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26.旅とモリリナ

途中、山賊とか盗賊とか強盗とか獣とか、ちらほら出た。


鬼神グレンの呼び名を持つ、ジマーマン侯爵がいるのでなんの問題も無かったけれど。


モリリナは旅が性に合っていたようで、見るもの全てが楽しくて、

お風呂にはいれない日も、食事が干し肉だけな日も嫌だとも思わなかった。



野宿の日は、セシルと毛布にくるまって満天の星を数えた。


朝日と共に目覚めて、

夕日で真っ赤に染まる荒野をフライに乗って駆ける。


山の中で急な嵐に見舞われ、避難した洞窟から3日間出れなかった時も、嵐の激しさに洞窟が崩れたらとドキドキはしたが、苦にはならなかった。


兄貴肌のルイとも相性が良かったようで、すっかり仲良くなった。


屋台で売っている他国の謎の食べ物も、マリアの目を盗んで、セシルとルイと3人で挑戦した。

お腹を壊すこともなくて、美味しくて夢中になった。

それからは、知らない食べ物を見つけたら、3人で必ず試した。


自国アドリレナの国境を越え、他国を3つ抜ける。

だんだん周りの景色が変わっていった。


草原から荒野へ。


そして火山地帯に入る。


遠くにいくつも火山の噴火の煙が見え、見渡す限り岩山と石だらけ。

そこが火山と鉱山の国ギアデロだ。


アドリレナを出てから2か月。一行はようやくギアデロの王都に入った。


「本で読んだ通り! 建物が石造りだわ!」


ギアデロの王都に入り、物珍しさにキョロキョロするモリリナと、そんな彼女を楽しそうに見つめるセシル。

二人の前にはルイが同じく物珍しそうにしながら歩いている。


先頭はグレンで、一番後ろはマリアだ。


「そうだね。ここ以外の集落は、岩壁に穴を掘っただけの家が主流だよ」


「ギアデロは王都以外は、小さな集落が点在するだけだと書いてあったわ」


モリリナとセシルの話に前を歩いていたルイも加わる。


「鉱山から出る様々な鉱物目当てにギアデロ人は移動するからな。小さな集落といっても俺達の国にあるような村とか街とは違うんだぞ。一つの集落に一生定住することはない」


「色々な土地を移動しながら生きるのかぁ」


「この国で人が安心して住めるのは、地盤が安定していて、気候も比較的変動が少ないこの王都付近だけだ。ギアデロは厳しい環境のせいで人口も少ないが、豊富な鉱山資源に、工芸品や鍛冶技術は群を抜いている」


「素晴らしい物がたくさんあるのよね! 楽しみだなぁ。ルイが滞在するのも王都になるの?」


「王都の近くにアドリレナの王位継承者が加護を授かる聖域のようなものがあるらしい。ギアデロの王が管理してくれているんだ。今から王に挨拶に行って、入る許可を貰う」


「わたし達もその聖域に住むことになるの?」


「いや。俺1人だ。俺は加護を得るまで1人聖域で女神に祈るんだ。近くに護衛用の小屋があるらしいからお前らはたぶんそこだな」


「ルイとあまり会えなくなるの? 何か月も毎日一緒だったから少し寂しく感じそう」


「モリリナには僕がいるから寂しくなんてさせないよ! それにそんなことを言うとルイが勘違いしちゃうからダメだよ」


セシルがすかさず口を挟むが、ルイは肩をすくめ目をグルグル回した。


「毎日毎日うんざりしてうんざりしてうんざりするほど目の前でいちゃつかれてんだ。そんな勘違いするわけないだろ。それに俺はもっと女の子らしい子がいい!」


「モリリナは世界で一番の女の子だぞ! ルイ、取り消せ!」


「セシルいいから。わたしはセシル以外には男の子だと思われてる方が気が楽みたいなの。このままギアデロでは男の子のふりをするわ」


「僕はどのモリリナも最高だと思う!」


「ありがとう。でもセシルの方がずっとずっとステキな人だわ」


「ほんと勘弁してくれ。あ!ほら、王城が見えてきた。でかいな」


馬を引いて歩きながら街を眺め、3人で話をしていたらすぐに王城についた。

ゴツゴツした、武骨で巨大な岩城だ。

グレンが門番に声をかける。


王に会いに来ることは事前に報せてあったので、すぐに中から迎えの人が出て来た。

王に会うのはルイだが、護衛のグレンも付き添う。


2人を待つ間、セシルとモリリナ、マリアの3人は控えの間に通された。


「部屋の中も石なのね。壁も床もツルツルに磨いてある!ギアデロは暑いから、ひんやりしてて気持ちいいわね」


思わず壁を撫でてしまう。冷たくて火照った体の熱を下げてくれそうだ。

柱に抱きつく。

セシルとマリアしかいないから今だけだ。


「モリリナ様、お行儀が悪いですよ」


「はーい」


セシルはクスクス笑うだけだ。



トントントン



控え室のドアをノックされて、マリアがそちらに向かう。


「なんだろう」


「さあ?」


ドアの向こうの誰かと何か話していたマリアが戻ってきた。


「セシル様、ギアデロ王が会いたいと、お迎えの方がいらしてますが」


「えー? 僕? なんだろ」


「それが、若きジマーマンの才を借りたいと仰って、それ以上は向こうで話すからと」


「えー」


「ジマーマンの才? そういえばセシルにもジマーマン家の特殊な才能があるのよね? わたし忘れてて聞いてなかったわ」


「お嬢様......」


なぜ自分の婚約者のそんな大切なことを聞き忘れているのかと、マリアに呆れた顔をされ焦る。


「ふふふ。僕はモリリナのそういう所も大好きなんだ。ジマーマン関係なくただのセシルとして見てくれる。だから気にしなくていいんだよ。それについては後で話そう。その前に面倒だけど、この国にしばらく住むことになるし、王の話を聞いてくるよ」


離れるのが久しぶりすぎてつらい!と言いながらモリリナを抱き締めて、すぐ戻ってくるよと耳元で囁く。

そうしてセシルは名残惜しそうに部屋を出ていった。


モリリナがソファーに座ると、

部屋に用意してあったティーセットで、マリアがお茶を煎れてくれた。

お菓子はプチケーキを頂く。


「セシルの才能ってなんなのかしら。グレン義父様は強いことよね。でもセシルは体も細いし。あまり武術は得意じゃないって前に言ってたわ」


「そうですね。文系なのでしょう。私も詳しくは知りませんが、親と子が同じ才能をもって生まれることはないらしいですよ。グレン様が仰ってました」


「ふぅん」


プチケーキをパクリと頬張る。ナッツがたくさん入っていて美味しい!


「マリアも座って! このケーキ美味しいわ! 喉も乾いたでしょ?」


「いえ。旅先では仕方がありませんが、ここはギアデロ城ですからいけませんよ。私はモリリナ様の侍女です」


「そんなぁ。2人で食べた方が美味しいのになぁ」


「お気持ちだけ頂きますよ」


「ちえっ」


「モリリナ様。最近、ルイ殿下やセシル様の仕草や癖が移っていますよ。ご令嬢なのですから気を付けないと。舌打ちなんて駄目です!」


「はーい」


全くもう。とブツブツ言うけれど、マリアの顔はちょっと笑っていて怒ってなんかいない。

一応注意してるだけだ。


マリアはモリリナに甘いのだ。




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