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27.岩壁の中

誤字報告ありがとうございます!

王都の後方には岩石で出来た山々が山脈のように連なっている。

そのうちの1つが目的地だ。

岩だらけの大きな山は、アドリレナ王の聖域として守られ入山禁止になっていた。


「ここか......?」


ゴツゴツした岩の道を馬を引いて登り、いきなり現れた巨大な岩壁。


その岩壁のでこぼこで影になっていて、わかりにくい所にそれらしき小さな割れ目があった。


グレンがギリギリ通れるくらいの細い隙間だ。


「これはどうみても割れ目だよね」


「ほんとうにこれなの? ただ割れてるだけなんじゃ」


「たぶんここだろ。ほら、割れ目を死角にするように小屋が建ててあるだろう? これが護衛小屋だとすると、やっぱりこの割れ目から中に入るんじゃないか?」


ルイの推測に、岩壁の強度を確かめるように触っていたグレンが同意する。


「おそらく殿下の言う通りでしょう。セシル、中を見てこい。俺は殿下から離れるわけにはいかないからな」


「わかった」


「セシル、わたしも行くわ!」


「モリリナ様ダメです!」

マリアが止めるが、セシル1人で行って何かあったらと思うと、不安で側にいたかった。


「モリリナは待ってて。きっと一人の方が身軽に動き回れるからね。大丈夫、何があっても僕は戻って来るから」


「モリリナ、セシルは大丈夫だから。君はここに俺達といるんだ」


「お義父様......」


「セシル、中で迷うかもしれないから印を付けながらいけ」


「わかってます」


セシルはグレンにモリリナの事も守るように頼むと、ルイを見て、笑い頷く。


「セシル頼んだ」


「まかせてよ」


彼はそう笑って隙間の中にするりと入り込んでいった。





「まだかしら」


割れ目の前をちょろちょろ動き回り、中を覗いたり壁を触ったりしているモリリナを、面倒臭そうにルイがあしらう。


「さっきから何回同じことを言ってんだ。入ったばかりだろう。大人しく待ってろ」


「けっこう時間がたった気がするわ」


「気のせいだ」


「そう?」



モリリナはそわそわと岩壁の側をちょろちょろする。


「セシルがどこか他の隙間から出てくるかもしれないから、他にも割れ目がないか探すわ」


「好きにしろ」


「モリリナ様、あまり遠くへはいかないようにしてくださいね」






「セシルが遅いわ。中で何かあって動けなくなっているのかも」


「お前な、うるさいよ。あいつさっき入ったばかりだからな!」


ルイは呆れてちょっと怒るが、今回の旅でけっこう図太くなってしまったモリリナはなんとも思わなかった。


「そう? なんだがセシルがいないと時間が長く感じるのかなぁ」


「モリリナ様、セシル様を信じて待ちましょう」


「マリア。うん。そうね大丈夫よねセシルだもの」




そうこうしているうちに、割れ目からひょこっとセシルが顔を出す。


「セシル!!」


駆け寄るモリリナ。


「石屑とか砂まみれになっちゃったから、モリリナを抱き締めれなくてつらい! あ、ルイ、やっぱりここみたいだよ。奥の方に寝泊まりする部屋があって、奥にたぶん聖域に続いてるらしき階段があった。僕は資格が無いから降りてはいないけど間違いないと思う」


「そうか! やったな! とうとう来たんだ!」


目をキラキラさせてルイが叫ぶ。


そうだった。

ここが目的地で、ここへ着いた。

旅が終わったのだ。


無事に着けてよかった。

嬉しそうなルイに、自分まで嬉しくなってしまう。


これからルイは、女神さまに祈るのだ。

それがどのくらいかかるかわからないけれど、出来るだけ助けになりたいと思う。


聖域まで行くのはダメだが、途中の小部屋まではモリリナ達も入っても良いというので、皆で岩壁の中に入ってみる。

外から見るとわからなかったが、光苔がびっしりと生えていて内部は仄かに明るかった。

そして人が1人通るのがやっとの狭い通路の先に、小さなドーム状の小部屋があった。

一番奥にずっと下まで続く階段があるので、そこが聖域まで続く階段なのだろう。

部屋の隅っこに小さなベッドが1つ。そのベッドの反対側のボロボロのドアをモリリナが開けてみたらトイレだった。トイレの穴を覗いたら、底が見えないくらい深くて少し怖い。




「これしかないのね。......セシルを待つ間とても長く感じたけれど、中がこんなに狭いのだったらもしかしてルイの言った通り、そんなに待ってなかったのかも」


「だからそう言ってるだろ!」


「ルイ、モリリナを怒鳴らないでよ」


「う。モリリナ、怒鳴って悪い」


「ううん。わたしこそさっき信じてなくてごめんね」


「お前やっぱり信じてなかったのか!」


「ルイ! 怒鳴るな!」


「す、すまん」


「いいよ! これからこの小部屋をみんなで掃除するんだよね?」


「あ、ああ。......いや、違う。ここは俺1人でやるからいい。そんなに汚くもないしな。それよりお前らは外の護衛小屋を点検して住めるようにしないと」





護衛小屋は、ギアデロ王が時々点検してくれていたので、痛みも殆どなく軽く掃除をするだけで良さそうだった。


小屋には小さい寝室2つと、小さな台所、居間があった。

寝室は、グレンとセシル、モリリナとマリアで使うことにする。


「お手洗いとお風呂はどこかな。ルイの所にもお風呂は無かったけど」


「モリリナ様、お手洗いは外にありましたよ」


どれどれ。と見に行くと、ルイの所と同じようなトイレが小屋から少し離れた陰にあった。


「あら。外なのね。じゃあお風呂は水を汲んできて体を拭くのかな。水場を探さないと」


「お掃除にも水は必要ですしね。井戸が無いか探してみましょう」


マリアと2人で小屋の周りを歩き回っていると、岩壁の向こうからセシルが走って来た。


「モリリナ! あっちに行くと、この岩壁を登れる道があるんだ! 上には温泉があったよ!」


セシルと手を繋いで岩壁の道を走って登る。


「わぁ! すごい!」


そこにあったのは岩山の斜面をくり抜いて作られた大小さまざまな穴だった。

本で見た棚田とかいう外国の畑に似ている。畑じゃなく湯穴だけど。


一番上の穴から湯が湧いているようで、そこから流れ出した湯が下の穴を満たし、溢れた湯がまた下の穴を満たす。

上手い具合に傾斜がつけられていて、湯が満ちていない穴は無い。


「一番上が物凄く熱くて、下にいくほど冷める。ほらこの穴はちょうどいい温度だよ!」


「わたし初めて温泉を見たわ。思っていたほど臭いがないのね」


「そうだね。ほぼ無臭だ。代々のアドリレナ王が使っていたんだ。有害なガスも少ない場所なんだと思うよ」


「王様を危険な所に住まわすわけにはいかないものね」


「そういうこと」


その後はルイは岩壁内の小部屋の掃除、グレンは入り口を守りながら小屋周りの片付け、

セシルとマリアは街に買い物に出た。

モリリナは小屋の中の掃除だ。


本当は街に行ってみたかったけれど、セシルとモリリナの2人だと、のんきに観光しそうだとルイが反対して、今回の買い物にはマリアが同行することになったのだ。


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