラフラ近づいてきた。


酷く臭う。


嫌な予感がした。



「それは何?」


「馬糞よ。桶に溜めて日向に置いて泡が沸くまで発酵させたの。良い肥料になるはずよ」


「え? それを撒くの?」


「ふふっ。モリリナは知らないでしょうけどね。野菜を美味しく作るのにこうするのよ」


絶対に嘘だ。第一、ここまで臭い肥料なんてあるのだろうか。

目に染みるほど臭いのに何を言っているのか。


「で、でもサラダにするとか言ってたでしょ?」


「ああ。ふふふ。洗うから大丈夫よ。普通のことだから」


信じられない思いで、ジダンを見るとサッと目をそらされた。


「そ、そう。......じゃあ、私は用事があるから行くわ」


「あら、たまには手伝えば良いのに! 楽しいわよ!」


「また今度......」



アマリリスの菜園から離れると、急いでペーターを探す。



反対側の庭の生け垣を動物の形に刈っているペーターを見つけて駆け寄る。


どうやらモリリナの好きな犬を作ってくれているようだ。

お座りしてる子と、走り回ってる子、2匹の犬がじゃれ合ってる子。


すごく可愛い。


「ペーター!!」


「モリリナお嬢様、どうしました?走るとまた転びますよ」


「ペーター! 大変なの! 緊急事態!」


ペーターにさっき見たことの一部始終を話す。


「でね、その堆肥とやらが目に染みるほど臭くて、食べたら死ぬと思うの」


ペーターは白い顎髭を撫でる。考え事をする時の癖なのだ。


「ふーむ。家畜の糞や雑草やら藁やらを混ぜて発酵させる堆肥は確かにありますよ。ですが、そこまで臭くなかったはずだが......その撒こうとしている堆肥はワシがこっそり様子を見てみて、危なそうならどうにかします」


「どうにかって?」


「まぁ、ワシがどうにかしなくても、その堆肥とやらがモリリナお嬢様が言うような状態なら、そいつをかけられた野菜は枯れちまいますよ」


「そうなの?」


「はい」


「そうか。よかったぁ」


ほっとして2人で笑い合う。



「ねぇ、このワンちゃん可愛いね」


犬の生け垣をさわる。


「モリリナお嬢様は喜んでくれて嬉しいのぉ」


「当たり前じゃない! だって可愛いもの!」


「アマリリスお嬢様にもお好きなリスの生け垣を向こうの菜園の近くに作ったが、全然気付かなんだ。もう、そういうのに喜ぶお歳ではないのかと寂しかったが、モリリナお嬢様が喜んでくれるなら作って良かったです」


「......アマリリスは...ちょっと変わったから」


「寂しいですね」


「うん......」


その後ペーターに追加で犬の生け垣を更に4つ増やしてもらい邸に戻った。





家庭菜園の虫食い葉っぱは堆肥に負けて枯れた。

アマリリスには悪いけど、良かった。


その話を聞いたとき、ホッとして少し笑ってしまっていたみたいでアマリリスにギロッと睨まれた。


怖かった。


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